比翼の鳥
第58話:秘められた想い
折角なので、桜花さんとカスードさんには、近日中に狐族の村へ行く旨を伝えておいた。
そこから、なし崩し的に今後について話し合うことになった。
リリーやルナ、此花と咲耶は料理をしてくると、炊事場へと向かった。
ティガとその子供達は、土間部分でゆっくりと親子の時間を過ごしているようだ。
俺は安心して、桜花さんとカスードさんに向き合うと、問題になるであろう算数講座とガーディアンズの訓練部分をどうするか話し合った。
とりあえず、算数講座はヨーゼフさんに引き継いでも問題ないだろうと落ち着く。
問題はガーディアンズの訓練で、新しい訓練を始めようとした場合、俺かレイリさんがいないと、訓練が滞る可能性がある点だった。
他の村へ行く以上、ルカール村の代表が付き添う必要があるのだが、それをこなせるのは俺の周りにはレイリさん以外にいない。
族長達の誰かが着いて来るという案も出たのだが、ルカール村は多種族で構成されているため、族長の一人がいなくなるだけで、何かあったときに支障が出るのだそうだ。
「あれ?じゃあ、何で銀狼族の族長であるダグスさんって、いらっしゃらないんでしょうか?」
銀狼族のまとめ役であるダグスさんがいないと、銀狼族の皆さん困っちゃうんじゃないの?
そんな俺の素朴な問いに、2人は少し困ったように言葉を濁すと、
「あー……それはだな、銀狼族が2人しかいないからなんだ。」
2人? それしかいないの!?
「元々は真面目な奴じゃったのだが……12年前の大侵攻で、銀狼族はほぼ壊滅しての……。今はダグスと奴の息子の2人だけじゃ。金狼族も、レイリやリリー、わしとあの馬鹿息子……。純血種はこれしかおらぬ。」
「なるほと……それはなかなかに……際どい状況ですね。」
俺は、今の情報の深刻さを知る。
もう、純血種を守る意義がほぼ、失われてしまっているのだ。
だからこそ、ダグスさんは好き勝手にやっているのだろうと、推察できた。
まぁ、早い話が開き直って現実逃避しまくっているとも言えるが。
そして、俺は金狼族の状況にも、憂慮する。
「……今更な話ですが、本当にレイリさんもリリーも俺に嫁がせて良いのですか?事実上、金狼族の純血種が絶えることになるのではないですか?」
「ふん……。まだ、完全にツバサ殿を認めたわけでは無いが……。そうじゃのぉ……。」
そうい桜花さんは一瞬、遠い目をした後、その視線を俺へと戻す。
「今までわしは、村のため、種族のためと言いつつ、レイリやリリーの幸せを考えておらんかった……。だからこそ、種族の事は考えず、2人には幸せになって欲しいのじゃ。」
俺はそんな桜花さんの言葉に、改めて、感謝する。
そんな簡単に割り切れる話ではないはずだ。それで、桜花さんは親の気持ちを優先して、種族を諦めた。
過去の族長に対する後ろめたさや、不甲斐なさも感じているに違いない。
それを表に出さず、俺にぶつけることも無く、黙って……では無いが、俺に2人の大切な人たちを預けてくれたことに、その心の深さと大きさを感じる。
そして、そんな桜花さんの心に触れ、俺は改めて2人を幸せにしようと決意する。
「任せてください。全力で幸せにします。」
俺は改めて、言葉にする。
それがせめてもの恩返しになればと、俺は決意を言葉にした。
そんな俺の様子を、カスードさんにからかわれ、桜花さんに鼻で笑われたが、居間には暖かい空気が流れていたのだった。
結局、レイリさんが目を覚ました後に、改めて話し合いをするので、その結果次第で対応しようと言う事になった。
まぁ、実質棚上げ状態だが、こんなものだろう。
2人は、俺をからかいながら、帰っていった。なんだかんだで暇なのだろうか?
2人が帰った後は、俺達でマッタリと話し合っていたのだが、ルナがふと、こんな事を言い始めた。
「ねぇねぇ、ツバサ。ティガさん達の名前って決めてあげないの? 」
「そう言われてみれば、皆、ティガさんですもんね。」
ルナとリリーがティガ親子を見て、そう話し合う。
なるほど、それもそうだな……。
今までは1頭だったが、これを機会に全員に名前をつけるのも良いだろう。
俺は、ティガに俺が名付けても良いかと確認をした。
ティガその俺の一言に、肯定の意を返したので、俺は名前を考え始める。
ティガの名前か……。
そうだな……。やはり、一度は敵になり……そして、一緒に戦い、今や仲間……。
まるで少年マンガのような展開だな。そうするとカッコいい名前をつけてやりたいな。
俺は暫く考えた後に、口を開く。
「迅雷とかどうだ?雄雄しいだろう?」
そういった瞬間、俺はティガに頭を丸齧りにされた。
防御障壁が緊急発動し、甲高い音を立ててティガの牙を受け止める。
俺の目の前には、ティガの口腔……。ひぃ!? 何してくれるんですか!?
前にも一回頭を丸齧りされたこともあるが、なんでこんなに顎の稼動領域が広いんですかね!?
俺の頭齧るほど顎が開くってどういう構造してるんだよ!?
そんな俺の様子を、何故か皆、呆れたように見ていたが、見かねたように皆が声をかける。
「ツバサさん?幾らなんでもその名前は可愛そうですよ。」
「どうやらお主には、名前のセンスは無いようじゃのぉ。」
「そんな事無いよ?ルナはルナって名前気に入ってるよ!何で、可愛い名前付けてあげないの? ツバサ?」
皆のその言葉で、ティガも少し溜飲が下がったのだろうか。丸齧りから、俺を解放してくれる。
そして、俺は皆の言葉に、非常に根本的な疑問を抱く。
「すまん……基本的な質問があるのだが?」
俺は、皆に言葉をかける。
「ティガは雄ではないのか?」
その瞬間、俺はまたティガに丸齧りにあうのであった。
「ひぃー!?」と、俺は思わず声を上げる。
怪我が無いとは言え、丸齧りにされるのは精神的に来るものがあるってば!?
そんな俺の様子を見た3人は、呆れるようにため息をつくのだった。
「そうですか……ティガさんは女性でしたか……。てっきり男性かと思っていました。すいませんでした。」
俺は、何故か正座をし、居間の上座へと鎮座するティガに向き合っていた。
ティガの両隣では、全く状況を理解していないだろう子ティガ達が、興味深そうに俺らを見上げて尻尾を振っている。
俺を囲むかのように、リリー、宇迦之さん、ルナが、座っていた。
わが子達はそれを離れたところで見守っている。相変わらずの安定度だ。
なんだろう、この追い詰められた感は……。
そりゃ、申し訳ないとは思うよ。男と間違えられれば怒るのも無理はないが……。
間違えても仕方ないんじゃないかなぁ……。
俺がそんな感想を抱きながらも、悪いことをしたと言う意識は存分にあるので、謝罪の言葉を吐き出す。
そんな俺の言葉に対し、ティガはまだ不機嫌そうながらも、一声鳴いて許してくれた。
「まったく……。幾らなんでも女性に失礼ですよ? ツバサさん、気をつけてくださいね?」
リリーは、前まではティガと争っていたとは思えないほど、ティガの肩をもつように、そう俺に念を押してきた。
「まぁ、あれじゃな。凄い奴じゃと思っておったが、人並みに抜けている所があって、安心できるというものじゃな。」
呆れながらも、ニヤリと笑い俺を見る宇迦之さん。
「次はちゃんと、可愛い名前ね付けてあげてね! あ、えっと……ちなみに、子供達はどちらも男の子だからね?」
ルナはフォローしてくれるだけでなく、新たな情報までくれる。ありがたい事だ。
「まぁ……面目ない。思い込みって怖いよね。じゃあ、子供達も含めて、ちゃんと考えるね。」
と言うものの、実は名前は半分決まっていた。
某国民的ヒーロー番組から、拝借しようとその時思ったのだ。
最初、ティガは男と言うイメージから除外していた、ある名前が真っ先に浮かび、俺はティガにその名を与えようと決める。
「ティガ。今日から、貴女の名前は、響にしようと思うんだけど、どうだろう?」
今までのティガを見るに、調和を保つために奔走してくれる良識人というイメージが強い。
いや、人ではないんだが……。
まぁ、そういう訳で、皆と響きあうイメージがあり、この名前をそのまま送ることとした。
ティガ……もとい、ヒビキは気に入ったようで、嬉しそうに声を上げた。
「良い名だね!!」「凛々しい名ですね!」「ほう、なかなか良いのぉ。」と、皆にも好評のようなので安心する。
「じゃあ、今度は子供達だね。君の名前は、空牙、君の名前は、顎門にしようと思う。どうかな?」
俺のそんな言葉に、ティガの子達は嬉しそうに反応して、それぞれはしゃぐ様に鳴いていた。
クウガと名付けた子は、黒に金の毛並みが線のように交互に入り乱れており、それがその名のイメージにぴったりだった。
アギトと名付けた子は、上半身の方が黒い毛で、下半身が金色の毛と、完全に分かれており、その見た目が口を開け牙を見せた猛獣を髣髴させたためだ。
そんな喜ぶ子供達を見て、ヒビキは、嬉しそうにひと声鳴くと、感謝の意を示す。
俺はそんなティガ親子を全員ひとしきり撫でてやると、ティガ達は満足したようにそれぞれ鳴いて、自分の小屋へと戻っていた。
今日は久々に再開できたことで、親子だけで過ごすのだろう。
あれ?一応俺も、家族なんだが……小屋で語らった方が良いのだろうか……と、一瞬思うものの、何か期待を込めた宇迦之さんとリリーの視線に晒され、今日はこっちが先かなと思い直す。
「さて、少し早いが皆さん、寝るとしますか?」
俺は苦笑しながら特に2人に向けてそう声をかけると、寝室に布団を敷きに行く。
てっきり、ルナと我が子達も付いてくると思っていたのだが、
「ルナはちょっとだけ、後で寝るね。」と言い、「私も少しだけルナお姉さまに付き合って夜更かしですわ。」「それがしも、しばしお時間を頂きたく。」と、それぞれ、辞退してきた。
もしかしたら、気を使わせたのかもしれない。
俺は、「そうか……。わかった。夜更かしにだけは気をつけてね。」と、声をかけると、寝室へと向かう。
そんなルナ達を気にしつつも、リリーと宇迦之さんは期待の表れなのだろう。尻尾を膨らませながら、いそいそと布団を敷き始める。
宇迦之さんが、敷かれていく布団の数を見て、「なんか数が少なくないかの?」と言うも、リリーが、「いつも使わないので……。」と意味ありげに言う。
そんなリリーの言葉に何か感じたのか、「そ、そうか……。」と、口ごもりそのまま、黙々と布団を敷いていった。
若干、緊張をはらんだまま、布団を敷き終わり、何故か俺と正座で向かい合う2人。
あれ?それでは尻尾が……と思うも、2人には何か言いたいことがあるらしく、俺を真剣な目でじっと見ていたのでそのまま、言葉を待つ。
そして、宇迦之さんがまずは、口を開いた。
「ツバサ殿……。改めてわらわを家族の一員に迎えてくれたこと、礼を言いたい。皆、心の温かな者達ばかりで、わらわはホッとしておるのじゃ。まぁ、まさかティガまで家族の一員として迎えられているとは思わなんだが。」
そういってクスリと笑う。それに釣られたように、リリーも口を開く。
「本当に、ツバサさんは優しいんですよ?私もいつも良くしてもらっています。こんな機会でもないと面と向かって言えないので、言わせて貰いますね。」
リリーはそう言って微笑むと、
「ツバサさん。いつも私達を愛してくれてありがとうございます。私も、お母さんも、もっと愛してもらえるように頑張りますので、よろしくお願いしますね。」
そう、少し顔を赤らめながら感謝を述べてきた。
それを見て、宇迦之さんも、
「わらわも、このような見てくれではあるが、ツバサ殿に精一杯尽くすのじゃ。これからもよろしくお願いしたいのじゃ。」
そう言って頭を下げてくる。
もう、何てこの子達は健気なんでしょうか。
俺は感極まって、2人を両腕を使って抱きしめると、
「2人とも、こんな俺でも付いて来てくれてありがとう。色々失敗も多いし、異世界のこともわからない事だらけだけど……これからも頑張るから。2人ともよろしくな。」
そんな俺の言葉に答えるかのように、両側から俺を抱きしめ返してくれる感触を得る。
俺は暫く、2人の頭にある獣耳を優しく撫でていたが、その後、2人を喜ばせるべく、尻尾へと手を伸ばしたのだった。
その夜、レイリ宅から嬌声が聞こえたと、一時期村の話題になったとか何とか。
ちなみに、2人とも凄かったです。
何がとは言えない……。ただ、あえて言うなら、特に宇迦之さんが凄すぎたとだけ言っておく。
あんな可愛い子を村八分にするとか馬鹿じゃないの?と男の意見として付け足しておこう。うん。
2人の尻尾をひとしきり堪能した俺は、居間へと戻る。
ちなみに、2人とも幸せそうに昇天していたので、布団にきちんと寝かせておいた。
やはり、気を使っていてくれたのだろう。ルナは、居間で舟をこいでいた。
そんな両側でルナを支えるように、我が子達が座っている。
俺がそっとルナに近寄ると、我が子達はスッと、ルナから離れる。
目だけで我が子達にお礼を言うと、ルナに声をかける。
「ルナ。こんなところで寝ると、風邪引いちゃうぞ?」
俺がルナの正面へと移動し、片膝立ち状態でルナの顔を覗き込もうとすると、ルナは何も言わずしがみ付いてきた。
首に手を回し、俺の肩に頭を乗せるように落ち着くと、「むふー。」と幸せそうに声を出す。
何か、懐かしいものを感じた俺は、苦笑すると、ルナの頭を撫で、「気を使わせてごめんな……。」と、思わず呟くように声が出た。
ちょっと前まで、皆に嫉妬し、自分の感情をもてあましていた彼女も、本当に色々と成長しているのが良くわかる。
今は俺の行動を必死に理解しようとしてくれ、それを支えてくれている。
最近、俺は、ちょっとルナに甘えすぎていたかもしれないな……と自分の行動を振り返り反省した。
急激に人が増え、元の世界では、決してありえないこのハーレム状態。
元々異性より、明確な好意など寄せられたことが無いと言ってもいいこの俺が、こんな状態なのだ。
正直、心も手も何もかもが回らない。
彼女達、一人一人に心があって、欲求があって、俺にもそれがあって、そんなものを全員で共有してすり合わせる。
俺の能力をはるかに超えた状況だ。普通なら破綻している。
それが今も上手く回っているのは、皆の一人一人の他者に対する思いやりの結果だ。
それを望んだのは俺であるが、できるかどうかまでは話が別なのだ。
皆、本当に良く頑張ってくれていると思う。
一瞬、某恋愛シミュレーションゲームの、メモリアル的なものが思い浮かぶ。
全員に爆弾が付いて、次々に破裂する様を俺は、ゲーム内で何度も見ていた。
リアルではそんなことになったら、目も当てられない。
実際、そういう状況をリアルでは他人事ではあるものの、何回も見てきた。
もっと、皆の意識に寄り添えるようにならないとな……。
俺は、幸せそうに眠るルナの温もりを感じつつ、そんな事を考えていたのだった。
そこから、なし崩し的に今後について話し合うことになった。
リリーやルナ、此花と咲耶は料理をしてくると、炊事場へと向かった。
ティガとその子供達は、土間部分でゆっくりと親子の時間を過ごしているようだ。
俺は安心して、桜花さんとカスードさんに向き合うと、問題になるであろう算数講座とガーディアンズの訓練部分をどうするか話し合った。
とりあえず、算数講座はヨーゼフさんに引き継いでも問題ないだろうと落ち着く。
問題はガーディアンズの訓練で、新しい訓練を始めようとした場合、俺かレイリさんがいないと、訓練が滞る可能性がある点だった。
他の村へ行く以上、ルカール村の代表が付き添う必要があるのだが、それをこなせるのは俺の周りにはレイリさん以外にいない。
族長達の誰かが着いて来るという案も出たのだが、ルカール村は多種族で構成されているため、族長の一人がいなくなるだけで、何かあったときに支障が出るのだそうだ。
「あれ?じゃあ、何で銀狼族の族長であるダグスさんって、いらっしゃらないんでしょうか?」
銀狼族のまとめ役であるダグスさんがいないと、銀狼族の皆さん困っちゃうんじゃないの?
そんな俺の素朴な問いに、2人は少し困ったように言葉を濁すと、
「あー……それはだな、銀狼族が2人しかいないからなんだ。」
2人? それしかいないの!?
「元々は真面目な奴じゃったのだが……12年前の大侵攻で、銀狼族はほぼ壊滅しての……。今はダグスと奴の息子の2人だけじゃ。金狼族も、レイリやリリー、わしとあの馬鹿息子……。純血種はこれしかおらぬ。」
「なるほと……それはなかなかに……際どい状況ですね。」
俺は、今の情報の深刻さを知る。
もう、純血種を守る意義がほぼ、失われてしまっているのだ。
だからこそ、ダグスさんは好き勝手にやっているのだろうと、推察できた。
まぁ、早い話が開き直って現実逃避しまくっているとも言えるが。
そして、俺は金狼族の状況にも、憂慮する。
「……今更な話ですが、本当にレイリさんもリリーも俺に嫁がせて良いのですか?事実上、金狼族の純血種が絶えることになるのではないですか?」
「ふん……。まだ、完全にツバサ殿を認めたわけでは無いが……。そうじゃのぉ……。」
そうい桜花さんは一瞬、遠い目をした後、その視線を俺へと戻す。
「今までわしは、村のため、種族のためと言いつつ、レイリやリリーの幸せを考えておらんかった……。だからこそ、種族の事は考えず、2人には幸せになって欲しいのじゃ。」
俺はそんな桜花さんの言葉に、改めて、感謝する。
そんな簡単に割り切れる話ではないはずだ。それで、桜花さんは親の気持ちを優先して、種族を諦めた。
過去の族長に対する後ろめたさや、不甲斐なさも感じているに違いない。
それを表に出さず、俺にぶつけることも無く、黙って……では無いが、俺に2人の大切な人たちを預けてくれたことに、その心の深さと大きさを感じる。
そして、そんな桜花さんの心に触れ、俺は改めて2人を幸せにしようと決意する。
「任せてください。全力で幸せにします。」
俺は改めて、言葉にする。
それがせめてもの恩返しになればと、俺は決意を言葉にした。
そんな俺の様子を、カスードさんにからかわれ、桜花さんに鼻で笑われたが、居間には暖かい空気が流れていたのだった。
結局、レイリさんが目を覚ました後に、改めて話し合いをするので、その結果次第で対応しようと言う事になった。
まぁ、実質棚上げ状態だが、こんなものだろう。
2人は、俺をからかいながら、帰っていった。なんだかんだで暇なのだろうか?
2人が帰った後は、俺達でマッタリと話し合っていたのだが、ルナがふと、こんな事を言い始めた。
「ねぇねぇ、ツバサ。ティガさん達の名前って決めてあげないの? 」
「そう言われてみれば、皆、ティガさんですもんね。」
ルナとリリーがティガ親子を見て、そう話し合う。
なるほど、それもそうだな……。
今までは1頭だったが、これを機会に全員に名前をつけるのも良いだろう。
俺は、ティガに俺が名付けても良いかと確認をした。
ティガその俺の一言に、肯定の意を返したので、俺は名前を考え始める。
ティガの名前か……。
そうだな……。やはり、一度は敵になり……そして、一緒に戦い、今や仲間……。
まるで少年マンガのような展開だな。そうするとカッコいい名前をつけてやりたいな。
俺は暫く考えた後に、口を開く。
「迅雷とかどうだ?雄雄しいだろう?」
そういった瞬間、俺はティガに頭を丸齧りにされた。
防御障壁が緊急発動し、甲高い音を立ててティガの牙を受け止める。
俺の目の前には、ティガの口腔……。ひぃ!? 何してくれるんですか!?
前にも一回頭を丸齧りされたこともあるが、なんでこんなに顎の稼動領域が広いんですかね!?
俺の頭齧るほど顎が開くってどういう構造してるんだよ!?
そんな俺の様子を、何故か皆、呆れたように見ていたが、見かねたように皆が声をかける。
「ツバサさん?幾らなんでもその名前は可愛そうですよ。」
「どうやらお主には、名前のセンスは無いようじゃのぉ。」
「そんな事無いよ?ルナはルナって名前気に入ってるよ!何で、可愛い名前付けてあげないの? ツバサ?」
皆のその言葉で、ティガも少し溜飲が下がったのだろうか。丸齧りから、俺を解放してくれる。
そして、俺は皆の言葉に、非常に根本的な疑問を抱く。
「すまん……基本的な質問があるのだが?」
俺は、皆に言葉をかける。
「ティガは雄ではないのか?」
その瞬間、俺はまたティガに丸齧りにあうのであった。
「ひぃー!?」と、俺は思わず声を上げる。
怪我が無いとは言え、丸齧りにされるのは精神的に来るものがあるってば!?
そんな俺の様子を見た3人は、呆れるようにため息をつくのだった。
「そうですか……ティガさんは女性でしたか……。てっきり男性かと思っていました。すいませんでした。」
俺は、何故か正座をし、居間の上座へと鎮座するティガに向き合っていた。
ティガの両隣では、全く状況を理解していないだろう子ティガ達が、興味深そうに俺らを見上げて尻尾を振っている。
俺を囲むかのように、リリー、宇迦之さん、ルナが、座っていた。
わが子達はそれを離れたところで見守っている。相変わらずの安定度だ。
なんだろう、この追い詰められた感は……。
そりゃ、申し訳ないとは思うよ。男と間違えられれば怒るのも無理はないが……。
間違えても仕方ないんじゃないかなぁ……。
俺がそんな感想を抱きながらも、悪いことをしたと言う意識は存分にあるので、謝罪の言葉を吐き出す。
そんな俺の言葉に対し、ティガはまだ不機嫌そうながらも、一声鳴いて許してくれた。
「まったく……。幾らなんでも女性に失礼ですよ? ツバサさん、気をつけてくださいね?」
リリーは、前まではティガと争っていたとは思えないほど、ティガの肩をもつように、そう俺に念を押してきた。
「まぁ、あれじゃな。凄い奴じゃと思っておったが、人並みに抜けている所があって、安心できるというものじゃな。」
呆れながらも、ニヤリと笑い俺を見る宇迦之さん。
「次はちゃんと、可愛い名前ね付けてあげてね! あ、えっと……ちなみに、子供達はどちらも男の子だからね?」
ルナはフォローしてくれるだけでなく、新たな情報までくれる。ありがたい事だ。
「まぁ……面目ない。思い込みって怖いよね。じゃあ、子供達も含めて、ちゃんと考えるね。」
と言うものの、実は名前は半分決まっていた。
某国民的ヒーロー番組から、拝借しようとその時思ったのだ。
最初、ティガは男と言うイメージから除外していた、ある名前が真っ先に浮かび、俺はティガにその名を与えようと決める。
「ティガ。今日から、貴女の名前は、響にしようと思うんだけど、どうだろう?」
今までのティガを見るに、調和を保つために奔走してくれる良識人というイメージが強い。
いや、人ではないんだが……。
まぁ、そういう訳で、皆と響きあうイメージがあり、この名前をそのまま送ることとした。
ティガ……もとい、ヒビキは気に入ったようで、嬉しそうに声を上げた。
「良い名だね!!」「凛々しい名ですね!」「ほう、なかなか良いのぉ。」と、皆にも好評のようなので安心する。
「じゃあ、今度は子供達だね。君の名前は、空牙、君の名前は、顎門にしようと思う。どうかな?」
俺のそんな言葉に、ティガの子達は嬉しそうに反応して、それぞれはしゃぐ様に鳴いていた。
クウガと名付けた子は、黒に金の毛並みが線のように交互に入り乱れており、それがその名のイメージにぴったりだった。
アギトと名付けた子は、上半身の方が黒い毛で、下半身が金色の毛と、完全に分かれており、その見た目が口を開け牙を見せた猛獣を髣髴させたためだ。
そんな喜ぶ子供達を見て、ヒビキは、嬉しそうにひと声鳴くと、感謝の意を示す。
俺はそんなティガ親子を全員ひとしきり撫でてやると、ティガ達は満足したようにそれぞれ鳴いて、自分の小屋へと戻っていた。
今日は久々に再開できたことで、親子だけで過ごすのだろう。
あれ?一応俺も、家族なんだが……小屋で語らった方が良いのだろうか……と、一瞬思うものの、何か期待を込めた宇迦之さんとリリーの視線に晒され、今日はこっちが先かなと思い直す。
「さて、少し早いが皆さん、寝るとしますか?」
俺は苦笑しながら特に2人に向けてそう声をかけると、寝室に布団を敷きに行く。
てっきり、ルナと我が子達も付いてくると思っていたのだが、
「ルナはちょっとだけ、後で寝るね。」と言い、「私も少しだけルナお姉さまに付き合って夜更かしですわ。」「それがしも、しばしお時間を頂きたく。」と、それぞれ、辞退してきた。
もしかしたら、気を使わせたのかもしれない。
俺は、「そうか……。わかった。夜更かしにだけは気をつけてね。」と、声をかけると、寝室へと向かう。
そんなルナ達を気にしつつも、リリーと宇迦之さんは期待の表れなのだろう。尻尾を膨らませながら、いそいそと布団を敷き始める。
宇迦之さんが、敷かれていく布団の数を見て、「なんか数が少なくないかの?」と言うも、リリーが、「いつも使わないので……。」と意味ありげに言う。
そんなリリーの言葉に何か感じたのか、「そ、そうか……。」と、口ごもりそのまま、黙々と布団を敷いていった。
若干、緊張をはらんだまま、布団を敷き終わり、何故か俺と正座で向かい合う2人。
あれ?それでは尻尾が……と思うも、2人には何か言いたいことがあるらしく、俺を真剣な目でじっと見ていたのでそのまま、言葉を待つ。
そして、宇迦之さんがまずは、口を開いた。
「ツバサ殿……。改めてわらわを家族の一員に迎えてくれたこと、礼を言いたい。皆、心の温かな者達ばかりで、わらわはホッとしておるのじゃ。まぁ、まさかティガまで家族の一員として迎えられているとは思わなんだが。」
そういってクスリと笑う。それに釣られたように、リリーも口を開く。
「本当に、ツバサさんは優しいんですよ?私もいつも良くしてもらっています。こんな機会でもないと面と向かって言えないので、言わせて貰いますね。」
リリーはそう言って微笑むと、
「ツバサさん。いつも私達を愛してくれてありがとうございます。私も、お母さんも、もっと愛してもらえるように頑張りますので、よろしくお願いしますね。」
そう、少し顔を赤らめながら感謝を述べてきた。
それを見て、宇迦之さんも、
「わらわも、このような見てくれではあるが、ツバサ殿に精一杯尽くすのじゃ。これからもよろしくお願いしたいのじゃ。」
そう言って頭を下げてくる。
もう、何てこの子達は健気なんでしょうか。
俺は感極まって、2人を両腕を使って抱きしめると、
「2人とも、こんな俺でも付いて来てくれてありがとう。色々失敗も多いし、異世界のこともわからない事だらけだけど……これからも頑張るから。2人ともよろしくな。」
そんな俺の言葉に答えるかのように、両側から俺を抱きしめ返してくれる感触を得る。
俺は暫く、2人の頭にある獣耳を優しく撫でていたが、その後、2人を喜ばせるべく、尻尾へと手を伸ばしたのだった。
その夜、レイリ宅から嬌声が聞こえたと、一時期村の話題になったとか何とか。
ちなみに、2人とも凄かったです。
何がとは言えない……。ただ、あえて言うなら、特に宇迦之さんが凄すぎたとだけ言っておく。
あんな可愛い子を村八分にするとか馬鹿じゃないの?と男の意見として付け足しておこう。うん。
2人の尻尾をひとしきり堪能した俺は、居間へと戻る。
ちなみに、2人とも幸せそうに昇天していたので、布団にきちんと寝かせておいた。
やはり、気を使っていてくれたのだろう。ルナは、居間で舟をこいでいた。
そんな両側でルナを支えるように、我が子達が座っている。
俺がそっとルナに近寄ると、我が子達はスッと、ルナから離れる。
目だけで我が子達にお礼を言うと、ルナに声をかける。
「ルナ。こんなところで寝ると、風邪引いちゃうぞ?」
俺がルナの正面へと移動し、片膝立ち状態でルナの顔を覗き込もうとすると、ルナは何も言わずしがみ付いてきた。
首に手を回し、俺の肩に頭を乗せるように落ち着くと、「むふー。」と幸せそうに声を出す。
何か、懐かしいものを感じた俺は、苦笑すると、ルナの頭を撫で、「気を使わせてごめんな……。」と、思わず呟くように声が出た。
ちょっと前まで、皆に嫉妬し、自分の感情をもてあましていた彼女も、本当に色々と成長しているのが良くわかる。
今は俺の行動を必死に理解しようとしてくれ、それを支えてくれている。
最近、俺は、ちょっとルナに甘えすぎていたかもしれないな……と自分の行動を振り返り反省した。
急激に人が増え、元の世界では、決してありえないこのハーレム状態。
元々異性より、明確な好意など寄せられたことが無いと言ってもいいこの俺が、こんな状態なのだ。
正直、心も手も何もかもが回らない。
彼女達、一人一人に心があって、欲求があって、俺にもそれがあって、そんなものを全員で共有してすり合わせる。
俺の能力をはるかに超えた状況だ。普通なら破綻している。
それが今も上手く回っているのは、皆の一人一人の他者に対する思いやりの結果だ。
それを望んだのは俺であるが、できるかどうかまでは話が別なのだ。
皆、本当に良く頑張ってくれていると思う。
一瞬、某恋愛シミュレーションゲームの、メモリアル的なものが思い浮かぶ。
全員に爆弾が付いて、次々に破裂する様を俺は、ゲーム内で何度も見ていた。
リアルではそんなことになったら、目も当てられない。
実際、そういう状況をリアルでは他人事ではあるものの、何回も見てきた。
もっと、皆の意識に寄り添えるようにならないとな……。
俺は、幸せそうに眠るルナの温もりを感じつつ、そんな事を考えていたのだった。
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