ルームメイトが幽霊で、座敷童。
実姉の命令に絶対服従
「おい、その様子だと未だ準備は終わっていないようだな?」
俺はそれを聞いて振り返る。そこに居たのは紛れもない俺の姉である瀬谷マリナだった。
姉ちゃんは今はスーツでなく非常にラフな格好だった。赤と青のチェック柄のシャツに青いジーパンでピンク色のカバンを肩から提げていた。
「なぁ姉ちゃん。……どうしてそんな格好なんだ?」
「だから、墓参りだとさっき電話で言っただろう? 墓参りはふざけた格好などで行くと罰が当たるだろうが、今の私はそんな格好ではない。流石にスーツは堅苦しいからな。あぁいうのは仕事中で精一杯だよ」
「本当か? 何だか胡散臭いぞ」
「姉を見て胡散臭いとは何だよ。昔はもう少し可愛いげがあったんだがなぁ……」
「そりゃ俺だって成長するよ!」
どうして俺について語られなきゃいけないんだ! そのため息はどことなく俺に向けられている気がするんだが!
「……まぁ、今そんなことを言っている暇はない。あるわけがない。とてつもなく忙しいからな。新幹線があと二十分で出る」
「どんだけ過密なスケジュール!?」
と、俺のツッコミもさておき姉ちゃんは俺の胸ぐらを掴みそのまま家を飛び出し目の前にあるスポーツカーに乗り込み法定速度九十キロオーバーで走り出した。
「待て待て! 家の鍵閉めてないし貴重品とか持ってきてないし!」
「その辺は祐希に任しときな。鍵は渡してあるから何の問題もない」
「問題有りだよ! え、というか祐希が鍵持っているとか初耳なんだけれど!! それっていつからなんだ!?」
「いつから、というか……ドイツに行く前か?」
意外と前じゃねぇか! と俺は噛み付いたが姉ちゃんはそれでもそれを流した。
「遠野と言えば河童に座敷わらしが有名よね。本物に会えるのかしら?」
「座敷童が何か言っているぞ」
「私は『自称』座敷童よ? それ以上でもそれ以下でもないわ」
はいはいそうですか。だったら似非座敷童と本物の対決が観られるんですね? 超見物ですね。そのメッキが剥がれると、いったい何が出てくるんだろうか?
「貴方、馬鹿にしているかもしれないけれど私の正体を聞いたら驚くわよ。平伏すわよ。投身自殺したくなるわよ」
「それで? 正体は何なんだ?」
「なんと私は――」
言葉が一瞬区切られ、その間沈黙が生まれた。勿体ぶっているのだろうが、何を聞いても嘘臭く感じる。
「――日本神話の最高神、天照大神なのだっ!」
「………………………………………………………………は?」
何言っているんだこいつは? 流石に騙されないぞ……?
「理斗、彼女の言葉は本当だ。彼女は間違いなく天照大神だよ」
「……姉ちゃんまで何を言っているんだ?」
まったく。
思わずこれは悪い夢なのだと思い、頬をつねった。
直ぐに痛覚がやって来る。痛い。
……信じたくないが、本当に碧さんは天照大神だと言うことらしい……。
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