東方魔人黙示録

怠惰のあるま

告白前夜


朝、目が覚めるとまだ動けない。
やっぱり粉々に壊されれば一日そこらでは動けるようにならないか。
急いだところで治るわけではない。ゆっくり療養生活を送らせてもらおう。
そういえば、パルスィがいないな。
隣に敷いていた布団もたたまれている。もう起きているのか?

「あ、起きてる」

突然開かれた襖にビクッとしたが、そこにいた人物を見て安心した。
エプロン姿でお盆を両手に持ったパルスィだった。

「おはようアルマ」
「ああ、おはよう。朝食作ってくれたのか?」
「残念、昼食」
「え?もう昼!?」

あちゃ〜...寝過ぎたな。

「どのみち動けないからいつ起きようと変わらないでしょ?」
「そ、そうだけど...」
「ほら...口開けて」
「あー...ん...ん?」

自然に口を開けてしまったがご飯食べさせてもらってる?

「おいしい?」
「おいしい...」
「食べさせて貰うしかないでしょ?動けないのだから」
「うっ......!」

バレてる......
恥ずかしいけど、嬉しいと思う自分がいる。いや、十分嬉しいんですけど...
なんかこう...介護施設に入れられたおじいちゃんの気分。

「ほら、まだあるんだから口開けて」
「あ...あー...ん」
「ふふふ...赤ちゃんにご飯あげてる気分」
「う、うるさい!!」
「顔真っ赤にして可愛い」

プニプニと頬を突っつきながら微笑んでいた。
本当に赤ん坊の扱いしやがって...
その後も食べ終わるまで食べさせてもらった。本当に恥ずかしい...
これ...動けるようになるまでずっとやるの?
パルスィは食器を片付けるために部屋を出て行った。その入れ替わりのように正邪が入ってきた。

「おはようア・ニ・キ!」
「な、なんだよその不適の笑みは...!」
「いや〜パル姉と二人でイチャイチャしてたな〜と思って!」
「...おまえさとり様に似てきたな」
「え!?やだ!?」

あ、いやなんだ。
今頃さとり様泣いてるだろうなぁ...トラウマ埋め付けたあの人が悪いけど。

【ちょっと人気のいないところに行ってきます...】

え!?ちょっとさとり様!?おいおいおい!シャレならん!

「正邪!!!さとり様止めてこい!!」
「え?ど、どうしたの急に」
「めっちゃ落ち込んでて何するかわかったもんじゃねえ!!」
「え〜?大袈裟だよぉ!そんなこーーーー」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」

ちょうど襖が開いていたため廊下を走り抜けていくさとり様が見えた。
両目から滝のような涙を流しながら......

「あれでもか?」
「行ってきます......」

観念して正邪はさとり様を止めに行った。途中、何度かあの人の泣く声が聞こえたが...たぶん大丈夫だ。たぶん...
えらい大きな泣き声が聞こえたからか、お空とお燐が様子を見に来た。

「ど、どうしたの?」
「さとり様の泣く声が聞こえたよ〜?」
「正邪のキッツイ一言でショック受けて走って行った」
「あ〜...あたい達も行こうかお空」
「うん。そうだね」

二人は急いでさとり様と正邪の後を追いかけて行った。
少し遅れてナズーリンも様子を見に来た。

「どうかしたのかい?」
「さとり様、泣く、走る、三人、追いかける」
「なんで片言?まあいいか...」

部屋に入り、スッと俺の横に座った。
なんか、ナズと二人っきりで話すの久しぶりだな。
こうゆうときに限って話す内容が見つからない。
一人、話す内容を必死に考えているとナズから話を切り出してくれた。

「それで体の調子はどうだい?」
「ん〜...全然だな。指の先をピクリとも動かせない」
「毎度ながら...君はパルスィに心配をかけさせてばかりだな」
「返す言葉もありません...」
「ま、この機会にパルスィとじっくり話したらどうだい?さとりには私から覗かないように言っておくから」
「マジで?ありがとうナズ」
「気にするな。さて、私もさとりの様子を見に行くか」

最後にキツく安静にしてるように言って部屋を後にした。
全く...動けないのに安静もクソもないって。心配してくれるのは嬉しいけど。
......この機会にじっくり...か.........
もう、逃げる必要もないか。それに昔さとり様にも言われたからな。他の誰かに取られるかもって......
うん。腹を括ろう。
いつまでも逃げていたって結果は変わらない。パルスィだってずっと俺の側に居てくれるとは限らない。
明日...明日だ。パルスィに言おう。
十数年間、伝えられずにいた気持ちを......



△▼△



「はなじてくだざい!!」

さとり様はいろいろと顔から垂らし、みっともない顔を晒し正邪達に溶岩湖に飛び降りようとするのを止められていた。
全く...さとり様はちょっとした一言で傷つきやすい人ですね。

「さとり様。考え直してくださいよ」
「いやでず!わだじはもう無理でず!!」
「今ここで死んだら私とアルマのこと見ることできませんよ?」
「それはいやでず......」
「なら帰りましょう?」
「一つ条件があります...」

あれ?嫌な予感がする。
私の予感って当たるのよね。悪い方だけ......

「アルマに自分のきぼちをちゃんと伝えると約束できるならやめます......」
「......え!?そ、そ、それは...!」
「できないですよね〜?あ〜あ...ならもう落ちようかな〜」

ぜ、絶対に嵌めたなこの人!!うう...咄嗟にあんなこというんじゃなかった...!
急に元気になった途端にとんでもない条件出してこないでよ〜!!
あのニヤけ顏が妬ましい...!!

「で〜?どうするんですか〜?どのみち早く気持ちを伝えないとアルマ...誰かに取られますよ〜?」
「うっ...!」
「アルマはモテますからね〜。もしかしたら他の人の物に...?」

い、嫌だ...!アルマは...アルマは誰にも渡したくない...!
そ、そうよ...アルマだっていつ誰かと一緒になるかわからない...!
いままで危機感を持っていなかった自分が不思議ね。

「わ、わかりました...私...気持ちを伝えます......」
「え?ほ、本当ですか?」
「は、はい...!」
「...そうとなったら死んでなんかいられません!さぁ!行きましょう!」
「え?いまからですか!?」
「そりゃあそうですよ!善は急げです!」

そ、それは困る!!い、勢いで気持ちを伝えると言ったものの...まだ心の準備ができてない!

「あ、明日!明日絶対に気持ちを伝えますから!!心の準備をさせてください!」
「確かに急ぎすぎてもダメですもんね。わかりました。明日に決行です。あ〜...楽しみです!」

幸せそうな顔をしながら一人地霊殿に戻って行った。
その後を正邪達は疲れた表情でついていった。
明日...気持ちを伝える。
私の気持ちを...









『この好きという気持ちを...』





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