比翼の鳥
第26話:技術
とりあえず、カスードさんに、屋根の修繕方法を伝授して貰えないか交渉する事になった。
結果、交渉も何も二つ返事で承諾して貰えた。但し、まずは俺だけ3日間、みっちりと鍛えたいとの事だ。
そして、俺がルナにその方法を伝授するという形に落ち着いた。
もしかして…女性が苦手なのか?それともそういう偏見のようなものがあるのか?と、邪推して見るものの、俺は何も言わなかった。もし女性が苦手とかだったらイメージどおり過ぎてちょっと可愛いとすら思ってしまうな。男だけど。
「それでは、カスードさん。宜しくお願いします。」
そんな失礼な思考をおくびにも出さず礼をする俺に、カスードさんは「おう。」とだけ、答えると顎で付いて来る様に指示してくる。
俺は、「んじゃ、2人とも行って来るね。」と言葉を残し、カスードさんについて行った。
残された2人は少し寂しそうな、心配そうな顔で見つめていたが、俺が笑いかけると落ち着いたのか笑みを見せてくれた。
カスードさんと俺は、村を横切ると、簡易的な柵を抜け森の一角へとやってきた。
そこは、ちょっと開けた場所になっており、背丈の高い植物がびっしりと生えている。
これは、ススキに似ている…と俺は思っていた。そう言えば、元の世界でも茅葺き屋根の原料ってススキとか芦だったもんな…と、一人納得する。
「まずぁ、小手調べといこうか。ツバサさんよ。」
「分かりました。お手柔らかによろしくお願いしますよ。」
カスードさんから突然投げかけられた言葉に、俺は丁寧に返す。
そんな俺の態度を見て、目を細めたカスードさんは、
「んじゃ、このスークを全部刈ってこいや。」
そう、あっさりと言う。
ふーん。このススキモドキはスークって言うんだね。
まぁ、俺なら余裕だけど…これ、普通の人ならきついんじゃね?
森の中のちょっと開けた場所とはいえ、100m四方…1haはあるんじゃないのかな。
これを素手でとなると、大変だろうなと思う。
「カスードさん。どんな方法でも良いんですか?」
俺は一応、確認しておく。
その問いに、カスードさんは、「おう。」とだけ短く答えた。
んじゃ、さくっとやっちゃうかね。
俺は、空間把握の為、【アナライズ】を起動させ、スークの分布範囲を測定する。
空間把握終了っと。とりあえず、地表10cm付近で刈り取るように設定する。
設定を確認した俺は、魔法陣を起動させる。まぁ、隠ぺいしてあるから見えないんだけどね。
「【セット:アナライズ】【風刃】 スタンバイ!」
今回、アナライズで解析した膨大なデータを基に値を設定する。
そして、それを動的データとして常に変動を追い記録するように設定した。
つまり、どの位置にスークがあり、どんな状態かをデータ的に追うことが出来るようになる。
そんな情報を得た風刃は、何本もの風の刃を生み出し、一瞬の間に、全てのスークを刈り取った。
「【オプション】【トルネード】 スタンバイ!」
今もスークの位置はアナライズで解析されている。
その位置を基に、制御された小型の竜巻がスークを拾い上げ一箇所に集めていく。
ちなみに、ただの竜巻ではなく俺のイメージで成形、改変された特殊な形の竜巻だ。半円状のアーチ型の竜巻で、吸い上げられたスークは空中に弧を描きつつ、一箇所へと集められていく。
吸い込み口に相当する竜巻下部だけが移動していく感じだ。イメージは掃除機だ。魔法ってこんなことも出来ちゃうから便利だよね!!
なんて思っているうちに、収集も完了した。俺の隣にスークの山。そして、スークが群生していた一角は綺麗にスークの根だけ残る空き地へと変貌していた。
元の世界では、芦やススキって地下茎だったから、それを考慮して根を残して見たわけだ。枯らすことなく何度も収穫できるなら、次回も楽だしね。
これ、何度もやる作業だったら1つの魔法として登録しておいてもいいかもなー。俺は一連の動作をメモリーしておく。
これで次回も同じようなことがあれば、すぐに収穫に移れるわけだ。応用も利くだろうし案外使える形になったかもしれない。
「カスードさん、終わりましたよ。」
そう声をかけたカスードさんは、お約束通り完全にあごを、あんぐりと落としたまま硬直していたのだった。
「リリー嬢ちゃんはとんでもねぇ奴に目を付けたな…。こりゃ参ったぜ。」
復帰したカスードさんは、開口一番そんな事を言う。
ふむ?そんなに凄いことをしたつもりは無いんだけどな。全部生活に使用されそうな魔法の応用だしなぁ。
「まぁ、ともかく、ツバサ。文句なし合格だよ。試すようなことして悪かったな。」
そんな事を言ってきた。この人、見た目は怖いけど根はいい人だな。
職人って、やっぱり真面目な分、心もまっすぐなんだろうなぁ。
俺は、少し感動しつつカスードさんの心意気に触れる。
「いえ、認めてくださってありがとうございます。人族ですから仕方ありません。」
と、俺は少しおどけた感じで返す。
そんな俺の言葉を聞いて、カスードさんは、本当に楽しそうに笑うと、
「よし、じゃあ、屋根にするために必要な加工の仕方を教えるから着いて来な!」
男の俺でも、男らしいと思うような声で、俺を促すのであった。
それから、すぐ近くの炭焼き小屋のような場所に移動すると、スークの加工技術について学んだ。
乾燥させたり燻したりと、なかなかに手間がかかるようだったが、とりあえず工程は全て魔法で代用できそうな感じだった。
しかも、恐らく魔法を使えば、速さは段違いになるはずだ…。
干すとか、燻す作業は俺の知識を基にすればそう難しい話ではなかった。試しにこっそりとやってみたが、問題無さそうだ。
やはり、この村の知識レベルは明らかに低い。そう痛感せざるを得なかったのだ。
結局、今日の1日で、屋根作りに関して一通りの手順を会得するに至った。
カスードさんからも免許皆伝をいただいた。
そして、受け取ったのは腰に括り付ける赤い紐でできた小物だった。
複雑な結び方がしてあって、作り方を懇切丁寧に学ばないと作れる気がしなかった。
どうやら、これで俺は屋根の修繕師の資格を得たことになるらしい。
早速、俺のベルトを通して、皆伝の証をくくり付けてもらった。
なるほど、こうやって色んな人に技を伝授してもらうことで地位を確立していくんだな。
俺は、この村の仕事や生活の仕組みの一端を理解したのだった。
一応、約束は3日間なので、残りの2日間をどうするのかを相談した。
どうやら、カスードさんは他にも木工の加工技術や石の加工技術など…ようは物づくりの第一線を行く人だったことがわかったのだ。
俺は、残りの2日で可能な限りその技術を学びたいことを伝えたのだ。
出来るだけ、自分の手で出来ることは増やしておきたい。特にこれからのことを考えると、この手の技術は必須だった。
カスードさんはそんな俺の申し出を快く引き受けてくれた。「なんなら弟子入りするか?」とまで言われる始末。
俺は、「考えておきます。」と、お茶を濁すと、カスードさんは少し残念そうな顔をしたのだった。
うーん、くたびれた中年にそこまで期待されても困りますって。
けど、何故かは判らないが、カスードさんがそこまで期待をかけてくれるのは素直に嬉しかったので、お礼は伝えておいた。
どうやら、カスードさんはそんな俺の言葉に照れたようで、柄にも無く
「調子に乗るな。ちょっと使えそうだから鍛えてやろうと思っただけだ。」
と、何故か顔をそっぽに向け、そう言い放った。
職人親父のツンデレとか、見ることになるとは思わなかったが…耳を恥ずかしそうにピクピクさせるカスードさんは、それはそれで親しみの持てるものだった。
俺は、「後2日間で、すっからかんになるくらい技術を盗んでやりますよ。」と、大げさに嘯く。
そんな俺の言葉に、ニヤリとしながら「ぬかせ。」と、一言。しかし、その一言にはとても楽しそうな気分が感じられたのだった。
そんな風にして、俺は1日目の修行を終了した。
と言っても、夕刻にはまだ早い時間。日の位置から考えるに、昼と夕方の丁度中間くらいだ。元の世界で言えば3時くらいか。
俺は、カスードさんの家を後にし、とりあえずはレイリ&リリー親子の家へと帰ることにする。
いつもの通り、歩く俺に注がれる視線の数々だったが、その目が少し変わったことに俺は気がついていた。
まぁ、一人と言うこともあるのだろう。大部分は奇異の視線なのだが、少し羨望の視線が混じっているようなのだ。
もっとも幾ら強化した知覚と言えども、大雑把な感情しか読めないから、確実ではないのだが…。少なくとも悪意がなくなったように見える。視線を追うと、腰に付けた皆伝の証。なるほど、これはこの村ではかなりの効力を発揮するようだ。
なし崩し的に技術習得をすることになったが、結果としてよかったな。と俺はカスードさんとの出会いに感謝する。
そう考えると、屋根をぶち壊したルナにも感謝しなくてはならなくなるのだが、なんとなく納得できない俺はそれを保留した。
そんなどうでも良いことを考えていると、「約束が違うじゃないか!!」と、怒鳴る少年の声が聞こえる。
俺がふと声のしたほうに視線を向けると、そこには困った顔をした線の細い青年と思われる白い獣人と、いかにもやんちゃで勝気そうな少年の獣人。更にその少年の影に隠れるように、心配そうに成り行きを見守る少女の獣人がいた。
この少年少女は兄弟かな?毛並みの色合いが同じだ。どちらも真っ白な毛並みに所々、色違いの房が混じっている。
俺は少し足を止め、離れたところからその言い合いの様子を見守る。
どうやら、青年が少年に薬草の採取をお願いしたらしい。が、少年は数を間違えて納品したようだ。
5本1束で、7束必要だったらしい。しかし、少年は束にすることなく渡している。計算を間違えたのだろう。
ちゃんと束で管理しておけば、仮に計算ができなくてもこの依頼は問題なかったはずだ。5本摘む。束にする。それを7回すればいい。しかし、恐らくこの少年は総量だけを考えて採集したのだろう。30本しかない。1束足りない計算だ。
だから、依頼主である青年は報酬を渡せないと主張している。それを、少年は7束分あるから報酬をよこせと、主張していたのだ。
なんかどちらも被害者的な状態に陥ってるな。正にルーズルーズの関係だ。
もちろん、この場合は少年に非があるのだろう。まぁ、青年が最初に嘘を言っていないと言う前提の元だが。
青年は結構人が良さそうだ。嫌な奴なら、怒鳴って終わりにしてもおかしくない状況だが、ちゃんと必死に説明をしている。
青年がいやなやつなら、ここで見なかったことにして通り過ぎていたところだが、青年の対応は誠実だった。文句も言わず判りやすく説明を繰り返している。
だが、少年は怒っているせいもあるんだろう。全く聞く耳を持たない。ひたすら自分の正当性を主張するだけだ。
あー、駄目だな。これは。どこまで行っても平行線だ。最終的に感情的になった両者で罵り合いになる。そんな未来が見えるようだ。
他人事だが、こういうのって放っておけないんだよな…。
人族の俺が介入するとまた厄介な事になるかもしれないなぁ…。
けど、このまま見て見ぬ振りって言うのも後味が悪すぎる。
元の世界にいた頃なら、最終的には警察とかあるんで、なるようになるだろうから放っておいたが…こんな小さな村では誰も止めないんだろう。大事にすら発展しかねないからな。
それに、上手くいけば俺のちょっとした野望を実現する足がかりができるかもしれないし。
よし、とりあえず何とかなるように頑張って見よう。
俺はそう腹を決めると、この不毛な言い争いに介入するため歩を進めるのだった。
結果、交渉も何も二つ返事で承諾して貰えた。但し、まずは俺だけ3日間、みっちりと鍛えたいとの事だ。
そして、俺がルナにその方法を伝授するという形に落ち着いた。
もしかして…女性が苦手なのか?それともそういう偏見のようなものがあるのか?と、邪推して見るものの、俺は何も言わなかった。もし女性が苦手とかだったらイメージどおり過ぎてちょっと可愛いとすら思ってしまうな。男だけど。
「それでは、カスードさん。宜しくお願いします。」
そんな失礼な思考をおくびにも出さず礼をする俺に、カスードさんは「おう。」とだけ、答えると顎で付いて来る様に指示してくる。
俺は、「んじゃ、2人とも行って来るね。」と言葉を残し、カスードさんについて行った。
残された2人は少し寂しそうな、心配そうな顔で見つめていたが、俺が笑いかけると落ち着いたのか笑みを見せてくれた。
カスードさんと俺は、村を横切ると、簡易的な柵を抜け森の一角へとやってきた。
そこは、ちょっと開けた場所になっており、背丈の高い植物がびっしりと生えている。
これは、ススキに似ている…と俺は思っていた。そう言えば、元の世界でも茅葺き屋根の原料ってススキとか芦だったもんな…と、一人納得する。
「まずぁ、小手調べといこうか。ツバサさんよ。」
「分かりました。お手柔らかによろしくお願いしますよ。」
カスードさんから突然投げかけられた言葉に、俺は丁寧に返す。
そんな俺の態度を見て、目を細めたカスードさんは、
「んじゃ、このスークを全部刈ってこいや。」
そう、あっさりと言う。
ふーん。このススキモドキはスークって言うんだね。
まぁ、俺なら余裕だけど…これ、普通の人ならきついんじゃね?
森の中のちょっと開けた場所とはいえ、100m四方…1haはあるんじゃないのかな。
これを素手でとなると、大変だろうなと思う。
「カスードさん。どんな方法でも良いんですか?」
俺は一応、確認しておく。
その問いに、カスードさんは、「おう。」とだけ短く答えた。
んじゃ、さくっとやっちゃうかね。
俺は、空間把握の為、【アナライズ】を起動させ、スークの分布範囲を測定する。
空間把握終了っと。とりあえず、地表10cm付近で刈り取るように設定する。
設定を確認した俺は、魔法陣を起動させる。まぁ、隠ぺいしてあるから見えないんだけどね。
「【セット:アナライズ】【風刃】 スタンバイ!」
今回、アナライズで解析した膨大なデータを基に値を設定する。
そして、それを動的データとして常に変動を追い記録するように設定した。
つまり、どの位置にスークがあり、どんな状態かをデータ的に追うことが出来るようになる。
そんな情報を得た風刃は、何本もの風の刃を生み出し、一瞬の間に、全てのスークを刈り取った。
「【オプション】【トルネード】 スタンバイ!」
今もスークの位置はアナライズで解析されている。
その位置を基に、制御された小型の竜巻がスークを拾い上げ一箇所に集めていく。
ちなみに、ただの竜巻ではなく俺のイメージで成形、改変された特殊な形の竜巻だ。半円状のアーチ型の竜巻で、吸い上げられたスークは空中に弧を描きつつ、一箇所へと集められていく。
吸い込み口に相当する竜巻下部だけが移動していく感じだ。イメージは掃除機だ。魔法ってこんなことも出来ちゃうから便利だよね!!
なんて思っているうちに、収集も完了した。俺の隣にスークの山。そして、スークが群生していた一角は綺麗にスークの根だけ残る空き地へと変貌していた。
元の世界では、芦やススキって地下茎だったから、それを考慮して根を残して見たわけだ。枯らすことなく何度も収穫できるなら、次回も楽だしね。
これ、何度もやる作業だったら1つの魔法として登録しておいてもいいかもなー。俺は一連の動作をメモリーしておく。
これで次回も同じようなことがあれば、すぐに収穫に移れるわけだ。応用も利くだろうし案外使える形になったかもしれない。
「カスードさん、終わりましたよ。」
そう声をかけたカスードさんは、お約束通り完全にあごを、あんぐりと落としたまま硬直していたのだった。
「リリー嬢ちゃんはとんでもねぇ奴に目を付けたな…。こりゃ参ったぜ。」
復帰したカスードさんは、開口一番そんな事を言う。
ふむ?そんなに凄いことをしたつもりは無いんだけどな。全部生活に使用されそうな魔法の応用だしなぁ。
「まぁ、ともかく、ツバサ。文句なし合格だよ。試すようなことして悪かったな。」
そんな事を言ってきた。この人、見た目は怖いけど根はいい人だな。
職人って、やっぱり真面目な分、心もまっすぐなんだろうなぁ。
俺は、少し感動しつつカスードさんの心意気に触れる。
「いえ、認めてくださってありがとうございます。人族ですから仕方ありません。」
と、俺は少しおどけた感じで返す。
そんな俺の言葉を聞いて、カスードさんは、本当に楽しそうに笑うと、
「よし、じゃあ、屋根にするために必要な加工の仕方を教えるから着いて来な!」
男の俺でも、男らしいと思うような声で、俺を促すのであった。
それから、すぐ近くの炭焼き小屋のような場所に移動すると、スークの加工技術について学んだ。
乾燥させたり燻したりと、なかなかに手間がかかるようだったが、とりあえず工程は全て魔法で代用できそうな感じだった。
しかも、恐らく魔法を使えば、速さは段違いになるはずだ…。
干すとか、燻す作業は俺の知識を基にすればそう難しい話ではなかった。試しにこっそりとやってみたが、問題無さそうだ。
やはり、この村の知識レベルは明らかに低い。そう痛感せざるを得なかったのだ。
結局、今日の1日で、屋根作りに関して一通りの手順を会得するに至った。
カスードさんからも免許皆伝をいただいた。
そして、受け取ったのは腰に括り付ける赤い紐でできた小物だった。
複雑な結び方がしてあって、作り方を懇切丁寧に学ばないと作れる気がしなかった。
どうやら、これで俺は屋根の修繕師の資格を得たことになるらしい。
早速、俺のベルトを通して、皆伝の証をくくり付けてもらった。
なるほど、こうやって色んな人に技を伝授してもらうことで地位を確立していくんだな。
俺は、この村の仕事や生活の仕組みの一端を理解したのだった。
一応、約束は3日間なので、残りの2日間をどうするのかを相談した。
どうやら、カスードさんは他にも木工の加工技術や石の加工技術など…ようは物づくりの第一線を行く人だったことがわかったのだ。
俺は、残りの2日で可能な限りその技術を学びたいことを伝えたのだ。
出来るだけ、自分の手で出来ることは増やしておきたい。特にこれからのことを考えると、この手の技術は必須だった。
カスードさんはそんな俺の申し出を快く引き受けてくれた。「なんなら弟子入りするか?」とまで言われる始末。
俺は、「考えておきます。」と、お茶を濁すと、カスードさんは少し残念そうな顔をしたのだった。
うーん、くたびれた中年にそこまで期待されても困りますって。
けど、何故かは判らないが、カスードさんがそこまで期待をかけてくれるのは素直に嬉しかったので、お礼は伝えておいた。
どうやら、カスードさんはそんな俺の言葉に照れたようで、柄にも無く
「調子に乗るな。ちょっと使えそうだから鍛えてやろうと思っただけだ。」
と、何故か顔をそっぽに向け、そう言い放った。
職人親父のツンデレとか、見ることになるとは思わなかったが…耳を恥ずかしそうにピクピクさせるカスードさんは、それはそれで親しみの持てるものだった。
俺は、「後2日間で、すっからかんになるくらい技術を盗んでやりますよ。」と、大げさに嘯く。
そんな俺の言葉に、ニヤリとしながら「ぬかせ。」と、一言。しかし、その一言にはとても楽しそうな気分が感じられたのだった。
そんな風にして、俺は1日目の修行を終了した。
と言っても、夕刻にはまだ早い時間。日の位置から考えるに、昼と夕方の丁度中間くらいだ。元の世界で言えば3時くらいか。
俺は、カスードさんの家を後にし、とりあえずはレイリ&リリー親子の家へと帰ることにする。
いつもの通り、歩く俺に注がれる視線の数々だったが、その目が少し変わったことに俺は気がついていた。
まぁ、一人と言うこともあるのだろう。大部分は奇異の視線なのだが、少し羨望の視線が混じっているようなのだ。
もっとも幾ら強化した知覚と言えども、大雑把な感情しか読めないから、確実ではないのだが…。少なくとも悪意がなくなったように見える。視線を追うと、腰に付けた皆伝の証。なるほど、これはこの村ではかなりの効力を発揮するようだ。
なし崩し的に技術習得をすることになったが、結果としてよかったな。と俺はカスードさんとの出会いに感謝する。
そう考えると、屋根をぶち壊したルナにも感謝しなくてはならなくなるのだが、なんとなく納得できない俺はそれを保留した。
そんなどうでも良いことを考えていると、「約束が違うじゃないか!!」と、怒鳴る少年の声が聞こえる。
俺がふと声のしたほうに視線を向けると、そこには困った顔をした線の細い青年と思われる白い獣人と、いかにもやんちゃで勝気そうな少年の獣人。更にその少年の影に隠れるように、心配そうに成り行きを見守る少女の獣人がいた。
この少年少女は兄弟かな?毛並みの色合いが同じだ。どちらも真っ白な毛並みに所々、色違いの房が混じっている。
俺は少し足を止め、離れたところからその言い合いの様子を見守る。
どうやら、青年が少年に薬草の採取をお願いしたらしい。が、少年は数を間違えて納品したようだ。
5本1束で、7束必要だったらしい。しかし、少年は束にすることなく渡している。計算を間違えたのだろう。
ちゃんと束で管理しておけば、仮に計算ができなくてもこの依頼は問題なかったはずだ。5本摘む。束にする。それを7回すればいい。しかし、恐らくこの少年は総量だけを考えて採集したのだろう。30本しかない。1束足りない計算だ。
だから、依頼主である青年は報酬を渡せないと主張している。それを、少年は7束分あるから報酬をよこせと、主張していたのだ。
なんかどちらも被害者的な状態に陥ってるな。正にルーズルーズの関係だ。
もちろん、この場合は少年に非があるのだろう。まぁ、青年が最初に嘘を言っていないと言う前提の元だが。
青年は結構人が良さそうだ。嫌な奴なら、怒鳴って終わりにしてもおかしくない状況だが、ちゃんと必死に説明をしている。
青年がいやなやつなら、ここで見なかったことにして通り過ぎていたところだが、青年の対応は誠実だった。文句も言わず判りやすく説明を繰り返している。
だが、少年は怒っているせいもあるんだろう。全く聞く耳を持たない。ひたすら自分の正当性を主張するだけだ。
あー、駄目だな。これは。どこまで行っても平行線だ。最終的に感情的になった両者で罵り合いになる。そんな未来が見えるようだ。
他人事だが、こういうのって放っておけないんだよな…。
人族の俺が介入するとまた厄介な事になるかもしれないなぁ…。
けど、このまま見て見ぬ振りって言うのも後味が悪すぎる。
元の世界にいた頃なら、最終的には警察とかあるんで、なるようになるだろうから放っておいたが…こんな小さな村では誰も止めないんだろう。大事にすら発展しかねないからな。
それに、上手くいけば俺のちょっとした野望を実現する足がかりができるかもしれないし。
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