東方魔人黙示録

怠惰のあるま

不穏な影...


ある一室に一人の男が何かの上に座っていた。
彼は見えない何かと話すようにうんうんと頷いたり、小馬鹿にするような笑いをしたりと不審な行動を見せていた。
ただ、そんな彼の周りには夥しい数の死体が転がっていた。気味の悪いことに全ての死体が異常な死に方をしている。
腕が異常に折れ曲がった死体。首と腰が百八十度回転した死体。腕と足が生えている場所が入れ替わり、腹に大きな穴が開けられた死体。他にも目も当てられない物や、言葉にするのも悍ましい死に方をしている変死体もあった。
その悍ましい死体の山に座っている男の名はニャルラトホテプ。外なる神と呼ばれる者の一人であり、メッセンジャー。トリックスターや千の貌を持つ無貌の神とも呼ばれている。
そんな彼は右手の近くにあった死体から頭を引きちぎり手で弄んでいた。

「いやぁ〜うん。僕だってね?暇じゃないんだよ?そんな雑魚一匹に構ってる時間は......なぁ〜い!!」

死体の頭を握りながら大きく手を広げ、誰かに語りかけるように喋り始める。そして、また黙り込むと聞きいるように頷き始めた。

「なるほどなるほど。その集会とやらに来る魔王を俺にどうにかしてほしいのねん?私に頼み事は高くつくぞ〜ん!」

一人称も喋り方もバラバラになりながらしゃべり続けるニャルラトホテプにある情報が入るとピクッと耳を動かした。
その情報がとても面白いのか口が裂けるほど吊りあげて狂った笑いを上げた。

「フヒ!フヒヒ!いいね〜いいね!そうゆうのおいらは好きだぜ?いいだろう!僕ちんに任せなさい!」

何か不思議なポーズを決めて見えない何かへ了承すると、突然自分の背後に剣を突き立てた。何かを貫く音が聞こえ、ニャルラトホテプは後ろを楽しそうに見ると死体の仲間であろう生き残りが彼を背後から奇襲しようとしていた。

「な、なぜ...わかった....!?」
「なんとなくだよ〜ん!」
「く...くそ......この俺...さ......まが......魔王の...俺さーーーーーー」

グシャリ!
ポツポツと喋っていた魔王と名乗るものの頭をニャルラトホテプは踏み砕いた。彼の足の裏には脳漿と血が混ざった液体と脳がべっちょりと付いていた。
それを見て、わざとうぇ〜と吐きそうな顔をするがすぐに嬉しそうな表情になった。

「ふんふふ〜ん!君の姿借りるね〜ん!」

パチン!と指を鳴らすと魔法陣が足元から頭のてっぺんまで動き、ニャルラトホテプは今まさに頭を潰した魔王の姿へと変身した。
軽く体を動かし、微調整をすると不気味に笑い始める。

「うひひ...楽しみだなぁ〜...魔王の集会...主催者だけど〜今回は参加者として楽しませてもらうよ〜ん!そして〜待っててね〜!感情の魔王...桐月アルマくん!!ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

ニャルラトホテプの高らかな笑い声が誰もいなくなった魔王の城に響き渡った。
笑い声が止むと真剣な眼差しとなり、虚空を仰いでお調子者っぽい声から一転、とてつもなく低い声となった。

「全ては...我が主アザトースのために...」

何かに祈るように天を仰いだニャルラトホテプ。

「くひっ!なぁんてね!私はただ...混沌を呼ぶだけだ......」

そうポツリと言葉を零し、死体の山から立ち上がるとゆったりと歩き玉座の間を後にした。
魔王の集会。いや、全次元に混沌を呼び込むために...





△▼△





ゴボゴボ...と何かを吹き出し、吹き出した何かを喰らう。それを何度も繰り返すそれは大きな灰色の池だった。ただ一つ言えることはそこらの生き物とは次元が違う強さだということだ。
地底よりも深い場所で灰色の池は何かを待ちわびるように今日も自分から吹き出した何かを喰らい続けていた。

【早く...早く...我のところへ...我はずっと待っている...貴様が来るのを待っている...声が聞こえるなら...早く来い...感情の魔王よ...】

灰色の池は今日も待ちわびる。自分が求める人物を感情の魔王を......





△▼△





「うわぁ!?」

声を上げ、布団から飛び起きたアルマ。全身は汗でびっしょりであった。呼吸は荒く、頭に手を当て激しく動く心臓を落ち着かせるようにゆっくりと呼吸をする。
その横で寝ていたパルスィは異変に気付いたようで眠そうに目をこすりながらアルマの顔を覗き込む。

「大丈夫...?」
「はぁ...はぁ...大丈夫だ......」
「悪い夢でも見た?」
「悪い夢なのかはわからないが...灰色の池が俺を呼んでた」
「灰色の池......?」

聞いた事もない単語を口にしたアルマにパルスィは首を傾げた。深呼吸をしても落ち着かないアルマの首に手を回し、優しく抱きついた。
安心させようと頭に手を置きゆっくりと優しく撫でる。

「大丈夫...私がいるから...」

耳元でそっと囁かれ、何処か安心したアルマの呼吸は静かになり鼓動も落ち着いていた。

「ありがとうパルスィ...」
「いつでも頼って...私はいつもあなたの側にいるんだから」
「ああ...わかった。もう大丈夫」
「うん。それじゃあ...おやすみ...」

そう言ってパルスィはもう一度眠りについた。微笑んで彼女の頭を少し撫でるとアルマは部屋の天井を見上げた。

もう十年か。早いような遅いような...
まあどっちでもいい。もう直ぐあの日が近づいている。魔王の集会...今回は嫌な予感がする。
それにあの夢に出てきたあの灰色の池...感情の魔王ってのは俺のことだよな?だとしたらあの池はなぜ俺を呼ぶ......考えても仕方がないか。何かが起こるにしろ、結果はその時でないとわからない。
俺はただその時に、精一杯抗うだけさ。








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