ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

戯言と戯言と窓際部署(前編)

「……まぁ、結局は今言った人間全員が行方不明になっている。仕方ないことではあるな。ゲームによる被害が日本中から伝えられて販売元であるハイパーリファインは潰れることになった。更にそのツケが開発した張本人に回ってくることだって、幾ら馬鹿でも解るはずだ」

 ……果たして、本当にそうなんだろうか。
 本当に『その為だけに』身を隠したのだろうか。

「……どうした?」
「本当に、それだけなんでしょうか?」
「は?」
「だから、本当にそんな細々とした問題で雲隠れなんてするんですかね?」
「そんなの、本人に聞いてくれよ。俺が解る訳ないだろ?」
「ですよね……」

 結局は誰にも解らない事である。
 犯罪者の心理を一般の人間が理解するってのは、やはり無理がある。無理があるからこそ人間はそれをしようとする……まぁ、それも一理ある。
 しかしながら。
 それは知らない人間(理解しない、または理解しようとしない人間ともとれる)から見ればただのエゴイズムに過ぎなくて、同情でもない、かと言って厳格でもない、極めて曖昧なボーダーラインを持っているということだ。
 だから。
 異端児は極端にまで“普通”を嫌う。当たり前に見えて、そうでもない。それは小さな綻びで、大きな布にとっては『気持ち悪い』の一点だが、小さな綻びにとっても、大きな布ってもんは『気持ち悪い』で済まされる感情を持っている。
 エゴイズムとエゴイズムの戦い。誰のが勝とうともそれは所詮エゴイズムであり、結局は『気持ち悪い』の一言で済まされるものになる。
 きっと、高木義堅もそうだったのだろうか。そうでないにしろ、それに近い感情があったかもしれない。もしかしたらそれとは違う感情を持っていたかもしれない。
 しかし。
 結局はそれでさえ戯言ざれごとに、戯言たわごとに過ぎない。彼の心を奥底まで知る人間は、彼以外に居ないのだから。

「……まぁ、ともかく、リト。お前にはある場所に行ってもらう」

 長考が途切れた原因とは、姉ちゃんから言われた業務命令だった。

「ある場所に……って。まさかまた海外とかじゃないだろうな」
「桜田門」
「は?」
「桜田門にある三角の建物。その地下七階にある『神霊事象調査課』通称『虚数課』に向かってちょうだい」

 三角の建物。
 桜田門。
 これでピンと来ない日本人は恐らく居ないはずだ。あくまでも“おそらく”だが。

「警察庁に行けって!?」
「まぁ、間違ってないけど。強いて言うなら、『虚数課』だからね?」

 間違ってないじゃんか。何処が間違っているんだ? 懇切丁寧に教えてもらうぞ。

「虚数課はかつて警察庁を様々な理由で辞めさせられた人間を集めている……。はじめはただのお荷物、窓際部署だったんだけど、今は色々役立つよ。特に彼が入ってからは」
「彼、とは?」
信楽瑛仁しがらきあきとといってね。若いんだが、オカルト系の知識は非常に豊富だし、他の人間が羨む程の頭脳を持っているんだとか」

 凄い事だが、そんな人間が警察庁に入るものだろうか? もっといい場所もあるのでは……とも思えてしまう。

「彼はずっとここに入りたかったらしい。弱きを助け、悪を挫く。なんともヒーローの一般形に合致するじゃないか」
「そんなものかねぇ……」

 人間の夢とはそんなものなのか。それは俺にも解らない。解る人間がこの世に居て、すべてを発表出来たらそれはノーベル賞ものだろう。

「さぁ、さっさと言った言った! これは命令だからな」

 そう言って姉ちゃんは笑う。後ろでは雷神が手をばちばちいわせていた。というかカミサマを脅しの道具に使うってどうなのかね。地獄に落ちないのかな。
 まぁ……仕方ない。行くに越した事はない。
 そう言って一人で納得して、俺はタイムカードを切った。

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