比翼の鳥

風慎

第6話【翼の章:魔法陣 ~ 第一村人発見(前半)】

 それから、何日か経ったある日の事だったの。
 ちょっと飛び跳ねてたら、ルナの服が、音を立てて破れちゃったの……。
 最近、胸とかお尻とか凄く大きくなってきて……そのせいだと思うんだけど。
 服が無いと、なんだか、スースーして落ち着かない……服って大事だったんだね。
 急いでツバサに相談に行ったら、なんでだろう? ツバサはルナの事見てくれないの。

「ちょ!? ルナさん!? ああ、そうか!! ちょい待ち!! 待てよ!? 少しだけな!!」

 クルッと後ろを向いて、深呼吸をしたと思ったら、いきなりツバサも服を脱ぎ始めて、着ていた白い服を水魔法で洗い始めたの。
 ルナの方は全然見てくれなくて、ちょっとションボリ。
 それでね、白いシャツを今度は、風の魔法かな? それで、すぐに乾かして、向こうを向いたままルナにくれたの。
 わぁ!! これ、ツバサの服でしょ!? 良いの? 良いのかな!?
 嬉しいな!! あ、これ着やすい! つるつるで引っかからない! 凄いな!!
 どう? ツバサ? 似合うかな? えへへ! 嬉しいなぁ! ツバサの着てた服!!

 ルナがそんな風にクルクル回りながら、はしゃいでいたらね……ツバサは最近見るようになった、熱い視線をルナに向けて来て、ポーって止まったちゃったの。
 なんだか、そういう目で見られると、ルナも変な気分になるんだよ? 胸の奥がうずうずしてきて……なんだろ?

『……解答いたします。ツバサ様は、ルナ様の姿に女性を感じておるようです。一言で言えば、欲情しております。(……下種め……。)』

 ん? コティ? 女性を感じる……? 欲情? どういう意味だろ?
 あれ? なんだか、最後だけ良く聞き取れなかったよ? コティ、大丈夫?

『……解答いたします。男性は、女性に対し、特別な感情を抱く事が御座います。それだけルナ様が魅力的であるという事です。ルナ様の事は、私が全力で守りますのでご安心を。そして、私の事でしたら問題ありません。ご心配いただきありがとうございます。』

 そ、そうなの? そっかー。良く分からないけど、ツバサがそう言う目で見てくれるようになったのも、コティのお蔭だよね!
 コティ、ありがとうね! ふふふ♪ これでツバサも、もーっとルナの事、見てくれるようになるかな?
 そんな風に、嬉しくてクルクルと回っていたら、ツバサが焦った様に声をかけて来たの。

「だぁああああ!? ルナさんや! ちょいストップ!! これを!! これをだな!! 腰に巻いてくれ!! 頼むから!!」

 ん? それ、破れたルナの服? 何で? 良いから着けろって? んー? なんで?
 ルナが不思議がっていると、ツバサが目を逸らしながら、ささっと破れた服を巻いてくれたの。
 何だかよく分からないけど……ツバサがそうして欲しいなら良いよ? 膝くらいまで垂らせばいいの? 分かった!
 ツバサはなんだかとっても疲れた顔……。どうしたの? ツバサ?
 そう聞いても、真っ赤な顔のまま、変な笑い方しかしないの。変なツバサ!


 その日から、ツバサは何故か、ルナと一緒に寝てくれなくなったの……。
 なんで!? ツバサと一緒が良いの!! え? 恐い人になっちゃうの?
 いいよ!? ツバサと一緒に寝れるなら、少しくらい恐いのだって我慢できるもん!!
 何で、ツバサ困っちゃうの? ルナと一緒にいると困っちゃうの? やだよぉ!!

 結局その日は、強引にツバサの寝床に潜り込んだの。
 やだもん! ツバサがいないと、ルナ安心して寝れないし!
 それで、結局、今日はツバサは許してくれたけど、明日からは絶対ダメって……なんで!?
 そんなやり取りを聞いていた、2人が声をかけて来てくれたの。

『あー……。ルナ姉上? 父上は、戸惑っているのですよ。』
『そうですわね。ルナお姉さまが突然、女性になってしまったので……その、お父様も距離を測りかねているのですわ。』

「咲耶ちゃん? 此花ちゃん? 距離って? ルナ、ツバサと離れたくないよ!」

『お父様は、ルナお姉様を傷つけたくないからこそ、その様に振る舞っておいでですわ。』
『ええ、ルナ姉上が大切だからこそ、離れようとなさっています。』

「そんなの……よく分からないもん! ルナ、ツバサから離れたくないもん!」

 そんなルナの声に、2人とも困った様に、『『クスクス』』と笑っていたの。
 ルナ、絶対にツバサから離れないもん!
 そうして、この日から、ルナはツバサの寝床に潜り込むようになったの。
 最初こそ、必死に抵抗されたけど、ルナだって負けないもん!
 コティから、色々教わって、ツバサが動けなくなるような魔法を教えて貰ったりして、毎晩、ツバサの寝床に潜り込んでいたの。
 途中からは、此花ちゃんも咲耶ちゃんも応援してくれるようになって、ツバサはだんだん、抵抗しなくなってきたの。
 ふふふ! ルナだってやるときはやるんだから!

 けどね……? その頃辺りから、ツバサがルナの事、抱き締めてくれなくなったの。
 2人やコティは、ルナの事が嫌いになったからじゃなくて、むしろ好きになってくれたからだって言うんだけど……。
 なんだか、ルナは凄く寂しい……。好きならもっと一杯、ギュッってしてくれないの?
 ルナ、分からないの……。
 皆に聞いても、そのうち分かる日が来るって……そればっかり。

 色々知っていけば知っていくほど、分からない事が増えていくの。
 けど……ルナ、負けないもんね!! もっと、いっぱい知らない事勉強して、ツバサの役に立てるようになるんだから!!


 ツバサはその日から、新しい魔法の研究をし始めたの。
 最近、ツバサが開発したって言う魔法陣って言うのが凄いの!
 ルナじゃ、全然仕組みが分からなくて……色々な事が出来るみたい。
 そうなっちゃうと……ルナは手伝えることが無いから、ちょっと残念……。
 けど、その合間にもツバサは、色々な事をルナに教えてくれたの。

 その内の一つに歌っていう物があったの。

 ただ、音を並べるだけなのに、なんだか心がほんわかしてね……とっても素敵なの。
 それからは、ツバサに色んな歌を習って、時間のある時は歌を歌って過ごしていたの。
 歌って凄いんだ! 精霊さん達も歌が好きみたいで、ルナが歌っているとすぐに現れて、皆で一緒に歌ってくれるの。
 一人で歌う歌も素敵だけど、皆で一緒に歌う歌はもっと素敵だったの!!

 お花畑や、果樹園で、森の中や、家の中でも、色んな所で歌っていると、その場所その場所で違う精霊さん達がいるの。
 特に、ツバサと初めて出会った大樹の周りでは、沢山の精霊さん達が一緒に歌ってくれるの。
 最初は、ツバサのいるところで、ツバサを見ながら歌っていたんだけど……ルナが歌ってると、ツバサがルナの事を見つめて来るの。
 凄く嬉しくて幸せな気分になるんだけど……なんでだろう? ツバサに見つめられると、ルナ、ほっぺたも頭もポーッとなって、歌えなくなっちゃうんだよね……。
 ツバサもなんだか、歌っているルナの事が気になっちゃうから、作業が進まないらしくて……ルナも歌う時は、ツバサから離れて歌うようになったの。

 なんでだろう? こんな気持ち初めて……。
 離れたくないけど離れたい……。見て欲しいけど見られたくない……。
 ツバサが教えてくれた、矛盾むじゅんってことだよね。
 本当に、不思議……。ルナ、自分の事なのに、自分の事が全然分からない。
 これも、ツバサが言っていたっけ? 自分の事なんて、自分でも分からないって……。
 全部ツバサが教えてくれた通りだった。凄いなぁ……ルナもツバサの役に立てる日が来るのかなぁ?


 今日も、果樹園で歌を歌っていたの。
 ツバサに教えて貰った、故郷ふるさとって曲がルナのお気に入りなの。
 なんだか、凄く綺麗で、どこかに帰りたくなるの。不思議な歌ね?
 何故だか、この曲をツバサが聞いていた時も、どこか遠くを見つめていた気がするの。
 そういう曲なんだって。歌詞は難しいからよく分かってないけど……ルナはなんだか好きなんだ。
 他にも、春の小川おがわとか、翼をください? とか、なんだか一杯教えて貰ったな。
 そうやって、次々と教えて貰った曲を、精霊さん達と一緒に歌ってたの。

 けど、ふと急に影が差した気がして……空を見上げたら、ツバサが宙に浮いてルナの事を見つめていたの。
 つ、ツバサ!? お空に浮いてるよ!? じゃなくて! 見られてたの!? いつからだろう!?
 はぅ……。何だか、急にほっぺが、頭が、はうううう……。
 その間に、ツバサはお空から降りてきたみたい。そのままルナに近付いて来たの。

 ツバサも酷いよ!! 来たなら声をかけてくれたって……。
 そんな風に、ツバサをちょっと睨んでみたら、ツバサはちょっと表情を崩したの。
 けど、そんなツバサは凄く優しい目でルナの事を見つめてくれていて……何だろう。
 凄く……凄く……体が、顔が熱いけど……幸せ……。

「ごめんごめん、あんまりにも綺麗な声で歌ってたから、少し聴き入ってしまったよ。」

 その言葉を聞いた瞬間、ルナの胸から頭の上に何か熱いものが駆け抜けて行くように、もっと熱くなって……。
 はう!? ルナ綺麗!? 嬉しい!! けど、けど、何かずるい! 何でルナこんなに熱くなってるの!?
 逆にツバサはとっても涼しそうな顔……なんか納得いかない!! ツバサずるいよ!!

 けど、そんな風に睨んでいても、ツバサは楽しそうに笑うだけ。
 そんなツバサの笑顔を見ていて、ルナもだんだん落ち着いて来たの。
 それから、ルナとツバサは色々お話して、明日、村に行く事になったの。
 ルナ、外の世界初めてだよ!! 楽しみだな!!
 そして、ツバサの飛行魔法を体験する為に、森の上へと初めて上がったの。
 ツバサの飛行魔法で上がった森の上からの景色は凄かったの。
 見る物、感じる物すべてが、初めてで……。

 ワイバーンさんは、最初はちょっと怖かったけど、話せばちゃんとわかってくれる可愛い子達だったし。
 そう言えば、そんな姿を見て、ツバサは変な笑い方してたけど……なんでだろ?
 その後、太陽が沈んで夕日になっていく瞬間を見て、ルナ、凄く感動したの。
 心の底からジーンって……何だろう? 凄く胸が揺さぶられて、言葉にならなかったの。
 何故か悲しくも無いのに涙も出そうになって……。これが本当に感動するって事なのね。
 そしたら、ツバサがふと、優しく頭を撫でてくれたの。
 どうしてなのか、ルナには分からなかったけど、凄く優しくて暖かくて……幸せだったの。

 その後、村での決め事をツバサと話し合ったの。
 何でか、ルナとツバサが一緒に寝る事は駄目って言われたの。
 やだ! ルナはツバサと一緒が良いの!!
 けど、どうしてもツバサは、良いって言ってくれなくて……。
 何で? ツバサ酷いよ! ルナ、ツバサと一緒が良いのに……。

『……提案いたします。とりあえず、ツバサ様の言う通りにすると頷いておくのが宜しいかと思います。現地に行ってみない事には、どうなるかわかりませんので。』

 そうかな? けど、ルナ、やっぱりツバサと離れて寝るの嫌だよ。

『……解答いたします。もし、そうなった場合は、実力行使で、ツバサ様を無力化する事が可能です。ツバサ様はルナ様に甘……いえ、お優しいので、結局、状況さえ作ってしまえば、お許しになられるかと推察されます。』

 んー? けど、それってツバサに嘘を付く事になるんでしょ? ルナ、ツバサに嘘つきたくないな。

『……解答いたします。ツバサ様が危惧しておられるのは、ルナ様とツバサ様の体裁でございます。その様な物は不要ですので、ツバサ様の提案自体が杞憂でしかありません。心配する必要が無いため、ルナ様が望むとおりに行動されるのが宜しいかと思われます。』

 んー? 相変わらずコティの言っていることは難しい……。
 けど、ルナもツバサと離れるの嫌だから、コティの言う通りにするね!
 ありがと! コティ!!

『とんでもありません。ルナ様の望むがままに、お進みくださいませ。』

 そうして、皆で決まり事も作って、明日村に行く事になったの。
 じゃ、寝ようね! おやすみなさいー♪

「だから…何故、俺のベッドに潜り込む!!ルナさんや!!」

 だって、安心するんだもーん。
 ふふふ♪ ツバサの温もりー。温かいなぁ。嬉しいなぁ。
 そうして、ルナは……眠りへとついたの。

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