比翼の鳥
第15話:幸せオーラ
ルナが俺の方に歩いて来た。
すると、光る球達も、一緒にルナの周りを回りながら着いて来る。
さしずめ、光る竜巻のような状態だ。そのままテクテクと俺の目の前まで歩いてくる。
一瞬目が合うのだが、直ぐに光る竜巻の中に取り込まれて見えなくなるルナ。
おう…綺麗なんだけど、現実感がなさ過ぎる。何となく心霊現象の様な、寒々しい恐ろしさを覚える光景だね。
その竜巻の中から、ルナが何やら「むふー!」と言った感じで笑ったような気がした。
うん。すごく嫌な予感しかしない。
何かをやらかすつもりだというのは、短い付き合いだがすぐに分かった。
そして、そういう時のルナの行動は、たいていの場合思いも寄らない事態を引き起こす。
洗濯の時しかり、収穫の時しかり…
頭の中で盛大に警鐘が鳴り響く。
うん、駄目だ。今までこちらの世界でこの感覚に遭遇した時は、すぐにルナを止めるべきだと本能が知っている。
「よし、ルナ。まずはストップだ。動くな。いいか?動いちゃ駄目だ。今、考えて実行しようとしていることをすぐにやめ…って、わぷ。」
遅かったかもしれない。いや、明確に遅かった。俺が少し後ずさりしながら、必死に止めようとしたのも…むなしく、ルナは行動を起こした。
何をしたかと言うと…俺に飛びついて来たのだ。しかも顔に向かって。
どこにそんなジャンプ力があるんだと一瞬考えたが、抵抗する間も無く顔をルナの体で覆われる。
柔らかいルナ感触と体温を感じる間もなく、俺は腰が引けていたことと、視界を奪われた事が祟ったのか、そのまま尻もちをついた後、完全に仰向け状態で倒れる。
ルナを取り落とす訳にはいかないので、俺は咄嗟にルナの体に手を回し、ルナの体をキープした。
「うわっと、何をしてるんですか!ルナさん!」
思わず敬語になった俺は、一回ルナを顔から強引に引きはがす…が、何やらルナの様子がおかしい。
「んふふー」と壮絶に笑い…いや、むしろ…にやけながら、俺の顔を見ている。
その目が、あれだ、表現に拘らないのであれば…いっちゃってるのだ。トランス状態である。いつものパッチリではなく、少し吊り上って意地悪な雰囲気になっているのだ。焦点も何となくずれてるし。それでいてトローンとしてる。
あれだよ。それは、少なくとも子供がして良い目じゃないよ。ルナさんや。
そして、気が付いた。更に幸せな感じの魔力が放出されているのである。
便宜上、幸せオーラと名付けよう…。
先程よりも更に濃密なその魔力は、近くに居る俺が包まれていると錯覚するほどの濃密さだった。
いや実際包まれているのか?なんつー濃度だ。溺れてると言っても過言ではない。
唖然とした俺は、ふと視線を外して見えた光景に更に絶句する。
俺達は光の中に居るのだ。いや、正確には先程の光の球の竜巻の中にいるのだろうが、もう、外の景色が全く見えない密度なのだ。さっきよりはるかに光の球が増えている。これは、もしかして、幸せオーラの影響か?
考えてみたら、あのオーラが出始めてから、光の球がやってきたような気がする。もしかして、この光の球は、このオーラと密接な関係があるのか?だとすれば、このオーラを止めれば事態は収拾するのでは…。
そこまで考えた時、耳に柔らかく、そして暖かく、しかし湿った感触を感じた。
その後、数瞬遅れてやってきた、ぞわーっという感覚に思わず、
「うひぃい!?」
と声をあげる。
何事!?と思って目を向けると…
ルナが俺の耳たぶを甘噛みしていた。
「ちょっとぉおおおお!?」
俺は完全にパニック状態だった。
なに、中年の耳たぶをかじってるんですか!?
俺がやるならなら良いけど(注:駄目です。犯罪です。)、こんな光景見て嬉しがる奴いないだろうがぁ!!誰得だ!責任者出てこい!責任者!!
って、耳舐めないでえぇぇ!!
ルナは、幸せそうに「むふー」と鼻息を荒くしながら、俺の顔をあちこち舐めたり甘噛みしたりし始めた。
俺は必死に腕でガードを試みるも、マウントポジションに鎮座したルナは、巧みに俺のガードをすり抜けて攻撃(?)
を仕掛けてくる。
きっと見ている皆は、何で起き上がらないんだよ?って思うだろ?俺もそう思うんだよ。
けど、何かよく分からない圧力が俺を押さえつけてて頭が上がらないんだよね…。
起き上がれないから、ルナに好きなようにやられてるのが現状だ。わざとじゃないんだぞ!?本気で無理なんだよ!!
あかん、駄目だ、このままでは俺の貞操…はまだ良いとしても、人として大切っぽい何かがルナに犯される。
…一瞬それでもいいんじゃね?とか思った俺がいるが、理性を総動員して抗う。
そもそも、今のルナはまともな状態じゃない訳で、元に戻った時に、ルナに悲しい思いをさせてしまうのは俺の本意ではない。
そんな真面目な思考も、ルナが首筋に吸い付いて来た感触に、思わず…うひぃいい!?
って、これ、腐った中年が味わって良い感覚じゃねぇぞ!味あわせる側に回らせ…らめぇえええ!!
ぬあー!もう駄目だ!堪忍袋の尾が切れた!じゃなくて、引きちぎらないと別の世界に旅立ちそうだ!
そう思い、戒めのチョップをルナに向けてお見舞いしようとするが、全く当たらない。なんつー回避性能だよ…。
やはり流石に、ルナをどうにかするのは気が引ける…以前にこの感じでは実力差云々で出来ないと思うが。
しかし、周りの光の球を吹き散らせば、何かしら事態が改善すると俺の勘は告げていた。
俺は、まず、ルナに一時的にでも攻撃させないように、強引に胸にかき抱いた。ルナは胸にスリスリスリスリ…って、ぞわぁーってくるわ!いつまですりよってるんじゃ!!くすぐったい!くすぐったい!!ちょっと幸せ…けど、我慢!さっきより、まだまし!!
と、なんとか集中しつつ、自分の中の魔力を輪転させて、無理矢理オーバーフローさせる。先日やったやり方だ。
しかし、今回はこの輪転を、丹田だけでなく、先程掴んだ、胸の経路まで長く伸ばす事で、より多くのエネルギーを無理矢理に捻出しようとしている。
とりあえず、現状を打開できれば何でもいいわ!半ばやけっぱちな気分で、輪転させていく。よし、回転数が…上がって…膨張…よし、きた!俺はそれに『中和し浄化する』というイメージを描きながら、更に膨張させていく。
上手く行ったら拍手あれ!っと、いけ!!
俺は、右手を虚空に突き出すと、全力で放出をイメージする。
「これで!!どうだぁ!!」
その瞬間、音も衝撃も無い爆発が俺らを包み込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先程まで、渦巻いていた光の球はゆっくりと速度を落とすと、動かずそこに漂うだけになった。
ルナから放出されこの一帯を濃密に覆っていた幸せオーラも、爆発と同時に吹き飛び、ルナからも新たに出なくなっていた。
騒ぎの元凶であるルナは、俺の胸の上で、「すぴー」と幸せそうに寝息をかいていた。
俺は右手を突きだしたままの状態で固まっていたが、状況を確認すると
ゆっくり右手を降ろし、しばらく放心したまま、大の字で倒れていた。
なんか思いのほか上手くいって良かった…と、ほっとする。
それと共に、魔法を的確に使えた事に、静かに興奮する。
しかし…
「『これで!!どうだぁ!!』じゃねぇよ…。歳考えろっての…。」
そういった後で、俺は自分の顔を右手で覆いつつ、込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。
久々に、自分の素のままの感情を剥き出しにした気がする。
考えてみたら、うつ病になってから、いつも周りを気にしてばかりだったからな。
何も考えずに感情を爆発させるっていう事自体が、そうそうある事ではなかった。
たまにはこうやって、感情をそのまま吐き出すのも悪くない…。
そんな事を思っていた時、
「はわぁー…なんだか騒がしいですが~…何かあったのでしょうか~?」
と、何とも力の抜ける声が上から降って来るのを聞いた。
なんだ?首を向けると…そこには、青い女性が浮かんでいたのだった。
すると、光る球達も、一緒にルナの周りを回りながら着いて来る。
さしずめ、光る竜巻のような状態だ。そのままテクテクと俺の目の前まで歩いてくる。
一瞬目が合うのだが、直ぐに光る竜巻の中に取り込まれて見えなくなるルナ。
おう…綺麗なんだけど、現実感がなさ過ぎる。何となく心霊現象の様な、寒々しい恐ろしさを覚える光景だね。
その竜巻の中から、ルナが何やら「むふー!」と言った感じで笑ったような気がした。
うん。すごく嫌な予感しかしない。
何かをやらかすつもりだというのは、短い付き合いだがすぐに分かった。
そして、そういう時のルナの行動は、たいていの場合思いも寄らない事態を引き起こす。
洗濯の時しかり、収穫の時しかり…
頭の中で盛大に警鐘が鳴り響く。
うん、駄目だ。今までこちらの世界でこの感覚に遭遇した時は、すぐにルナを止めるべきだと本能が知っている。
「よし、ルナ。まずはストップだ。動くな。いいか?動いちゃ駄目だ。今、考えて実行しようとしていることをすぐにやめ…って、わぷ。」
遅かったかもしれない。いや、明確に遅かった。俺が少し後ずさりしながら、必死に止めようとしたのも…むなしく、ルナは行動を起こした。
何をしたかと言うと…俺に飛びついて来たのだ。しかも顔に向かって。
どこにそんなジャンプ力があるんだと一瞬考えたが、抵抗する間も無く顔をルナの体で覆われる。
柔らかいルナ感触と体温を感じる間もなく、俺は腰が引けていたことと、視界を奪われた事が祟ったのか、そのまま尻もちをついた後、完全に仰向け状態で倒れる。
ルナを取り落とす訳にはいかないので、俺は咄嗟にルナの体に手を回し、ルナの体をキープした。
「うわっと、何をしてるんですか!ルナさん!」
思わず敬語になった俺は、一回ルナを顔から強引に引きはがす…が、何やらルナの様子がおかしい。
「んふふー」と壮絶に笑い…いや、むしろ…にやけながら、俺の顔を見ている。
その目が、あれだ、表現に拘らないのであれば…いっちゃってるのだ。トランス状態である。いつものパッチリではなく、少し吊り上って意地悪な雰囲気になっているのだ。焦点も何となくずれてるし。それでいてトローンとしてる。
あれだよ。それは、少なくとも子供がして良い目じゃないよ。ルナさんや。
そして、気が付いた。更に幸せな感じの魔力が放出されているのである。
便宜上、幸せオーラと名付けよう…。
先程よりも更に濃密なその魔力は、近くに居る俺が包まれていると錯覚するほどの濃密さだった。
いや実際包まれているのか?なんつー濃度だ。溺れてると言っても過言ではない。
唖然とした俺は、ふと視線を外して見えた光景に更に絶句する。
俺達は光の中に居るのだ。いや、正確には先程の光の球の竜巻の中にいるのだろうが、もう、外の景色が全く見えない密度なのだ。さっきよりはるかに光の球が増えている。これは、もしかして、幸せオーラの影響か?
考えてみたら、あのオーラが出始めてから、光の球がやってきたような気がする。もしかして、この光の球は、このオーラと密接な関係があるのか?だとすれば、このオーラを止めれば事態は収拾するのでは…。
そこまで考えた時、耳に柔らかく、そして暖かく、しかし湿った感触を感じた。
その後、数瞬遅れてやってきた、ぞわーっという感覚に思わず、
「うひぃい!?」
と声をあげる。
何事!?と思って目を向けると…
ルナが俺の耳たぶを甘噛みしていた。
「ちょっとぉおおおお!?」
俺は完全にパニック状態だった。
なに、中年の耳たぶをかじってるんですか!?
俺がやるならなら良いけど(注:駄目です。犯罪です。)、こんな光景見て嬉しがる奴いないだろうがぁ!!誰得だ!責任者出てこい!責任者!!
って、耳舐めないでえぇぇ!!
ルナは、幸せそうに「むふー」と鼻息を荒くしながら、俺の顔をあちこち舐めたり甘噛みしたりし始めた。
俺は必死に腕でガードを試みるも、マウントポジションに鎮座したルナは、巧みに俺のガードをすり抜けて攻撃(?)
を仕掛けてくる。
きっと見ている皆は、何で起き上がらないんだよ?って思うだろ?俺もそう思うんだよ。
けど、何かよく分からない圧力が俺を押さえつけてて頭が上がらないんだよね…。
起き上がれないから、ルナに好きなようにやられてるのが現状だ。わざとじゃないんだぞ!?本気で無理なんだよ!!
あかん、駄目だ、このままでは俺の貞操…はまだ良いとしても、人として大切っぽい何かがルナに犯される。
…一瞬それでもいいんじゃね?とか思った俺がいるが、理性を総動員して抗う。
そもそも、今のルナはまともな状態じゃない訳で、元に戻った時に、ルナに悲しい思いをさせてしまうのは俺の本意ではない。
そんな真面目な思考も、ルナが首筋に吸い付いて来た感触に、思わず…うひぃいい!?
って、これ、腐った中年が味わって良い感覚じゃねぇぞ!味あわせる側に回らせ…らめぇえええ!!
ぬあー!もう駄目だ!堪忍袋の尾が切れた!じゃなくて、引きちぎらないと別の世界に旅立ちそうだ!
そう思い、戒めのチョップをルナに向けてお見舞いしようとするが、全く当たらない。なんつー回避性能だよ…。
やはり流石に、ルナをどうにかするのは気が引ける…以前にこの感じでは実力差云々で出来ないと思うが。
しかし、周りの光の球を吹き散らせば、何かしら事態が改善すると俺の勘は告げていた。
俺は、まず、ルナに一時的にでも攻撃させないように、強引に胸にかき抱いた。ルナは胸にスリスリスリスリ…って、ぞわぁーってくるわ!いつまですりよってるんじゃ!!くすぐったい!くすぐったい!!ちょっと幸せ…けど、我慢!さっきより、まだまし!!
と、なんとか集中しつつ、自分の中の魔力を輪転させて、無理矢理オーバーフローさせる。先日やったやり方だ。
しかし、今回はこの輪転を、丹田だけでなく、先程掴んだ、胸の経路まで長く伸ばす事で、より多くのエネルギーを無理矢理に捻出しようとしている。
とりあえず、現状を打開できれば何でもいいわ!半ばやけっぱちな気分で、輪転させていく。よし、回転数が…上がって…膨張…よし、きた!俺はそれに『中和し浄化する』というイメージを描きながら、更に膨張させていく。
上手く行ったら拍手あれ!っと、いけ!!
俺は、右手を虚空に突き出すと、全力で放出をイメージする。
「これで!!どうだぁ!!」
その瞬間、音も衝撃も無い爆発が俺らを包み込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先程まで、渦巻いていた光の球はゆっくりと速度を落とすと、動かずそこに漂うだけになった。
ルナから放出されこの一帯を濃密に覆っていた幸せオーラも、爆発と同時に吹き飛び、ルナからも新たに出なくなっていた。
騒ぎの元凶であるルナは、俺の胸の上で、「すぴー」と幸せそうに寝息をかいていた。
俺は右手を突きだしたままの状態で固まっていたが、状況を確認すると
ゆっくり右手を降ろし、しばらく放心したまま、大の字で倒れていた。
なんか思いのほか上手くいって良かった…と、ほっとする。
それと共に、魔法を的確に使えた事に、静かに興奮する。
しかし…
「『これで!!どうだぁ!!』じゃねぇよ…。歳考えろっての…。」
そういった後で、俺は自分の顔を右手で覆いつつ、込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。
久々に、自分の素のままの感情を剥き出しにした気がする。
考えてみたら、うつ病になってから、いつも周りを気にしてばかりだったからな。
何も考えずに感情を爆発させるっていう事自体が、そうそうある事ではなかった。
たまにはこうやって、感情をそのまま吐き出すのも悪くない…。
そんな事を思っていた時、
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