ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

虚数課の人員は奇想天外(後編)


「アカシックレコード……?」

 俺はその単語を脳内にある辞書に検索をかけた。そしてヒットするまでにそう時間はかからなかった。
 アカシックレコードとは過去・現在・未来と時間軸の全てを参照出来る概念のことだ。普通の人間ならば参照することは不可能なのだが、極稀にそれを参照出来る人間が出てくる。そういう人間は予言者として持て囃されたり、また自らの能力の恐ろしさに気付き自決した人間も居るという。
 人間の手に負えない、カミサマの手により作られた概念。
 それを人間が参照することとは、どれほど大変なことなんだろうか。

「……やれやれ、柚帆さん。君からネタバラシされちゃたまったもんじゃないね」
「ごめんなさい。……意地悪ってのはどうも苦手で」

 柚帆さんは頭を下げた。もし柚帆さんの言ってたことが本当ならば、彼はこの状況を知っていたということになる。大分、わざとらしい人間だ。

「まぁ、そんな茶番劇は良しとしよう。話すべく内容は話すべき時にすべきだからな。……だが、少なくともこの能力で得をしたことは、この仕事に就くまではなかったよ」
「……と、いうと」
「解るかね。ちょうど……そうだな。人の顔の上にいくつか風船が浮かんでいる様子を考えてくれ。あぁ、勿論人は立たせてくれよ。問題がややこしくなる」

 それくらい俺だって解っている。そもそも指定されていないのだから。

「それで全員がそうなんだ。風船にはたくさんの事が書かれているよ。例えば……そうだね、君は“近いうちに父親に会える”よ。そんなことが書かれているんだ」
「俺の父親は死んじまったんだ。そんなことは有り得ない」
「しかし現にこう出ているんだ。ただし、復活したのか、元から生きていたのか、またはそのどれかの三択なわけだ。……これは正しい。私はアカシックレコードにアクセス出来る人間なのだから」
「……!」

 その言葉に俺は言葉をうしなってしまった。
 俺の父親は確かに死んだはずだ。
 しかし信楽さんはそれでも『会える』と言った。それはどういうことなのだろうか? もし生きているのであれば、帰ってきてくればいいのに。

「――話を戻そうか。私はアカシックレコードにアクセス出来る。それはいい。しかしだね、カミサマの概念に人間がアクセスするというのは、やはり相当な負荷がかかるものだよ。例えば、さっき言った風船は初めは出っ放しだった。今はいくらかコントロール出来ているから問題はない。……考えてくれ。そんな風船がいつも目に見えるんだ。しかも、その風船に書かれていることは全て現実になってしまうものなんだよ」
「言うことは……したんですか」
「したよ。予防というか対策をするようにも言った。それでもダメだった。……そして責任転嫁の如く私を悪者に仕立てあげた。私は家を追われてね。叔母の家で能力を隠して生活したよ。そして警察庁に入って、オカルト部署が新設されたからそのまま滑り込んだわけだ」


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