東方魔人黙示録

怠惰のあるま

堕天の王 vs 感情の魔王


桜の術式を使い、アフェクトゥルとルシファーのいる戦場へと移動した。そして、目の前に広がったのは劣勢になりつつある霊斗達の姿だった。
アルマが現状に驚いているとアフェクトゥルがこちらに気づき、驚いた様子だったがすぐに楽しみが増えたかのように笑った。

「本当に立ち上がるとは思わなかったですよ感情の魔王」
「俺は諦めが悪いんだ。お前を殺すまで俺は死なねえ」
「私を殺す? 世迷言を...殺されるのは...」
「君だ! 感情の魔王!!」

アフェクトゥルの言葉を遮り、怒りを露わにしたルシファーが襲いかかってきた。
その手には黒剣マリーと白剣マリーが握られていた。
だが、それは別の者の乱入によって防がれる。

「俺を無視すんじゃねえよ!」

霊斗が自身の得物である霊神剣を握りルシファーの攻撃を受け止めた。

「邪魔だよ博麗霊斗! 君に興味はない!」
「てめぇが俺に興味無かろうと俺はてめぇを倒すだけだ。それよりいいのか?」

霊斗がそう言うとルシファーの後ろの方を指差した。その瞬間、鋭い殺気が背後から迫るのを彼女は感じた。咄嗟に嫉妬のバリアを発動する。
バチバチと音を立ててバリアに攻撃が加えられた。禍々しい装飾を施された二メートル以上はある刃。血が流れるようにドクドクと蠢く持ち手。ギョロギョロと忙しなく動く目。
見てるだけで寒気がしそうな大鎌がアルマによって振るわれていた。

「感情の魔王...!」
「おい霊斗! 奇襲を狙ったのにバラすんじゃねえよ!」
「ああ悪い悪い。バレても大丈夫かと思ってな」

悪びれる様子もなく笑う霊斗にアルマはため息をしつつ、ルシファーへと向き直った。

「はぁぁ...まあいいや。ルシファー決着つけようか」
「君が来たところで私に勝てるとでも?」
「いや全然? 俺が来たところで戦力になるわけないじゃないですかヤダー」
「......ふざけるなよ感情の魔王!」
「俺は至って真面目ですが?」

アルマの態度にルシファーの怒りが込み上がっていく。それと共に何か軋む音が聞こえた。まるで何かが押しつぶされようとしている感じだ。
その音に幻真が何か危機を察していた。

「嫌な音が聞こえるぞ!?」
「なんというかこの世界が悲鳴を上げてるような...」

磔の言葉に霊斗は答えた。

「ルシファーの憤怒は世界の法則を乱す。この世界は法則の乱れに耐えきれず壊れ始めている。ルシファーをこれ以上怒らせれば一瞬で壊れるぞ」
「そうなったら俺たちどうなるんだよ!?」
「世界が壊れるんだ。それは今この世界にいる全てが跡形も無く消える事を表す。つまり、どうなろうと死は免れないな」

冷静に答える霊斗に対し、磔と幻真は焦りを感じた。そして、今現在もルシファーをおちょくっているアルマを止めに入った。

「おいアルマ! それ以上ルシファーを怒らせるな!!」
「世界が壊れるぞ!」
「え? そうなの?」
「私の憤怒の力は君も知ってるだろ」
「あ〜そうだったそうだった」

思い出したかのように納得をするアルマ。その両手を黒く染めながら何度も頷き、なんの予備動作もなくルシファーに不意打ちをした。
それでも嫉妬のバリアは破れない。自動で発動する嫉妬は本人の意識外の攻撃であろうと全て防ぐだろう。

「不意打ちとは卑怯だね」
「それを防いで何を言ってんだ?」
「知ったことか。さぁ...殺し合おう感情の魔王」
「めんどくせぇ...」

アルマは一言呟いた。
その一言に反応するように彼の体から黒い炎が出始めた。その炎には勢いはない。まるでやる気のない怠惰の炎。

「感情解放・怠惰」

怠惰を感情解放したアルマは怠惰の象徴である黒炎を見に纏い、黒き炎の大翼を広げた。その大翼が動く度に黒い小さな胞子が空気中に舞う。
咄嗟に霊斗達はその場から離れた。だが、その胞子に少し触れてしまった時龍は地面に膝を着いた。

「あれ...? 力が抜ける...」
「アルマめ...敵味方見境なしか! 黒い胞子に触れるな! 怠惰に呑まれるぞ!」

霊斗の声にその場にいた全員がルシファーとアルマから距離を取った。

「怠惰......大罪で最弱じゃないか」
「はぁぁ? 最強の間違いだろ」
「怠けるだけの罪が最強? 世迷言にしか聞こえないね。それに私には嫉妬のバリアがある。君の胞子は効かないよ?」
「効かないか。だが、その対策をしない訳がないだろ?」

アルマは感情解放を解除し、右手に魔力を集中させると緑色の魔力をが集まっていく。それが徐々に大きくなっていくと細長い形状へと変化した。
その姿は緑色の槍。とてつもない嫉妬の感情が込められた一本の槍が出来上がった。

「お前の嫉妬は愛ゆえに全てを拒む。俺の嫉妬は憎しみゆえに全てを貫く。さて...どっちが勝つかな?」
「君の嫉妬が私よりも優っている訳がないだろう?」
「試さなきゃわからねえだろ?」

アルマは小さく笑うと嫉妬の槍をルシファーに向けて投げた。勢いよく投擲された槍は一寸狂うことなく彼女の脳天目掛けて飛んでいく。
しかし、それはルシファーの嫉妬のバリアによって防がれる。最強の盾vs最強の槍。この勝負は嫉妬の念が強い方が勝つ。
バチバチと音を立て接触していた槍がバリアは、少しずつであるが槍が貫こうとしていた。

「グッ...! 私の嫉妬が弱いというのか!?」
「どうした傲慢の熾天使さんよ?」
「黙れぇ! 妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい!!」

嫉妬の念がアルマに煽られたことによって強まると嫉妬の槍が押し返されていた。

「おっと?」
「は...はっはっは!! 私の嫉妬の方が強いみたいだな!!」
「そうだな。俺の嫉妬じゃあ勝てないみたいだ。そうゆう事でよろしく〜」

アルマがアッサリと勝負を諦めると同時にルシファーの背後からバリアを切り裂く音が聞こえた。
耳を疑いながら音のした背後を見ると短剣を握った春姫と同じくダガーナイフを握っているミュラルトがいた。その手に握られている武器は緑色に輝いていた。

「な、なぜ貴様らの攻撃が私のバリアを!?」
「簡単なことね。あのアルマという魔人の力を借りただけ」
「私達の嫉妬の力ならあなたのバリアを破れるだろうからって!」
「くそっ! ならもう一度バリアを張ればいいだけのこと!」
「それが都合よく行かないのよ」

もう一度、バリアを張ろうとしたルシファーだったがそのバリアを奪われてしまった。
その奪ったであろう人物を睨むと青い炎に包まれた手で緑色の球体を握る祭と桜がいた。

「凄いわね...本当に奪えた...」
「終作が同じようなことをしてたけど強欲...凄い力ね」
「女狐共...! その力は強欲か!?」
「そうよ。アルマくんが貸してくれてね」
「しかし、凄いわ。感情の力を味方に付与できるなんて...元々、アルマの能力は補助の役割が強いのかしら...?」

一人で能力の解析に入る桜にルシファーが暴食を発動した。それに気づいた祭は間一髪のところで彼女を抱えてその場から飛び退いた。
バクン! という音と共に彼女らが立っていた地面が大きく抉れていた。だが、ルシファーは間髪入れずに暴食を発動。闇雲にあたりの地面や空間を抉り取っていく。

「ヤケクソかしら?」
「気をつけろよ。あいつの暴食は食らったものを顕現させる」

霊斗の言葉通り、ルシファーは食らった空間を攻撃に転換させた。
見えない何かが祭に当たった。相当の威力があったそれは彼女を遠くに吹き飛ばした。

「祭様!?」
「油断するな! まだ来るぞ!!」

大量に食らった空間はほぼ無尽蔵に発射される。その中には他の魔王を食らった時に奪った魔力も含まれており本来よりも強化された攻撃となる。
ミュラルトがセーフルームを発動し、春姫達を守ろうとするが空間の力を顕現した攻撃は防御すら貫通する。ルシファーの攻撃はセーフルームを突き抜けた。

「全てを飲み込む暴食が大罪の中で最強なんだ!!」
「じゃあ、僕も最強ってことかな?」

見えない攻撃が降り注ぐ中、バクン! という音が聞こえた。
その音はルシファーの見えない攻撃を喰らっているようだった。超技術の一つである超直感を使い、快が全ての攻撃を殴っていた。
快の拳が触れた攻撃はバクン! という音と共に消えていった。その拳は紫色の炎に包まれていた。

「アルマさんから暴食をお借りしましたが...凄いですねこれ」
「なぜ私の攻撃が見える!!」
「僕の超直感です。見えない攻撃だろうと直感的にわかるんですよ」
「クソクソクソクソ!! 私が負けるわけがないんだ!!」

ルシファーの周りから黒い瘴気が漂い始めた。それは触れたものを堕落させ、生きることすら怠けさせる怠惰の瘴気。これに触れれば全ての事柄のやる気を奪う。
離れていた幻真や磔達にもその影響は及び、立つことすらままならない状況であった。

「全員! 堕落してしまえ!!」
「はぁぁ...めんどくせぇ...」

しかし、怠惰の影響を受けないものがただ一人いた。

「感情の魔王ぉぉぉぉ...!!」
「お前バカか? 怠惰の塊でもある俺に怠惰とか...愚策だろ」
「黙れ! お前さえ倒してしまえば私がこんな奴らに負けるわけがない!!」
「だろうな。けどさ〜霊斗を止めた方いいんでない?」
「なに...?」

ルシファーが霊斗の方へと視線を移すと彼の手には霊力と魔力、そして感情の炎が混ざり合った剣を握っていた。
その剣の名は《世界創世剣》全てを斬り裂き闇を斬り払う次元最強の剣。それに上乗せするように七色の感情の炎が纏っていた。

「そ、その剣は...!」
「アルマの感情の炎と俺の世界創世剣が合わされば、本気のお前すら倒せるぜ?」
「くっ...! 攻撃できるものならな!!」

その言葉と共に指を鳴らすとルシファーの姿が変化する。アルマの視界にはパルスィへ、幻真には妖夢、磔には豊姫と愛する者の姿に見えてしまっていた。

「愛する者を斬れるか!? 無理だよな!?」
「悪いなルシファー。もう色欲は効かねえよ」

霊斗の桃色の瞳にはしっかりとルシファーが映っていた。彼女が色欲を発動する事をアルマは読んでいた。だから霊斗に色欲を付与した。惑わされないようルシファー以上の色欲を。

「じゃあなルシファー」
「はぁ...うまくいかないもんだね...」

どこか悲しげにルシファーは呟き、彼女は霊斗の世界創世剣によって斬り裂かれ光の粒子となって消えていった。彼女が消えると同時に拍手の音が聞こえた。
小さく笑いながら拍手をしているアフェクトゥルがいた。彼女に向け霊斗は武器を向けた。

「次はお前だアフェクトゥル」
「そうですか。まあ、関係ないですね」

パチン! と音が鳴ると霊斗の足元に大きな扉が現れ、開くと大量の白い手が霊斗を扉の中へと引きずり込んだ。
霊斗が扉の中へと入ると閉まり、静かに扉は佇んだ。

「光の扉は入りし者を光へと導く」
「霊斗に何をした!!」
「簡単なことですよ。彼は邪魔ですので光へと導いてあげたのです。まあすぐに戻ってくるでしょうが。その頃には全てが終わっていることでしょう」

クスクスと笑うアフェクトゥルに幻真は真神剣を構えるがアルマによって止められる。文句を言う前に彼ははアフェクトゥルの目の前に立つと魔剣・大百足に手を置く。

「さぁ...ラストバトルと行こうか感情の神よ」
「やっとか。貴様には最高の鎮魂歌レクイエムを送ろう感情の魔王よ」

数秒の静寂が訪れると感情の魔王が大百足を思い切り振りかぶり感情の神へと振り下ろした。
ギャリギャリと音を立てアフェクトゥルが持つ白い剣とぶつかり合う。

「禍々しい大剣だ。まるであなたの感情のように」
「黙れ精神異常者!」
「歪んだ愛を持つ貴様に言われたくないな」
「減らず口を....!」

アルマは大剣を振り上げるとアフェクトゥルを打ち上げた。馬鹿力にも等しいその行為に彼女は少々驚きを見せる。
空中で体勢を整えようとするアフェクトゥルに幻真が襲い掛かる。しかし、それを読んでいたかのように黒い盾を構えた。幻真の攻撃を吸収すると白い剣からそれを放出し、彼を吹き飛ばした。
一息つくアフェクトゥルに下から青いレーザーが放たれた。

「感情 アルマーニイレイザー!!」

下からの攻撃にアフェクトゥルは余裕そうに黒い盾を構えた。青いレーザーはその盾に触れると吸い込まれていく。全て飲み込むと背後から迫っていた磔に白い剣を向けた。剣先が青く光ると盾で飲み込んだアルマの攻撃が放出した。しかし、磔はレーザーを斬り裂きアフェクトゥルに斬りかかった。

「やりますね。では、これはどうでしょうか? 怠惰の独奏曲 業火」

彼女の周りから黒い炎が出現。それらが磔に一斉に襲いかかり捉えるように全身を覆った。黒い炎に捕まった磔は抜け出そうと争うが黒い炎は怠惰の炎。徐々に彼の気力を奪っていった。

「ちから...が...!」
「そのまま気力を奪われてしまえ」
死をも奪う心の鎌ソウル・ザ・グリード!」

磔が囚われている怠惰の炎をアルマが取り出した死をも奪う心の鎌で斬り裂いた。すると炎は大鎌に吸収され磔は解放された。

「大丈夫か?」
「悪い...助かった...」
「つくづく邪魔しますね。愛する者を失った魔王さん?」
「黙れ...」

アフェクトゥルの言葉にアルマは怒りを見せる。それを嘲笑する彼女はまだ続ける。

「愛する者を失ったというのにそれでも生きなきゃいけない...ああなんて可哀想な魔王だ」
「黙れって言ってんだろうが!!」

自分をおちょくるように喋るアフェクトゥルに流石のアルマも怒りが抑えきれず大鎌を振りかざした。だが、それを狙っていたかのようにアフェクトゥルは攻撃を簡単にかわし白い剣を握るとアルマの心臓がある場所に剣を突き刺した。
剣先から血が滴り落ち、彼女が剣を引き抜くとアルマは地面に倒れ伏した。

「あはははは!! 私の勝ちだ感情の魔王よ!!」

アフェクトゥルの高らかな笑いが辺りに響き渡った。

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