東方魔人黙示録

怠惰のあるま

《魔王は運命を辿る》



奴はただ見ていた。
そうただ傍観していた。これまでずっと傍観を続けてきた。
だが、それは終わりを迎えるようだ。
奴はとうとう自分自身の運命を辿る。それがどれだけ辛いものか理解してるはずだろう。しかし、奴は分かっていた。自身の運命を終える事ができる猷逸のチャンスであることを。だからこそ奴は傍観を止めた。今まで生きてきた中で奴はきっと過酷な道を進むだろう。
しかし、その道を進めば奴は大切なものを失うだろう。信頼し合った友を、長く苦楽を共にした仲間を、愛を分け合った家族を、全てを埋め合うように生きた妻を。これがどれだけ辛いことだろうか。奴はきっと絶望を抱く。けれど奴はその道を進む。進まなければならない。
なぜならば、その道の先に待つものが奴が長年求めていたものだからだ。
ならば俺は、その道の先で奴を待とう。
そして、奴に問おう。嫌味ったらしい声でな。まず今は...俺は今までの奴のように傍観するとしよう。
さぁて、早く来い。






《桐月アルマ》










△▼△









俺はぼーっとしていた。
理由はない。ただ、そうしていたかった。地底で唯一空が見られるここで夜空を見つめ、何も考えず何にも焦点を合わせない状態が数分間続いた。
背後に気配を感じた。首を後ろに垂れるようにすると愛しい緑眼が俺を見下ろしていた。

「何してるの?」
「別に、ぼーっとしてただけさ」
「そう。私の事を放ったらかしにしてぼーっとしてたの。ふーん」

どうやら俺に構ってもらえずイジケテしまったようだ。

「パルスィ」

そんな愛しい彼女の名を呼んで頭を撫でる。愛しい、愛しい、俺のパルスィ。俺は絶対にパルスィを離さない。俺だけのパルスィ。この気持ちは狂ってるだろうか? きっと他の奴らからすればイかれてるのだ。
だが、関係ない。周りの奴らがどう思おうと俺はパルスィを愛する。狂おしい程にな。なぜなら彼女は俺の《嫉妬》だからさ。









△▼△










私は彼を探していた。
いつも一緒に居るのに今日は珍しく彼は一人で外出していた。
何処にいるかは大体察しがついてる。
その場所へ足を運ぶと案の定、ここにいた。地底から唯一地上に出なくても空が見えるここは彼と私しか知らない場所だ。と言うよりも、ここへの道のりは隠してる。だって、私達だけの空間だもの。誰かに汚されたくない。
ゆっくりと背後に近づくと、気配でバレたのか彼は首をこちらに垂れた。
愛しい青と赤の不思議な瞳で私を見上げていた。

「何してるの?」
「別に、ぼーっとしてただけさ」
「そう。私の事を放ったらかしにしてぼーっとしてたの。ふーん」

ちょっと意地悪してみよう。
そうすると彼は立ち上がって私の名前を呼んで頭に触れた。

「パルスィ」

優しいその手は私の頭をゆっくりと撫でてくれる。胸の奥がポカポカする。とても心地いい。

「アルマ」

私は愛しい彼の名を呼び、腕をアルマの背中に回し強く抱き締めた。
ああ、愛しい、愛しい、私のアルマ。誰にもアルマは渡さない。この血と肉一片たりとも奪おうものならこの手で引き裂いてやる。
私だけのアルマ。この気持ちがおかしい? 誰がどう言おうと関係ないし、理解して欲しいとも思わない。私はアルマを愛するわ。
なぜなら彼は私の《感情》だから。









△▼△










幸せはちょっとしたことで壊れるものだ。
俺は奴らを見ていつも思う。
それこそアフェクトゥルの時で思わされたよ。
しかし、それでも奴らは壊れた幸せを直してしまう。それほど奴らの愛は深く、狂っている。
それはある意味、究極の愛なのかもしれない。だが、そんな奴らの愛も今回ばかりは修復不可能となるだろう。
それほど今回はやばいのさ。
ま、俺には関係ない。俺は待つだけさ。あのバカをな。



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