悪意のTA

山本正純

最初の爆破

轟音を聞きつけ、寝ぐせ頭の刑事が現場に駆け付けたのは、数分後のことだった。
その刑事、鮫崎鉄平さめざきてっぺい警部の前にあるのは、瓦礫と化した石橋。大きな川を渡るための橋は、完全に倒壊している。
想定外な現場に驚く鮫崎の周りには、野次馬の村民達が集まっている。
鮫崎は村民達の顔を見渡し、彼らに尋ねた。
「怪我をされた方はいませんか?」
鮫崎の問いかけに野次馬は一斉に首を横に振る。それから刑事は再び、村民に聞く。
「誰か、倒壊の瞬間を目撃した人はいませんか?」
すると年老いた皺の目立つ男が右手を挙げた。
「ワシは見たぞ。この道を散歩してたら、急に橋が音を立てて崩れたんじゃ。何か黒い煙が上がっとったわい」
「そうそう。火薬みたいな匂いもしたわよ」
老人の隣に立つ老婆の証言を聞き、鮫崎は腕を組む。
「まさか……」
警部は数時間前のことを思い出す。数時間前、警視庁から鮫崎が所属する交番に電話が掛かってきた。
『村にある旅館、陰雷館で殺人事件が起こるかもしれない。その旅館に集まっている人々は、ある事件の関係者です。警戒してください』
月影管理官と名乗る警視庁の刑事からの通告。もしも、これが旅館で殺人事件が起こることを示唆しているとしたら。
嫌な予感が頭に過ったが、鮫崎には先に行うことがあった。
「皆さん。ご安心ください。村役場にヘリコプターの場外離着陸場が隣接しています。橋が壊れたと言っても、外部には出られます」
不安になる村民達を安心させた鮫崎警部は、携帯電話を取り出した。


「突然石橋が破壊されただと!」
警視庁の刑事部長室の中で、千間刑事部長は、喜田参事官に尋ねる。
「はい。所轄署の報告によると、村の川を渡すための石橋が、音を立てて崩れたそうです。また火薬のような匂いが現場に漂っているらしく、黒煙が破壊された石橋から昇っています。幸いにも怪我人は確認されていません」
喜田参事官の報告を聞き、千間刑事部長は腕を組む。
「厄介なことになったな。おそらく犯人は、石橋に爆弾を仕掛け、破壊したのだろう。これが月影の言っていた、悪戯ではないことの証明なんだろう。時間も予告してきた午前九時三十分」
「爆破テロですか?」
「それは分からないが、なぜ犯人は石橋を破壊したんだ? あの村の橋を爆破したとしても、そんなに被害は出ない。交通が麻痺するように、都内の交通量の多い橋を落とすのが普通だ」
「千間刑事部長。予告によれば、犯人は午前十時にマスコミを使って、犯行声明を発表するようです」
「分かっている。兎に角、次の爆破は止めないといけない」
刑事部長は東京を襲う爆破テロという危機的状況に追い込まれ、真剣な表情で、周囲を睨みつけた。


石橋が破壊されてから三十分の時間が流れ、村役場のヘリポートに、鑑識課の警察官を乗せたヘリコプターが着陸した。
警視庁から派遣された鑑識課の警察官達は、爆破されたと思われる石橋に向かう。
そうして十分後、鑑識課の警察官は、鑑識作業を済ませ、現場を取り仕切る鮫崎警部に報告した。
「鮫崎警部。石橋の瓦礫から火薬の成分とプラスチック爆弾の残骸が発見されました。爆破によって飛散した火薬も想定した、石橋を破壊した爆弾の威力は、人間を一人吹っ飛ばす程度の物です。それが数十個橋の根本に取り付けられていたようです」
「なるほど。やっぱり爆弾か。兎に角怪我人が出なくて良かったよ」
鮫崎警部は、頷きながら刑事達から離れた。それに気が付いた部下の刑事は、警部に声を掛ける。
「鮫崎警部。どちらに行かれます?」
「本庁からの要請の事情聴取に出かけるよ。陰雷館っていう旅館に、ある殺人事件の容疑者が集まっているらしいからな。俺の刑事の勘が言っているんだよ。東京の殺人事件と今回の爆破には繋がりがあるってな。一人で構わない。何しろあの旅館には本庁の刑事が宿泊しているらしいからな」
鮫崎警部は、陰雷館がある方向へ向かい、歩き始める。

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