ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

人間とカミサマの仲介役(前編)

 ……ところで、一つだけ気になることがある。確かめぐみさんは『消えた』はずだ。証人だっている。さすがに嘘とは考え難い。――ならば、誰がやったのだろうか? 彼女を誰にも見られることもなくほかの場所へ移すことなんて出来るのだろうか?

「それについては彼女が言いたいことがあるらしい」

 アドルフさんはそう言った。果たしてそれが俺の疑問を払拭できるほどのものか――気になるが、まずはそれを聞かねばならないだろう。

「――まず、『人工進化研究所』という場所について語らねばなりません」

 『人工進化研究所』。めぐみさんから告げられたそのワードは俺の頭の中に合致するものはなかった。

「人工進化研究所とは、ヒトがヒトの上の概念へとシフトするために研究する施設。……実情はカルト宗教の隠れ蓑となっています。ですが、人工進化研究所は実際にはそんな研究などしていなかった。簡単なことを言いましょう。……彼らはカミになろうとしていました」

 カミになる。その言葉の重大さとは俺たちのような存在でなければ解らないかもしれない。
 カミサマっていう存在そのものが概念がニンゲンより上部にあるのだ。それを『降ろす』神降ろしが出来る神憑きという存在は数少ない。どれくらいいるだろうか――たぶん百人は居ないと思う。
 その少ない人間ってのは一般人ノーマルから見れば異端アブノーマルである。

「カミサマを降ろす神憑きの他に、カミサマを堕とす『堕天』ってのもあります。彼らはそれを目指していたのかもしれません」歌うようにめぐみさんは言う。「だけど、堕天の方法はどの古文書を見ても未だに見つかってません。ですから、彼らもその方法は無理だと思っていたのでしょう」
「ならば、堕天以外の方法を考えた?」

 俺の言葉にみずきさんは頷く。

「そう、そのために使ったのが……私たちのような存在」
「巫女?」
「巫女はカミサマと人間の仲介役をしています。だから彼らもヒトよりもカミサマに近い存在だってことを薄々感じていたのかもしれません」
「だけど巫女だって神憑きは出来ないだろ?」

 話者が姉ちゃんに移る。

「そのとおり。あくまでも巫女はヒトとカミの仲介ですから。カミと同等の力を得ることはありません。……まぁ、補分家の古屋さんはそういうのとは違いますが、それでも彼女は神降ろしが出来ませんから」

 巫女はあくまでもヒトである、ということなんだろうか。俺の疑問を無視して、めぐみさんの話は続く。

「……論点がずれてしまいましたね。つまり、巫女はヒトよりもカミサマに近い存在と考えていましたから、彼らはその身体を研究することでカミになる手段を探ろうとしたんでしょうね」

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