東方魔人黙示録
奇襲
記憶の流れが収まると全員がその場で立ち止まっていた。何故なら見せられた記憶はあまりにも壮大だった。
「決定された集会の意見はアザトースの力によって実現される...ここ数年されていないらしいけど。もしかしたら、私たちの知らないところで色々と改変されていた可能性もあるってこと...?」
桜はブツブツと呟き、今送られてきた記憶の内容を考察していた。
「まだ...頭いてぇ...」
「大丈夫か幻真?あれだけの量の記憶を入れられたんだ無理もない。しかし...魔王って存在は意外にも重大な役割を担っていたんだな」
磔は今までのアルマの行動を思い返しながら口にし、さらにこう思った。あいつは真面目に仕事ができるのか? と。
幻真はアルマの最後の言葉が引っかかっていた。まるで自分に何か起こるのを予期しているようだった。彼は一体、なぜ助けを拒否するのだろうか?
全員が送られた記憶について考えているとパンッ! と誰かが手を鳴らした。
視線が音を鳴らしたであろう女性に集まった。黒いアンダーウェアに博麗の巫女服を纏い、何処となく霊夢を少し大人びた感じにしたような長髪巨乳の女性 博麗 霊奈がニコッと笑い、全員の視線が集まったことを確認すると口を開いた。
「霊奈?」
「何かみんな悩んでるようだけど。とにかくやる事は決まってるでしょ?」
「この世界を守ることか?」
「違うわ。この次元よ。アルマの情報が本当なら私たちのいる世界を含めたこの次元全てに敵が押し寄せてくることになるわ」
言葉には簡単にできるが、現状余りにもスケールが大きすぎるのだ。しかも、領土争奪戦と言われたが敵の数も未知数。対処のしようがない。
「一ついいか?」
黒いTシャツ、その上に鼠色のベストを着用。下はストレートパンツを履いた男が霊奈に問う。
「何かしら? ええっと...」
「アマオ。アマオ・クレバリーと言う。それで質問だが、なぜ我はここに呼ばれたのだ?」
「それはそこの変態に聞いてちょうだい。呼び出したのはそいつだから」
指差す先にいたのは謎ポーズを決めている終作とイラとリティアが終作と同じポーズを決めて遊んでいた。
「何してるの...?」
「いや〜この子らが遊んでっていうからさ!」
「だからってなんだそのポーズ...というかその子ら誰だよ」
「アルマとパルスィの子供よ」
「へぇ〜アルマとパルスィの......子供!?」
磔と幻真達が驚いている中、桜が二人に近づき、ボソボソと耳打ちをするとイラとリティアは無邪気に笑った。そして、終作の方を向くとイラは自分の身の丈はあるハンマーを空中で作り出し、リティアは終作の足元に魔法陣を出現させた。
「あ、あれれ〜? 何してるの?」
『桜お姉ちゃんが勉強の成果を見せてって!!』
「だからってなぜ俺に!?」
『終作をボコボコにすればパパとママが喜ぶって言ったから!!』
「ま、待て! 話せばーーーーーーブヘッ!!」
リティアが作り出した魔法陣から触手が飛び出し、終作を拘束。その隙にイラがハンマーで思いっきり終作を叩いた。拘束していた触手で吹っ飛ぶこともできず終作は全衝撃を体で味わった。
「な、なぜ...こんな目に...ガクッ...」
さすがの終作もかなりのダメージを負ったようだ。
終作を撃破した二人は仲良く手を合わせ無邪気に喜んでいた。
「よくできました。二人共、ちゃんと勉強の成果が出ているわね」
「だってリティア!」
「やったね! イラ!」
二人の頭を撫でようとした桜だったが母親であるパルスィに二人は走って行った。
嬉しそうにパルスィに抱きつくイラとリティアを見て、桜は少し不機嫌そうな表情となった。
「ご、ご主人? どうしました?」
「なんでもないわよ...」
「あの〜そろそろ話を戻していいですか?」
赤いシャツの上に黒いジャケットを羽織り、短パンを履いた赤髪の女性がニコニコとしながら聞いた。
「あなたは?」
「私はシュラシュ・ミュラルトと言います。それで私とアマオ様が呼ばれた理由はなんですか?」
「こ、この次元に......存在する...世界の強者を呼んだ....それで君らも...来たわけだ....ガクッ...」
何かを振り絞って話し終えた終作はまた気絶した。
「だそうよ。他に質問は?」
「ないな」
「なら、準備を始めましょう」
淡々と話を進める霊奈。しかし、幻真は納得できない表情であった。それに気づいたのは霊奈の父親であり、この次元で最強の男 博麗 霊斗であった。
「どうした幻真。何かあるのか?」
「......俺は最後のアルマの言葉が納得できない!」
どこか怒った表情を見せる幻真。
そのことについてはアルマと面識がある者は気がかりであった。
「助けに来るなって言ってたな...まるで自分に何かが起きるのを予期しているようだ...」
「だからってどうにかできるわけじゃないわよ?」
「だからってほっとけないだろう!?」
「はぁぁ...皆を心配させるあのバカが妬ましい...」
パルスィが一人そう言うと全員の目に入る場所に立った。全員がパルスィに視線を向けた。
「もしもよ。あなた達がアルマを助けに行く気ならそれ相応の覚悟をしてちょうだい」
「どうゆうことだ橋姫よ」
「そのままの意味よファラク。ここにいる全員が強いのは知ってる。ただ絶対に無事で帰ってこれる保証はないわ」
「パルスィちゃ〜ん。急に真面目な話になったけど全然意味がわからないよ〜?」
キッ! と時龍を睨むと怖い怖いと言って目をそらした。パルスィの話を代弁するように磔は時龍に説明した。
「幻真は今、魔王の集会に乗り込むと言ったようなもの。それを実行すれば何が起こると思う?」
「......何が起こるんだ?」
「ペナルティ」
「...は? ペナルティ? それだけ...?」
ペナルティという言葉に軽そうなイメージを抱く時龍に呆れた口調で桜が答える。
「あんたが想像してるほど魔王の集会のペナルティは甘くないわよ」
「そんなに大変なペナルティなのですか?」
火御利は心配そうに聞くと桜の表情が曇る。
「大変と言うか...確率的にほぼ死ぬと考えていい」
「なっ....!?」
「ペナルティはルーレットを行い、どこを奪うか決めるの。例えば、目といえば目を失い、耳といえば耳を失う」
「でも運が良ければ小さな部分しか失わないってことですよね...?」
快は恐る恐るという風に聞いた。
その答えに対し桜は、運が良ければ...ね。そう呟いた。その言葉の意味を快は理解できなかった。
「運が良ければって言うのはルーレットを終えれれることよ」
「どうゆう意味だ?」
「ペナルティのルーレットは終わりという場所で止まらない限り永遠に続くの....」
『はぁ!?』
全員が驚いていた。桜の言うことが正しければ運が良ければルーレットで何も奪われず終了できる。だが逆に運が悪ければ全てを奪われるまで永遠にルーレットが続くということだ。
言うなれば...死へのルーレットだ。
「じゃ、じゃあアルマの運を信じるしか...!」
絢斗の言葉に幻真と磔はなんとも言えない顔をしていた。絢斗は時龍に聞こうとするが、彼も二人がそんな顔をしている理由が分からなかった。
同じように想起やファラク、桜達も首をかしげるばかり。
そんな彼らの疑問を解決するかのように終作が拘束していた触手を引きちぎった。
「ああ...いてぇ...幻真と磔がそんな顔をするのもわかる」
「どうゆうこと終作」
「それはね桜ちゃ〜ん? アルマは計り知れない不運を持った男だからさ!!」
自信満々の終作に容赦なく罵りの言葉がぶつけられた。
「こんな時にふざけるとは...最低だな...」
「流石にそれはないです...」
「本当に最低ね」
「お、俺の心は...もうピンチ...」
ガクン! と地面に倒れ伏す終作。
だが、それを罰が悪そうに幻真と磔が弁明する。
「悪いが...これは事実だ...」
「おふざけとか、冗談じゃない。アルマは本っ当に運が無い...」
「お、お父さんまでそんな冗談を...」
「アルマは運が無い。私が言うのよ? 冗談な訳無いじゃない」
アルマの妻であり、長年共にしているパルスィに言われ皆は不本意ながら納得をせざるを得なかった。
「まあ...そう言う訳でアルマを今すぐ救出したい。だが、こっちの世界もおろそかにできない...」
「二手に分かれる...ってことで捉えていい?」
「ああ...俺は救出に行く。幻真も行くだろ?」
「当たり前だ!」
磔と幻真がアルマ救出に意気込む中、ここ幻想郷に大きな地震が起こった。
揺れは激しく、立つのもままならない。時間が経過するほど揺れは大きくなっていく。
「な、なんなんだこの揺れは...!?」
「地底だからってこんなに揺れるものか!?」
全員が不安になっていく中、揺れは唐突に収まった。だが、ある変化に霊斗は気づいた。
「な、なんだこれは...!」
「ど、どうした霊斗」
「この世界...いや、この次元と言えばいいのか?まるで取り囲むように数万の軍勢が取り囲んでやがる...」
「お、おいおい嘘だろ!?」
「じゃあ...始まったと言うわけね魔王の集会が...」
「その通り〜! いやぁ〜...準備周到とはこのことだな?」
上から発せられた声に全員の視線が向けられた。そこにいたのは見下すように嘲笑う魔王の集会に出ているはずのニャルラトホテプであった。
「全く感情の魔王には困ったものだね...ここまで強い強者達を集めてくるなんて...腹立たしい...!!」
「てめぇ! なんでここにいんだ!! 魔王の集会に出てるはずだろう!?」
「ふむ...集会の情報も知られてる、と。これはいろいろと予測されてるなぁ...?」
「質問に答えやがれ! 炎砲 マグマ熱砲!!」
怒りに燃える幻真のマグマ熱砲がニャルラトホテプに放たれた。火属性のマスタースパークとも言えるこの技はマグマに匹敵する熱量でなんでも溶かし、どれだけ頑強な壁だろうと貫く。
「そんなに怒ると〜? 体に悪いよん! 消滅 感情崩壊」
迫り来るレーザーにニャルラトホテプは指を鳴らすと目の前から何事もなかったように幻真の放ったレーザーが消滅した。
消えたことにも驚きではあるが、それよりも幻真達が驚いたのはニャルラトホテプが使った力だ。
「い、今のは...!」
「アルマの感情崩壊...!?」
「なぜあなたがアルマの力を使っているの!!」
「種明かしをしないのが一流のトリックスターですよん? さぁ...君らも邪魔だね。バラバラになっちゃおうか!」
パチン!と指を鳴らすと幻真達の足元に真っ黒い穴が開けられた。そして、彼らを飲み込むようにズブズブと足元から引っ張っていく。一人、一人と穴に飲み込まれる中、抵抗するように暴れる幻真。なんとか穴を消そうと試みる磔と桜。成す術もなく沈む終作。
「クッソ...!」
「いいね! その悔しそうな顔! そんな君らにいい情報を教えてあげよう! 僕ってやっさしい〜!」
いい加減な態度を見せるニャルラトホテプに弾幕が放たれた。同じく指を鳴らして弾幕を消し去った。チラリと弾幕を放った本人を見ると嫉妬と怒りに満ちたパルスィだった。
「妬ましいわ...ふざけるのも大概にしなさい...!!」
「うふふ...まあ聞きなって! 君らの大切なアルマくんなんだけど〜。能力を私達がもらっちゃった」
「なっ!?」
「しかも...彼ね? どこかの地下深くに捨てちゃった!」
もうすでに身動きを取れないほど穴に飲み込まれた彼らは怒りに満ちた表情を見せるが、なす術もなくトリックスターの高笑いを聞きながらどこへと繋がっているかわからない穴の中へと沈んでいった。
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