比翼の鳥

風慎

第3話【翼の章:心 ~ 魔力】

 幸せな気分で夢の中に沈んでいたのに、いきなり大声が響いたの。

『――――アラート! バディ【佐藤 翼】の精神防壁が崩壊中。 精神崩壊が起きています。』

 なぁにー? コティ! 大声出しちゃ、め!!

『……解答いたします。現在、バディ【佐藤 翼】の精神に異常事態発生中。心的外傷トラウマによる自壊が起きています。一時的に、精神接続の解除を推奨いたします。』

 えっと……コティ? よく分からないの。ツバサが大変なの?

『―――――アラート!! 崩壊レベル5。常人では、自我虚弱により希死感を覚え、自殺を起こすレベルです。崩壊に伴う余波発生。――――フィードバックが起こる可能性大。このまま事態が推移した場合、ルナ様に精神崩壊余波が到達する可能性大。ルナ様に、精神防壁構築開始。――――構築失敗――――。ルナ様、バディ【佐藤 翼】を拒絶してください。精神防壁生成に支障が出ております。』

 ツバサが大変なの!? ルナどうすれば良いの? ツバサを助けたいの!!

『……解答いたします。推奨されません。バディ【佐藤 翼】を諦め、破棄する事を提案いたします。』

 諦め? 破棄? やめるって事だよね? なんで!? コティ酷いよ! ルナ、ツバサが良いの!!

『…………了解いたしました。それでは、バディ【佐藤 翼】の精神崩壊を、外部的に強制停止させる方法に切り替えます。この方法は、ルナ様とツバサ様の表層意識がつながる為、現在、バディ【佐藤 翼】が受けている心的外傷トラウマによる苦痛が、ルナ様にフィードバックする恐れがあります。その場合の、精神的苦痛は未知の脅威度です。それでも実行致しますか?』

 やる! ツバサを助けられるならやる! コティ、お願い!

『……了解いたしました。リンケージ接続――――完了。第二次バイパス開放――――完了。論理回路の形成に入ります。――――形成中――――完了。――バディ間のリンケージ――――構築完了。第二次精神防壁を開放――――コネクト。』

 その瞬間、ツバサから多くの何かが流れて来たの……。
 ああ、胸が……苦しい。重いの……。涙が……なんで? これは何?

『……解答いたします。バディ【佐藤 翼】より、負の感情ネガティブ・フィーリングがフィードバックした結果、ルナ様の感情に大きな負荷を与えております。』

 これが……ツバサの感情? こんなに苦しいものが? 酷い……早く、助けてあげようよ! コティ!!

『…………了解いたしました。論理バイパス拡張。バディ【佐藤 翼】の精神領域に侵入いたします。第三次精神防壁を開放―――――コネクト。同時に、強制侵入。ダイブ!!』

 その瞬間、ルナの周りの景色が歪んで、吸い込まれるように、何処かへと引っ張られていくのを感じたの。
 ツバサ……! 助けるからね!!
 そして、ルナは……暗闇の中に浮かんでいたの。

 誰かが怒っているような大声を出しているの。
 そちらに目を向けたら……あ、いた! ツバサだ!!
 けど、ツバサは、沢山の人から取り囲まれていて……。
 ツバサを取り囲んでいる人たちから、言葉が投げつけられてくるの……。
 それは、ツバサに届くと、ツバサの心を傷つけ、壊して……。

 あああ……ツバサの心が、壊れて行く。
 何で? 何でこんなに酷い事するの? 皆、何でそんなにひどい言葉をぶつけるの?
 可哀相だよ!! こんなの酷いよ!

 それでもツバサは、只々、耐えるようにその言葉を受け入れ続けているの。
 何で言い返さないの? 何で受け入れちゃうの? なんで!? なんで!!!
 投げつけられた言葉が黒い何かとなって、ツバサを呑みこもうとしているの。
 駄目!! そんなの駄目!! ツバサ! 諦めないでよ!! 何で!? こんな酷い人たち消しちゃえばいいんだよ!

 急いで魔力を……あれ?魔力が上手く……集まらないよ……?

『……解答いたします。ここは精神世界の為、通常のように魔力を使う事は不可能です。』

 え? じゃあ、どうやってツバサを助けるの?
 魔法で倒さないと!! あんな人たち、全部ルナが消しちゃうもん!!

『……解答いたします。ルナ様の魔法では、解決する事は不可能です。ここは、バディ【佐藤 翼】の精神世界です。精神攻撃によってバディ【佐藤 翼】の精神世界を強制的に不活化致します。構築開始……構築終了まで……30秒。』

 コティは、頑張ってくれている……けど、ルナの前で、酷い人たちがどんどんツバサを言葉で傷つけるの。
 酷い……なんで? ツバサを虐めるのはどうして? 段々、ルナの中から熱い気持ちが湧き出てくるの。
 この噴出しそうな……この気持ちは……何? 叫びたい! あんな人達!! あんな酷い事!!
 そう思ったら……思わず、声が出たの。

「違う!!違う!!ツバサはそんなんじゃない!!」

 その瞬間……ルナの体から光が……全てを……呑み込んで。

『アラート!! 精神波【psychic waves】発生。 ……防壁……。』

 コティが、何か言ったような気がしたけど……ルナは……。



 目を覚ますと、そこはいつも寝ている場所だったの。
 ツバサ!? ルナはツバサに跨って必死に声をかけたの。
 けど、さっきの酷い人たちの声が、ツバサの苦しみが思い出されて、涙が……うぅー!!
 酷いよ!! 何で!? どうして、皆あんなに酷い事するの!? 分からない! 分からないよ!!

「おはようさん。どうしたの?ルナ。なんか悲しいことがあった?」

 少し疲れた顔をして、ツバサは声をかけてくれたの!
 ツバサ!! 良かった!! 良かったよぉー――!!!!
 けど、どうして、ツバサ言い返さないの!? どうして!!

 暫く、ツバサの胸を掴んで引っ張って……ようやく落ち着いて来たの。
 もう、あんなことはさせない……。あんな辛い思いをツバサにもして欲しくない。
 ルナも嫌だ……。あんな……消えてしまいそうなツバサ、見たくない!!
 だったら……ルナが守るんだ!! ツバサは、ルナが守る!

「ずっと一緒…ここ…いる。」

「わかった。」

 良かった! ツバサ一緒! ルナもっと頑張るよ!
 絶対に……ツバサを虐めた人は許さないんだから!!


 その後、ツバサが魔力の事を聞いて来たの。
 ルナ一生懸命教えるよ!!
 ……何でツバサ笑ってるの? なんでだろ? なんか、その笑顔は嫌!

「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと一生懸命な姿が可愛らしかったからさ。微笑ましくって。」

 可愛い? なんだろ? コティ? 知ってる?
 ……あれ? コティの返事がないよ? どうしたんだろ? 寝てるのかなぁ?
 だから、ツバサに聞いてみたの。

「うーん。人によってそう感じるかはマチマチなんだけど…見ていて心が温かくなったり、思わず抱きしめたくなっちゃうようなものかな?守ってあげたいーっていう気持ちになるのもそうかも?犬とか猫とか鳥みたいな小動物を見るとそう感じる人は多いと思うよ?」

 心が温かく……抱きしめる……守ってあげたい!
 ツバサの事かなぁ? ツバサと一緒に居ると温かいよ!
 んーけど、鳥さんも良いなー。
 そう答えたら、ツバサも鳥さん好きって! んふー! 一緒!
 あれれ? じゃあ、ツバサはルナが可愛い?

「うん。とっても可愛いと思うよ?」

 ツバサも可愛いと思うよ! ルナ、ツバサをぎゅーってするの好きだもん!
 ツバサも同じで、ルナを抱きしめたいって事だよね!

「抱く?…いいよ?」

 そうしたら、ツバサが変な顔して目を逸らすの。
 何で? ルナ、抱き締めてくれないの?
 何だかその後、ツバサは変な動きを繰り返してたの。
 変なツバサ―。
 なんだか突然、ツバサは疲れた顔になっちゃったの。
 何でだろ?

 けど、その後、ツバサはルナを高く持ちあげてクルクル回ってくれたの!
 凄い!! 凄い!! ツバサ!! 気持ちいいよ! 楽しいの!
 可愛いって、良いね!! ルナ、可愛い好きになったの!

「うん。可愛いことは良いことだね。俺の故郷では『可愛いは正義!』って言う言葉がある位だからね。」

 正義? なんだろ?
 そしたら、ツバサは、喜ばれる事って教えてくれたの。
 ルナが正義したら、ツバサも喜んでくれるかな?
 可愛いして、正義したら、ツバサはもっと喜んでくれる?
 ルナ、頑張ろ! 可愛いするもん! 正義もするもん!


 この前ルナが切っちゃった、リンゴ(仮)の木さんの場所に来たの。
 ルナ、治療魔法頑張るよ!
 早く、元通りになると良いなぁ……。

『――――システム・リブート。セルフチェックを実行します……………………完了。』

 あ、コティ、おはよう。眠かったの?

『解答いたします。情報に欠落がある為、断言はできませんが、バディ【佐藤 翼】の精神世界にて、何らかの負荷がかかった為と推察されます。――――ログ解析中――――ログの一部分に、破損があります。直前の行動記録がありません。』

 んー?よく分からないけど、コティ大丈夫なの? 怪我してない?

『……解答いたします。現在は、正常に稼働しております。ご心配をおかけし、申し訳ありません。』

 良かった! コティ。無理しちゃ、め! よ?

『……了解致しました。……バディ【佐藤 翼】のバイタルを確認。正常値です。精神汚染も見受けられません。今後の行動にも支障なしと判断いたします。』

 うん! ツバサもルナも元気だよ! コティも元気になって良かったね!

『……解答いたします。ありがとうございます。』

 そうして、全部の木に回復魔法をかけたの。
 やっと終わった! ツバサは何してるのかなー?
 駆け寄ったら、ツバサは一生懸命、魔法を練習しているみたいだったの。
 凄い……ツバサの魔力……凄い綺麗! キラキラしてる!!

 ツバサはどうやら、一所懸命でルナに気が付いていない様なの。
 けど、こうやってツバサの魔力を近くで見れるなら良いかなー。

 ルナは、そうやって、ツバサの綺麗な魔力をじーっと見つめてたの。
 ツバサの黒くてキラキラした魔力は、流れる度に色が変わって、夢のような光景だったの。
 こんな素敵な光景がいつまでも続けばいいのにね!!

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