ルームメイトが幽霊で、座敷童。
戯言と戯言と窓際部署(後編)
「正確には、私は『心の声』が読めてしまう存在です」
その言葉を聴いて、俺は何も言えなかった。今までの問答から解っていたことではあるが、それでも。
「申し遅れましたが、私は神凪柚帆と言います。虚数課の課長代理を務めてます。以後、お見知り置きを」
「あ、あぁ……。よろしくお願いします……」
「そんなに固くならずに。虚数課と『課』とは言われていますが、神事警察とは違って僅か三人しか居ないんです」
窓際部署もいいところじゃないか。
「窓際部署……そうですね。現にここが出来た理由も警察庁のエゴイズムに依るものですから」
「エゴイズム?」
「えぇ、元々神事警察だけ、神霊に関わる事象を調査していたのですが、それを警察庁のトップが快く思わなかったんです。考えてみれば解る話ですが、事件のヤマをそちらに取られることだってありましたから、警察にとっては屈辱的だったのでしょう」
確かに気持ちは解らなくもない。今まで調査していたところを全て奪われていくのだ。その辛さは……簡単に計り知れるものではない。
「……そして、ここに虚数課を編成しました。なぜそう呼ぶかご存知ですか?」
「警察の内情には詳しくないもので」
「公式に存在を認められていないから……ですよ」
その言葉と同時にエレベーターの扉が開かれた。
扉の向こうには一人の男が立っていた。柚帆さんと同じく、スーツに身を包んだ、背丈は百八十はあるだろうか。どうしてそこまで伸びたんだろう。煮干しでも毎日食べてたんですかね?
「……二分三十一秒七八遅れだ。エレベーターがいつもより秒速一・一四メートル遅かったからとはいえ、差し引き二分の遅れは説明がつかないと思うがね」
予想外にも早口だった。後半が聞き取れない程には、早口だったのだ。
「課長補佐の矢牧さん。……ちょっと変わり者だけど、あまり気にしなくていいから」
柚帆さん曰く変わり者である。しかし、そんなことは見た限りで解ることなんだけれど。
「久しぶりだね、瀬谷理斗くん」
そう言って矢牧さんは俺に右手を差し出した。……はて? 一度会ったことがあっただろうか。
「あ……、すまない。私が君と出会ったのは八月二十一日の夢の中だったよ。つまり、こちらの世界でははじめましてということになるな」
「……夢?」
「そう、夢だ」
夢で会ったのか。そうか、そうか。
……と単純に納得出来る人間はきっとこの世にいないはずである。
「矢牧さんはこれから会う人間とのシチュエーションを夢によって先取りすることが出来るんです」
柚帆さんが補足してくれたが、それでも解らない。解ろうとしない訳ではない。
ただ、解らないのだ。
「……まぁいいか。これから案内するからついてきて」
矢牧さんがそう言って、俺の手をとった。
これから、虚数課を案内してくれるらしい。俺はただ、情報が欲しいだけなんだけどなぁ。
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