ダークエルフさん、俺の家で和まないでください! ~俺はガチャを回しただけなのに~

巫夏希

第十四話 鍋を作りましょう(後編)

 鍋のスープがぐつぐつと煮立ってきた。

「なんだかいい香りがしてきたわね……」

 こたつに潜っているルイスからの言葉を聞いて、まだ俺は彼女が起きていることを知る。

「目をつぶっているからもう眠っているかと思ったぞ。お前は寝起きが悪いんだから、起こすのも面倒なんだ。だから出来る限り起きていてくれよ」
「それくらい、自分でも理解しているよ。だからなんとか起きているのだろう? まあ、もうそろそろ……限界もあるといえばあるが……」
「おい! やめてくれ、できることなら、もう少しだけ起きていてくれ……!」

 ルイスとの会話に興じているが、きちんと鍋の中身をチェックしている。当然だ。これで吹きこぼれてしまうのも面倒な話だし。それにもうそんな長くない時間で完成するだろう。
 そして春雨をぱらぱらと投入していく。次いで、白菜とキムチをあまり時間を空けずに入れていく。
 もう鍋の完成は目の前だ。
 そう思って――俺は鍋の蓋を閉めた。


 ◇◇◇


「ほら、ご飯出来たぞ。起きろよ」

 結局俺はルイスが熟睡する前に鍋を完成させることが出来なかった。
 ……しかしながら、結果オーライと言えるだろう。もし眠気無しでルイスが起きていたならば、空腹に耐えかねていた彼女からの「ご飯マダー?」コールが鳴り響いていただろうから。

「んむう……。もうご飯?」
「もう、じゃねえよ。腹減らせて俺に幾度となく飯を作れと言ったのはどこのドイツだ」

 まあ、きっと覚えていないだけなんだろうけどさ。
 とりあえず起こさないとそのコタツの上に鍋を置くことが出来ない。というか、鍋敷きすら置けない。

「ほーら、どいてくれよ。鍋敷きが置けないだろ」
「鍋……敷き?」
「今日は鍋だからな。そのまま置くと机が痛んじまう。だから鍋敷きを置いて、机が痛まないようにするんだよ」

 俺の言葉を聞いて、ようやく事態を理解したらしく、ゆっくりと起き上がった。
 その隙を狙って鍋敷きと鍋を可及的速やかに設置した。
 そして鍋の蓋を開けると――キムチのスパイシーでいい香りが広がる。
 鼻腔が擽られたのか、徐々に目が見開いていくルイス。なんというか、単純な女だ。……こういうと、何だか俺が悪役みたいに見えるけれど。
 鍋の具材とスープをある程度取り分けて、ルイスの目の前に置く。序でに茶碗によそったごはんも設置だ。
 俺の分も入れ終えて、沢庵を適当にカッティングしたやつを皿に盛ってそれもスタンバイ。そして席に座って、その時を待つ。
 さすがにその頃になればルイスも目を覚ましていて、両手を合わせていた。ご飯を食べる前の、ある言葉を言うための待機ということ。それは俺が一週間足らずで教えてやった。どうやらルイスのいた世界にはそんな風習無かったらしい。まあ、珍しいといえば珍しいのかもしれないが。
 そして俺も両手を合わせ――その言葉を言った。

「いただきます」

 その言葉を聞いて、ルイスもまたそれに合わせた。

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