比翼の鳥

風慎

第21話:茶番

「ガレフ!!客人の前じゃぞ!!」

 長老が大声を上げ非難する。
 ああ、やはり、この自信満々なオーラを出しまくっているのがガレフとかいう馬鹿息子か。
 その顔には自信が満ち溢れ、見るものを全て見下すような目をしている。その口にはいやらしい笑みが張り付き、見るものを馬鹿にしているかのように感じられる。その体躯は大きく、2mは超えるだろうか?腕っ節はいかにも強そうだ。

 そんな長老の制止にも耳を貸さず、ガレフは俺らの方を見て、鼻を鳴らし、

「ふん。小汚い人族など、客として扱う必要も無いだろうが。耄碌もうろくしたな…じじい。」

 と、それはもう楽しそうに、俺たちを見下しながら言い放つ。
 そして、視線をレイリさんに移すと、

「よう、レイリ。少しは見れる顔になったじゃねぇか。今なら娘と一緒と言う条件で俺の妾の最下層に加えてやってもいいぜ?」

 と、ニヤニヤとした笑みを貼り付けながら、とんでもない事を言う。
 貴様!?親子丼を注文しておきながら最下層とか馬鹿じゃないか!?どう考えても最上級の丼だろうが!!
 そんなアホな俺の思考などわかるはずも無いレイリさんは、惚れ惚れするほど冷たい笑みを浮かべると、

「ごめんなさいね?坊や。子供は趣味じゃないの。出直していらっしゃいね?まぁ、何年経っても、駄目だと思うけど。」

 と、それはそれはもう、楽しそうに笑いながら素敵にバッサリと切り捨てた。こわっ!?この人敵に回したくないよ!?
 そして、何故か俺にしだれかかって来る。こら!レイリさん!俺を巻き込まないでくださいよ!?

 そんな様子を見たガレフはそれはもう、今までの自信満々な顔を一気に不機嫌なものにすると、

「ちっ。情けをかけてやれば、よりにもよって人族に肩入れかよ。人族の臭いが移った女など臭くて抱くことも敵わんわ。」

 と、どう見ても負け惜しみとしか取れない台詞を吐く。まぁ、ある意味イメージ通り、予定調和で美味しいな。
 そして、ガレフは「じゃあ、もうイイや。死ねや。」と、吐き捨てるように言うと、

『潜みし悪意。発動せよ。』

 と、魔力を乗せた力ある言葉を唱える。
 俺はその様子見た瞬間、「長老!」「レイリさん!」と、叫んだ。

 その後、長老とレイリさんが、突然胸を抑え苦しみだす。
「な…貴様…いったい…ぐっ…」そう、呟くと長老は倒れふす。
 同じように、レイリさんも「うぅ…胸が…。」と、力弱く呟きながら同じように倒れふした。

 俺は、その様子を呆然と見つめる。そして、俺も「ぐ…体が動かない…」と、呟く。
 そんな俺の様子が楽しかったのか、ガレフは、高笑いをしながら、「馬鹿が!俺に逆らうからこうなるんだよ!!」と、叫ぶ。

「ガレフ…と言ったか。2人にいったい何をした…。」

 俺は、低く呟くように、ガレフに問いかける。
 そんな俺を、ゴミでも見るように見下すと、「ふん。」と、鼻を鳴らし、「頭の悪い人族にもわかる様に教えてやるよ。俺は優しいからなぁ。」と、それは楽しそうに言い放つ。

 そんな言葉に、俺は「くっ…。」と、悔しそうに口を噛む。
 俺の様子に気を良くしたのか、ガレフは高笑いをしながら

「簡単なことだ。その2人には毒を盛っておいたんだよ!俺がキーワードを言うと発動する呪い付だ!貴様も一緒にやっておこうと思ったが、人族には効き目が薄いようだなぁ?まぁ、どの道…生かしておかないけどな!」

 そう言うと、楽しそうに「ヒャハハハ!!」と、狂ったように笑っていた。
 そんな言葉を聞いて俺は、悔しそうに「そうか…あの時のお茶が…」と弱弱しく呟いた。
 俺の言葉が聞こえたのだろう。

「そうだよ!全く、茶に仕掛けをしておいても、マイラは気づきもしねぇ。馬鹿だなあいつ!!」

 と、また高笑いをする。そうか、あの侍従はマイラさんって言うのか。
 そんな様子を俺は、黙って見つめると、「俺は…殺されるのか…」と、独白する。
 そんな俺の呟きを聞き逃さなかったガレフは、「そうだぜ?俺に無残に殺された後、犯人として首を晒されるのさ!」と、楽しそうに説明してくれる。
 それを聞いた俺は、「何故だ…。何故こんな酷いことを!!」と、声を上げた。

 悲痛な気持ちのこもった俺の言葉に、ガレフは、それはもうご機嫌な声で、こう答える。

「そんな事も判らないのかよ?人族は愚かだな!決まってるだろ?俺がこの村の長になるためだよ!」

 あまりにも自分勝手な答えに対して、俺は更に言葉をぶつける。

「そんな…。他の長老が黙っていないはずだ!」

 それに対し、ガレフは、「ケッ」と、楽しそうに吐き捨てると、

「爺どもが幾ら束になっても、俺らには勝てねぇよ。力あるものが正義だからな。」

 そう言い放ち、またも高笑いを始める。

「つまり…、あんたの率いる派閥でクーデターを起こそうって言うことか…?」

 俺がそう、苦々しく言うと、ガレフは

「ふん。今の腰抜けの爺共など、怖くもねぇ。俺達が村で最強だ!人族にも攻め込まず村全体で戦いを忘れやがった。逆らう奴は皆殺しだ!!そして、人族も皆殺しだ!!俺の天下は誰にも邪魔させねぇ!ヒャハアア!!」

 と、テンションぶっちぎりでそう宣言する。

「つまり…、戦力はあんたらだけか…。他の助勢も無しと…。」

 そんな俺の疲れたように吐き出された言葉に、「最強な俺たちに、助けとかいらねぇよ!!全部まとめてぶっ飛ばす!。」と、ガレフはなおも律儀に自信満々な声で応えてきた。

 はぁ、なんかもう、馬鹿の相手するの疲れてきたなぁ。
 もっと大事だったら…例えば人族の先導で、内紛を誘発されていたとかだったらどうしようかと思ったら、本当に、馬鹿が突っ走ってるだけだった。

「もういい加減疲れてきたので…そう言う訳ですって!」

 俺は投げやりに、大声でそう吐き出す。
 そんな俺の言葉を聞いた、レイリさんと長老が、それはもう決まりが悪そうに、ノッソリと起き上がる。
 状況を把握できていないガレフは、「は?」と、固まってしまった。

「しかし…これが血縁とは言いたくない程の愚かっぷりですね…。ツバサ様、本当に申し訳ありません。ええ、もう血族として本当に申し訳なく…。」

 そう言いながら、レイリさんが平伏する。
 そして、長老も。

「ツバサ殿。まことに、お恥ずかしい限りじゃ…。完全にワシの教育が間違っているとこれ以上無い形で見せて頂いた。穴があったら入りたいわい…。」

 と、俺に平伏してくる。ああ、もう、なんか凄い可愛そうになってくる。
 そりゃ、これが息子だったら俺も腹切りたくなるもんね。

 そんな俺達のやり取りについて来れない、ガレフと、その手下2名は、「な、何で!生きてるんだよ!!」と、わめいて、オロオロしていた。
 馬鹿だなぁ。失敗は明白なんだから襲ってくるなり、逃げるなりすべきなのに。

 俺は呆れつつ、「ああ、毒と呪いは俺が解除しておきました。」と、言っておく。それを聞いたガレフは、「は!?んなこと出来るわけねぇだろ!!」と、逆切れする。そんな事言われても、出来ちゃうんだもん。しょうがないじゃん。

 最初に、長老に【アナライズ】をかけたときに、毒が体を犯していることに気がついた俺は、不調の原因はそれと当たりをつけたのだ。
 まぁ、そうすると、誰が毒を入れたかっていう話になるわけで…そうすると、荒くれ物の馬鹿息子が筆頭の可能性が非常に高いわけだ。
 んで、先ほども手下に絡まれた俺たちが、今、長老宅にいるのも筒抜けであろうことは想像に難くない。
 それを知った馬鹿息子が、俺たちに罪を擦り付けるために、これ幸いとアクションを起こす可能性もあると俺は考えていた。
 まぁ、正直、こうも直接的に来るとは思ってなかったけどね。
 んで、歓談していた俺らに出されたお茶に、毒が入っていることがわかった俺は、それをさっくりと中和すると、レイリさんと長老様にちょっとお願いをしたのだ。
 もし、何か騒動が起きて、『俺が大声で2人を呼んだら』、『苦しそうに倒れて死んだ振りをしてくれ』と。
 その際に、長老の毒も中和しておいた。これで、最悪何が起こっても大丈夫と思っていたところにあの騒ぎである。

 こんなまどろっこしい事をした理由は、主に2つ。
 1つは、誰が、何の目的でこんなことをしたかを2人に知ってもらうこと。
 馬鹿息子が現れたと同時に、瞬殺することは簡単だったが、それだと色々面倒なことになりそうだったので、可能であれば、馬鹿息子の口から直接言質をとりたかったのだ。まぁ、ぶっちゃけ上手く行き過ぎて、俺がドン引きだが。

 もう一つは、先ほども懸念していた、他の勢力との関連があった場合、その情報を引き出す必要があったということだ。まぁ、結果として、ある意味一番安心な結果となったのは良かった。これで、陰謀が裏にあった日には、かなり大変なことになるところだったからね。

 完全に動揺していたガレフ達だったが、やっと動揺から立ち直ったのか、不敵な笑みをその顔に張り付かせ、俺らの方を見ると、

「へっ。そんな風にちょっと小ざかしく動き回ったところで結果は変わらねぇ。全員、やっちまえば同じだ!」

 そう言うと、腰に下げていたなたのような物を手に持つ。
 ガレフが獲物を持ったことで、一瞬、双方に緊張が走る。
 はぁ…。子供が持つにはちょっと危ないおもちゃだな。全く…。

 俺は、ルナを見つめると、「ルナ、こいつら宜しく。俺は外をやる。」と言う。ルナは言葉無く頷く。

「【五重奏クインテット】 By 【三重奏トリオ】 【スタン:ライオット】 スタンバイ!」

 俺が魔法陣を発動すると同時に、ルナが目の前のガレフ共を風で根こそぎぶっ飛ばした。
 と、同時に外から轟音と激しい光が届く。

 全ての敵勢を順滅したことを確信した俺とルナは、お互いに見つめあい、笑顔で頷きあった。
 そんな俺達の様子を、レイリさんと長老は固まった顔で凝視しているのだった。

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