ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

伽藍洞の心とリコレクション(中編)

「大丈夫、大丈夫だよ。リトは悪くない。君は悪くないんだ」

 気がつけば俺は泣いていた。
 祐希に一言でも言えなかった。
 祐希に一言でも謝ればよかった。
 でも、謝れない。
 謝る言葉が浮かんでこない。

「……いいんだよ。いつになっても、リト。謝る言葉なんて、そう簡単に見つかるわけがないんだから。見つからなくていい。遠回りしてもいい。それが人間ってものだから」
「うわあ……ああ……ずずっ……ああ……」

 俺は祐希の香りを感じながら、祐希の体温を感じながら、泣いていた。涙を流していた。
 我ながら恥ずかしい――そう思っていた。
 けれど、俺は泣きたかった。なぜだか、涙を流したかった。そしてそれを祐希も受け入れてくれた。

「リトは悪くない……。リトは悪くないんだ。今、色んな人が碧さんを探している。だから、気を落とさないで」
「そう。例えばこういう人間がね」

 その声は明らかに祐希のものではなかった。だから俺は即座に振り返る。
 そこにはひとりの女性が立っていた。それは全身を赤く染めた女性だった。正確には赤いシルクハットに赤いジャケット、赤いズボンに赤いネクタイ、唯一白いシャツをジャケットの中に着用している。因みに髪も赤い。長い髪を帽子に隠しきれていないように見える。それが女性のスタイルなのかもしれないし、それをどうこう言う立場でも無い。

「いやあ、お取り込み中申し訳ないね? ただ、話しておかなくちゃいけないことがあったわけで、君の場所を教えてもらったってわけよ」
「だとしても、夜音さん。きちんと玄関から入ってはどうですか? さすがに人の家に玄関以外から入るのもどうかと思いますよ」
「そうか? 別に玄関から入ったけれど、物静かだったからかな。んで、入ってみたらこういうふうにロマンスかましてるわけだからよ。ちょっとちゃちいれるのもなーって思ったわけだ。だろ?」

 乱暴な口調をする女性だったが、どうやら話している感じからして祐希と知り合いらしい。
 女性は俺の顔を見て鼻で笑い、話を続ける。

「まあ、なんというか……しみったれた顔してやがるな。ぶっちゃけあいつの頼みじゃなかったら聞かなかったレベルだぞ」
「そう言わないでくださいよ。で、来たということは何かニュースでもあるんでしょう?」

 祐希の問いに女性は頷く。

「察しがいいな。そうだそうだよ。つまりそういうことだ。まあ、昔ながらにいえば、いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい? という感じか」

 出来れば悪い方はあとに残しておきたい。そう思った。


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