ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

虚数課の人員は奇想天外(前編)


 虚数課。
 と書かれてある(正確にはボロボロで、そんなもの読めやしない)プレートを見てなんだか嫌な予感しかしなかった。読めやしないプレートを未だに飾っているんだぜ? そんなもの不安でしかないぞ。

「まぁ、何もないけれど」

 矢牧さんが照れながら言った。この照れも夢に見た通りを実践しているならば恐ろしい。役者の方が向いているんじゃないだろうか?
 そんな冗談は程々にしておいて、一先ず矢牧さんの後をついていくことにした。矢牧さんが扉を開けるとそこに広がっていたのは――。

 ――玄関だった。もっというならば、純和風の。少し床が高いのもそれでだろうか。しかも、土足の方の床は地面、土であった。まさかそんなこだわっていたとは……。

「ささっ、上がって」

 矢牧さんは素早く靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。そして直ぐに人数分のスリッパを一マイクロメートルのズレも許さず規則正しく並べた。女子力ってものがすごい高いんだなぁ、と当たり障りもない感想を心の中で呟いた。

「女子力ってどう定義すればいいんですかね。『女子らしい振る舞い』を女子力とすりゃいいのか、シンプルに『外見』のみを女子力とすべきなのか」
「あまり関係ないんじゃないですか、もっというなら前者の方が使われてそうな気がしますよ。よく男なのに『あいつの女子力は高い』とか言われてる人だって居ますからね」

 どう定義するかってのは使う人の勝手であると思う。少なくとも、これは俺の持論であって、他の人間がどう考えているのか? と言われると話は別になる。簡単にした方がいい。話題としては、知識よりも解りやすさを優先することが多々ある。今回もその例に漏れないだけだ。
 そんな考えは一先ず何処かに置いとくとして、靴を脱いでスリッパを履いた。おっと、靴を戻しておかないとな……と手を伸ばそうとしたが。
 もう既に靴は脱いだ時と逆向きになっていた。矢牧さんがやったのか、やっぱり彼は女子力が高いと思う。
 まぁ、いいか。
 矢牧さんはその瞬間(隙、とも言う)に長い廊下の半分まで進んでいた。良く見るとさっきまで暗かった廊下だったが今は明るい。大方矢牧さんが電気のスイッチを付けていたに違いない。女子が羨む程の女子力だと思う。ただし、残念ながら俺は男だからあまり羨むこともなく、ただぽかーんとそれを見ているだけに過ぎなかった。
 廊下を進んで、その突き当たりの右側には扉があった。これ迄にも幾つか扉はあったが、それは明らかに『トイレ』や『浴場』といったもので、確実に教えてもらわなくても大丈夫な部分だ。考えてみれば解るが、自分の家を他人に紹介するとき、「このトイレはね! ウォシュレットがついているんだよ!」とか、「このお風呂はジャグジー機能もついているんだ! すごいだろ?」とか鼻高々には言わない。言う人間が居るとするなら(それはあくまでも俺の主観だが)、とんでもない馬鹿なのだろう。
 突き当たりの扉を矢牧さんが開けると、そこはこじんまりとした居間だった。畳が床に敷かれていたし、まるで昔のアニメに出てきそうなちゃぶ台が置かれていた。
 壁は全て本棚で埋め尽くされ、漆喰の白い壁が見えることもなかった。本棚には『ムーンチャイルド』などの本から、はたまた『聖書(キリスト教)関連』とネーム付けされたファイルがあったりなど、……まぁ一言で言うならばオカルト系の本だらけが並んでいた。きっとそっち系のオタクが居たら涎を垂らすだろう。


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