東方魔人黙示録

怠惰のあるま

《魔の王は人の夢を見る》


感情の昂りによる爆発によって部屋は半壊。
天井は崩れ落ち、血に染まったような赤い空が広がる。
魔界の空には青く輝く月が浮く。太陽はない。
故に、魔界に朝と夜の概念がない。
射し込む青い月の光に照らされ妖夢は意識を取り戻した。

頭がクラクラする...どうやらさっきの爆発で気絶していたらしい。
辺りを見渡すと壁は崩れて外の景色が見える。
相当な規模の爆発だった...それほどアルマさんの怒りが強いということですか......
それでも...私はアルマさんに謝らなければいけない...!そして、幻想郷に連れて行く。
立ち上がって粉塵が舞う中、目に入ったのは向かい合うように立つ二つの人影。
しかし、片方は肩で息をするほど疲弊し切っている。

「アルマ...!あなた...やりすぎよ......!」

震えた声で喋っているのは風見幽香。
少しボロボロになり、呼吸も乱れ疲弊し切っている。
目の前に立っている魔王に向けて鋭い眼光を放っていた。

「やりすぎ...?こいつらを追い出すにはこれぐらい必要だろ?」

そんな眼光も意に介さず魔王ーーーアルマは心の奥底まで刻みつくような低い声で話す。
妖夢は彼の姿を見て目を見開いた。

「アル...マさ..ん?その姿は.......いったい?」

青く染まっていた髪は血のように赤くなり、赤かった毛先は青く染まっている。
金色に輝く瞳は冷たい光を放つ。二対のツノが生え、耳が少々尖っている。
その姿は人間から悪魔に近づいていた。

「妖夢か...この姿は半人半魔である俺の本来の姿だ」
「本来の...?」
「半人は人間の姿でもう一つの種族の特徴を持つ。お前で言うその霊かな?俺はツノと耳が悪魔のそれだ。本来は隠してるんだよ魔力が強すぎてな」

そういい指を鳴らすと彼の周りに一瞬で弾幕が大量に現れる。
ボロボロとなった幽香は残った魔力を振り絞り弾幕を放とうとしていた。
それにアルマが気づくが止めるそぶりはない。

「辞めとけ。この俺には勝てないだろ?」
「うる...さ......い!」

幽香がアルマに向け、弾幕のレーザーを撃ち放つ。
しかし、アルマは指で弾きレーザーの向きを強制的に変えた。
向きを変えた弾幕はすれすれを通り過ぎる。

「おいおい...これ以上城を壊させるなよ」
「つ、強い...!」
「まあ...あいつだったらボコボコにされてたけどさ」
「くっ...バカ......アル......」

体力を使い切り幽香は意識を手放した。

「さて、お前もこいつらのようにされたくなかったら出て行け」
「こいつら...?」

妖夢は周りを見ると視界が悪く気づかなかったが、レミリア達が床に倒れていた。

「正直...お前には何もしたくない。頼むから黙って帰ってくれ!」
「嫌です!!」
「なんでだよ...!なんでだ!!なんでそこまでして俺を連れ帰りたい!?」

右胸に腕を突き刺し強大な大鎌を取り出した。
蘭々と赤く発光するそれは不気味の一言に尽きる。
重たそうに担ぐと横薙ぎに斬りかかる。
妖夢はしゃがみ込み斬撃をかわした。後ろの壁が綺麗に斬られ崩れる。
しかし、容赦無くアルマの攻撃は続く。

「あなたは...なぜ魔界に残りたいんですか!?」
「.......魔王だからだ」
「そんなの口実でしょう!?あなたは逃げてるだけじゃないですか!!」

ピシッ...!
大鎌から小さく、割れる音が聞こえた。
もしかして...あの大鎌はアルマさんの心に反応しているのでしょうか。

「私はここへ来た理由は謝りたいからです...!」
「あや...まる?」
「約束を......破ったことを!」

パキッ...!パリィィ......ン
大鎌は完璧に崩れ去った。
武器を失ったアルマは力なく座り込む。そして、枯れた笑い声を出した。

「は...ははは......俺の大鎌を割るやつがいるなんてな」
「アルマさん...ごめんなさい」
「いいんだ...むしろ俺の方が悪いんだ」

疲れ切ったように壁にもたれかかり、語り出した。

「俺は、ただ人間になりたかった。半分の存在が嫌だったから幻想郷に来たんだ」
「人間に...?」
「悪魔はさ、自由奔放すぎるだろ?それが嫌だ」
「...ふふ...!あなたも十分自由奔放ですよ?」
「そうか?」

妖夢はそんなにおかしいのかずっと笑ってる。
俺ってそんなに自由か?

「ええ、自由です。自由すぎて心配になります」
「あらそう?なら自由奔放に生きてみようかな?」
「アルマさんにはぴったりですよ」
「アルマでいいよ。んじゃあ...帰ろうか?」

結局、悪魔でもなく人間でもない。俺はこの間にいるわけで...だったら間をとろう。
《魔人》そう名乗ろう。
俺は魔人としてこの先幻想郷で生きて行こう。


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