二次元美少女と恋をしたいっ!←そんなことさせないですよ?

ハタケシロ

第15話 迷い猫

「柏木一緒に帰ろうぜ!」

「あん?なんであんたと帰んないといけないの?」

昇降口にいる柏木に声をかけると不機嫌そうな顔をしている柏木が振り向く。一瞬睨まれてビビったのはしょうがないだろう。

「ほら昼飯を一緒に食ってる仲だしさ」

「一緒には食ってない。お前が一人で霧咲を食ってるだけだ」

「霧咲は食べてないからな。弁当を食べてるだけだからな?」

「…………」

「その間は辞めろ」

「ていうか、私がいる場所にあんたたちが居るだけ。それに、なんでそれで一緒に帰るのかが分からない」

「え?違うのか?飯を一緒に食ったら、いや、食わなくても帰るもんだと」

ほんと不思議そうな顔をする柏木。

つか飯を一緒に食ったら普通一緒に帰るだろ。
まぁこれは受け売りだけど。美少女ゲームの主人公が言ってたし、桃も言ってた。
それに、桃なんかは飯を一緒に食ってなくても一緒に帰りたがろうとするし、霧咲もクラスが違うのに一緒に帰ろうとするぞ?いや同じ部活に入ってるからか。

「私はあんたとは帰らないから。それにあんた家近いんでしょ?」

スクバを片手で肩にかけながら言う柏木。
確かに家が近い俺が柏木と一緒に帰るのは不効率極まりない。けど、俺は直帰はあまりしない。いつもアニメショップとかアニメショップとかに行ってるから。桃とか霧咲と帰るときはたいてい寄り道するか、俺が近くまで送る。

「あんたは後ろにいるその二人と帰んな」

柏木は目線で俺の後ろにいる桃と霧咲をさす。

これもまた不思議なもんで、桃と霧咲は俺が柏木と一緒に下校するのについて行くと言った。心配だからとは言うが俺も立派な高校生だぞ?保護者はいらないのに。

「ダメですよ。今日は四人で帰りたいと……いえ、四人で帰らないといやなのー!四人一緒がいいのーと聞き分けがない事を陽向くんが言うので、ここはお願いしますよ柏木さん」

「そうですよ。陽向さんが両手に華か……正面が空いてるな……後ひとつくらい華が欲しいな……というので柏木さんも陽向さんのために協力してあげて下さい」

「おい、おまえら!お前ら俺の事やっぱ嫌いだろ!根も葉もないことをいいやがって!ほら見てみろ!ここまでドン引きしている柏木をいや、人を俺は見たことがないぞ!?やめろ柏木!少しずつ後ずさってこの場を立ち去ろうとするな!」

なんなの桃と霧咲?俺の事嫌いなの?
柏木と友達になるのに協力してくれると言った割には俺の好感度下げてませんかね!

「何言ってるんですかー陽向くん」

「そうですよ。陽向さん」

「「陽向くん(さん)のことが嫌いなわけ無いじゃないですか!!」」

「その笑顔が眩しい!」

眩しすぎて怖いくらいだ!

「じゃ、私はこれで」

俺は関わらないと決め込んでこの場を立ちさろうとしている柏木の腕を掴んで柏木を止める。
意外とというか普通に柏木の腕って細いんだな。

「待ってくれっ!一緒に帰ろう!」

「だから、そこの二人と」

「頼むって〜」

「はぁ。分かった。だから泣くなって」

ぼやけて見えた柏木はすごく男前に見えました。



「なんで今日はしつこく柏木さんを誘ったんですか?確かに一緒に下校してみてはどうですか?と提案したのは私ですけど。いつもの陽向くんなら引くと思ったんですけど」

下校途中、柏木と霧咲から少し離れたところで桃が聞いてきた。

「あぁ」

確かにいつもの俺なら速攻で引いていたかもしれない。柏木超怖いし。でも

「飯も一緒……の場所で食ってるしさ、そろそろ言ってもいいんじゃないかって」

「友達になろうってですか?」

友達になろう。確かにそれは言いたい。けどまずは前に桃が言った通り

「友人部に勧誘しようかなって」

「なるほど。いいかもしれませんね」

タイミング的にも俺はいいと思っている。
気の弱い(俺の前ではそんな素振りはあまり見せない)霧咲が今も柏木と並んで話しているし、最近は俺や桃とも昼飯を食ってる時に話している。
タイミングは今がいいだろう。勧誘するには。

「柏木」

前を歩いている柏木と霧咲に追いつき、柏木に声をかける。俺に振り向いた柏木は何故か不機嫌な顔になっていた。

「ど、どうした?」

不機嫌な顔=超怖い顔になっている柏木にビビったのはしょうがないだろう。

「陽向くんビビリすぎですよ」

うるさいぞ桃。

「あん?霧咲がちょっとな」

「霧咲がどうしたんだ?」

ちらりと霧咲を見る。
霧咲はとても幸せな顔になっていた。
柏木は不機嫌になっていて、霧咲は幸せな顔になっている……なんでだ?

「さっきからお前の話して止まんねぇんだよ。やれ、弁当を褒めてくれた、横顔がカッコイイだの」

「俺の話?」

「あぁ。もう、うぜぇくらいに」

霧咲が俺の話をする?
俺なんかを話題にしてなにが面白いんだよ。

柏木は不機嫌な顔からふと、ほんの少し柔らかい顔つきになる。そして、ちらっと霧咲と桃を見て言う。

「でもまぁ、仲がいいのは分かった」

「…………」

その一言はまるで、俺らのことを外野から見て言った一言だと俺は思った。

そして、柔らかい顔つきから寂しげな顔になる柏木。

今しか……ないな

「なぁ、柏木?」

「なんだ?」

言おう。友達はまだだめでも、外野から見る俺らじゃなくて、中から俺らを見れる関係になるように。

今のままでもいいかもしれない。けど、今の関係のままじゃこれ以上俺らも柏木もお互いに踏み込めない気がする。たかが部活でも、同じ部活に所属してるしてないじゃ違うと思うから。


「俺らの部活に入らないか?」

「…………」

間があく。さっきまで話していた桃と霧咲も話すのを辞めたせいか、あたりが静かになった。

俺を含めた三人で柏木の返答を待つ。

「私は……」

「おっ柏木じゃ〜ん」

柏木が返答を言おうとした瞬間、その声はいきなり現れた人物によってかき消された。

「木城……」

柏木がその人物の名前だと思われる言葉を呟く。

木城と柏木が呟いた人物を見ると、ニヒィとでも聞こえてきそうな笑みを浮かべ、柏木を見ていた。

そして、近くにいる桃と霧咲を見ると声を出す。

「おっなに?友達?お前友達いないって言ってたのにほんとは居るんじゃねーかよー。しかもどっちも可愛いし」

「いや、そいつらは」

「はい。友達ですよ。それが何か?」

柏木が否定しようとしたところを桃が遮る。

桃は柏木の前に出ると木城と対峙する。
木城は桃を見るとなにがおかしいのか笑い、声を出す。

「おっ気が強いね〜。そういう女は好きだぜ。いやね、まさか柏木に友達がいるとは思ってなかったからよ。本人もいないって言ってたし、なぁ?」

木城は柏木に同意を求めるように言う。
柏木は俯きがちにコクンと首を小さく縦に振る。

「いやでもまさか居るとはなー。てかほんとに友達?」

「と、友達ですよ……!」

木城の質問に今度は霧咲が答える。
体が少し震えながらも霧咲はハッキリと友達だと言い放った。

「ほーん。ほんとなのか?柏木」

霧咲の言葉を聞いてもなお、信じないのか、柏木に聞く木城。柏木は俯いた顔をあげて言う。


「そいつらは友達なんかじゃねーよ」



ーー長く感じる数秒だった。

俺でさえこれだ。桃と霧咲、あいつらは俺以上に感じたのかもしれないし、ひどく傷ついたかもしれない。

ここで何か言えば良かったのかもしれないが、桃と霧咲の顔、それに今まで見てきた柏木の表情のなかで、一番冷たい表情をしている柏木を見たら、俺は何も言えなかった。

このまま、永遠に静寂が続くんじゃないかと思った頃、この静寂を木城が破った。

「ハハハ!友達じゃないってよ、お二人さん!もしかしてあれか?自分は友達だと思ってたけど相手はそう思ってなかったってやつか?ハハハ、超残念なやつらじゃーん!」

あざ笑う木城の声が響く。
髪で顔が影になっているせいか、桃と霧咲の表情は見えない。それに、柏木の表情も。

「まぁ、気にすんなってお二人さん。あんたら可愛いんだから友達ならいくらでも居るし、作れるだろ?あっそうだ、俺とも友達になってくんね?」

そう言って、木城は桃と霧咲の腕を掴み強引に引き寄せようとする。

「……おい」

そうしようとした木城の腕を俺が掴む。

「手ぇ離せよ」

「あぁ?なんだ白髪の兄ちゃん?こいつらどっちかの彼氏か?」

「いや」

俺は冷静に言葉を返す。

「ならいいじゃねぇか!べつに変なことするわけじゃないんだし、ただ友達になろうってだけだぜ?それともあれか?正義の心が〜ってやつか?」

ハハハ
と汚い声で笑う。木城。


…………。


「いいから手ぇ離せって言ってんだろうがぁぁ!!」


木城の腕を掴んでる手に俺は力を込める。
なんてことはない。ただの握力自慢だ。

「い、いで、いっでぇー!!」

木城が痛がり、桃たちから手を離したところで、俺も手を離す。


「て、てんめぇ!!白髪っ!!」

「やるか?」

痛む腕を抑えつつ、俺を睨む木城。
俺も睨み返す。……ここは引くわけには行かない。

「……ちっ、ガキに熱くなってもしゃーねーしな」

そう言って、木城は俺たちの横を通り過ぎこの場を去っていった。見た目不良っぽい感じなだけに意外と冷静に対処したあたりすごいと思った。

「大丈夫か?」

俺は桃と霧咲に声をかける。
つかまれただけだから外傷とかはないと思うが、心とかその辺を考慮して声をかける。

「はい大丈夫ですよ。ありがとうございます陽向くん」

「私も大丈夫です。やっぱり陽向さんはカッコイイです!」

俺のことをカッコイイと言ってる時点で病院に行ったほうがいいのだが、これはいつも言っているので大丈夫だろう。……二人共、妙に頬を高揚させて目をキラキラにしてる気もするがこれは気のせいだ。

「柏木……」

俺はただ立ち尽くしている柏木に声をかける。
俯いていて顔が見えない。

「分かっただろ?」

「なにが?」

「なにがって、私がお前らのことを友達ともなんとも思ってねぇことがだよ」

「……」  

言葉が見つからない。

「だから、部活にも入んねぇ」

柏木は顔をあげ

「もう、私に関わるな」

と言って、俺たちから離れていった。



友達は作らない。

いや、作りたくない。

一人でだって私は生きて行ける。



「待ってたぞ柏木」

角を曲がったところで、さっき居なくなったはずの木城に出食わした。

「なんかよう?」

「あぁ」

ドガッという鈍い音、脳が揺れたのか目が回ったのか、私は視界が歪んで見えた。

そして、腹に走る強烈な痛み。

「さっきの白髪とやっても怪我するだけだから、代わりにお前で我慢するわ」

激痛が体中を駆け回り、その痛みを感じなくなった時、私は意識を失った。

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