悪意のTA

山本正純

爆破の真実

「四人目?」
高崎が首を傾げると、国枝は淡々とした口調で答えた。
「僕は四人殺したんですよ。最初は七年前、朝日奈恵子を自殺に偽装して……」
自供する国枝の声を掻き消すように、小野次郎が勢いよく席から立ち上がり、怒鳴る。
「お前が恵子を殺した!」
怒りに満ちた瞳の小野次郎の右手には、カッターナイフが握られている。小野はその刃先を殺人犯に向けた。だが、鮫崎は小野の右腕を強く掴む。
「やめろ。こんな所で敵討ちしても、彼女は喜ばない」
暴走しようとする小野次郎を静止させた鮫崎を他所に、国枝は自白を続ける。
「二人目は半年前。上条武を自宅マンションの屋上から転落死させて、昨晩は西野茂を射殺する。そして一時間くらい前、この旅館で斎藤一成を射殺。これで四人です」
「なぜ朝日奈恵子の自殺の再捜査を密に行っていた警察官を三人殺した? 自殺が偽装だったことがバレるのを阻止するためか?」
かつて同じ事件を捜査していた三人の警察官が同じ男に殺されていたという事実を知り、合田は強い口調で犯人に尋ねた。
「そうですよ。上手くいくと思ったんですけどね。あの事件を再捜査している刑事の一人が上条だってことが分かって、手始めに彼を殺害。それから残りの刑事の身元を調べて、やっと昨晩と今日、悪事を暴こうとする二人の刑事を殺せたんです」
「なぜ、朝日奈恵子を殺した?」
国枝は頬を緩め、淡々とした口調で答えた。
「簡単なことですよ。必要がなくなったから殺したんです。彼女と愛人関係のある男達が横領の疑いで逮捕されていったでしょう? あの事件も僕が仕組んだんですよ。彼らが横流しした金を、全て牧田編集部が回収した後で、横領に関する情報を警察にリークする。完璧な計画だったのに、七年越しに罪が暴かれたら面白くない。だからあの事件を再捜査している三人の刑事を殺したんです」
「朝日奈恵子絡みの横領事件の黒幕はあなただったということか? 今頃捜査二課が、牧田編集部の家宅捜索状を請求している頃だろう。続きは取調室で聞く」
合田はスーツのポケットから手錠を取り出し、国枝の手首にそれを掛ける。間もなくして、所轄署の刑事が食堂に駆け付けた。
「鮫崎警部。被疑者はヘリコプターで警視庁に移送します」
一人の制服を着た警察官が鮫崎に声を掛ける。すると鮫崎は頷いた。その頃、警視庁に移送されそうになっている国枝の顔色は、次第に青く変わっていった。そして、彼は事件の真相を見抜いた刑事へ視線を向けた。
「合田警部でしたっけ? 斎藤一成が殺害された現場に、『TA』っていう殴り書きが残されていたでしょう。あれは僕からのダイイングメッセージ。お膳立てしてくれた黒幕に、
僕は殺されると思うから」
先程の挑発的な口調から一転して、国枝は弱弱しい口調で合田に伝えた。この時の合田は、国枝の発言の真意を理解できなかった。
そして、彼は後悔することになる。


村の旅館の一室で起きた殺人事件が解決してから、三十分後の上空の景色を、ヘリコプターで移送されている国枝博は体を震わせながら、見つめた。
一方で、都内のビルの屋上には、うつ伏せの状態で横になる女の影があった。茶色のショートカットの髪型に、黒色のヘッドフォンを装着した若い女は、黒いライダースーツを着ている。その女は、両腕を伸ばし前方に転がるバレットM82を握る。そして、彼女は装着されているスコープ越しに、上空の景色を見た。
そこにヘリコプターの姿が映ると、彼女は白い歯を見せ、躊躇うことなくライフルの引き金を引いた。
バレットM82から放たれた銃弾は、ヘリコプターのエンジンに命中した途端、爆発を起こす。その景色をスコープ越しに見た瞬間、彼女は鋭い頭痛に襲われたように、歯を食いしばる。
スナイパーの女は、うつ伏せの状態から立ち上がり、十二キロ程のライフルを軽々と持ち上げた。丁度その頃、女が狙撃したヘリコプターは、操作不能な状態に陥り、道路に叩きつけられて、大破した。
国枝博が搭乗していたヘリコプターが墜落したという知らせは、すぐに警視庁に届く。


警視庁の会議室の中で千間刑事部長は腕を組み、目の前に立つ喜田参事官に尋ねた。
「被害状況は?」
「死者二十名。重軽傷者六十名です。具体的に誰が死んだのかは分かりません」
「喜田。この一見どう思う?」
「警察官を狙ったテロか。被疑者を狙った口封じのどちらかでしょう。それと今夜は会見になりはずですから、仮眠を取った方がよろしいかと」
「そうだな。奴らは石橋を爆破することで、ヘリコプターでの移送を余儀なくさせた上で、ヘリコプターを襲撃。そうすることで、国枝博を暗殺したんだろう。そんなことより、奴らはどうやって国枝の移送を知ったんだと思う?」
喜田が答えるより先に、刑事部長室のドアをノックする音が響いた。そして、捜査二課の刑事が入室して、頭を下げる。
「失礼します。刑事部長。牧田編集部が爆破されました。幸いにも怪我人は出ませんでしたが、牧田編集部のビルは倒壊しました」
「証拠は全て闇の中か。これでハッキリしたな。牧田編集部と奴らは繋がっている」
捜査二課の刑事からの報告を聞き、千間は喜田参事官の顔を見た。
「どうします?」
参事官の問い掛けに、刑事部長は机を強く叩く。
「厳戒態勢に入り、都内の警察官の総力を結集させて、新たなテロ事件を阻止する。これ以上犠牲者は出すな!」
捜査二課の刑事は、刑事部長の強い意志に対し敬礼してから、刑事部長室から立ち去った。


『臨時ニュースです。午前十一時頃、都内の道路にヘリコプターが墜落しました。墜落したヘリコプターは大破して……』
ラジオから流れてくる臨時ニュースを、路上駐車中の白色のヤンボルギーニ・ガヤンドの車内で、七三分けの男が聞いていた。
間もなくして、そのニュースを聞き、頰を緩めた彼に電話が届く。
「お疲れ様です。相変わらず仕事が早いですね」
男は電話の相手を賞賛する。
『捜査二課が牧田編集部をマークしていると知った時から、密かにビルに爆弾を仕掛けてもらいましたよ。これで牧田編集部と我々との繋がりは闇の中。一応従業員達は保護しましたよ』
「そうですか。彼女にヘリコプターを狙撃させるのは、酷いですね」
『仕方ないでしょう。あのヘリコプターを正確に狙撃できるスナイパーで、日本国内にいるのは彼女しかいませんのでね。バレットM82を使えると言ったら、ノリノリでミッションに参加してくれましたよ。それと鬼畜なのはあなたも同じですよ?退路を断たせるために用意した爆弾のスイッチを、国枝自身に押させたのだから』
電話の相手の発言に、七三分けの男は苦笑いする。
「時限式の爆弾を仕掛けても良かったけれど、半径一キロ以内の位置からスイッチを押すことで爆破する奴を試したかったから、仕方ありません。兎に角、ご協力ありがとうございます。あなたが国枝博の移送情報をリークしなかったら、暗殺は失敗していましたよ」
『それを言うなら、あなたが国枝博の腕時計に発信機を付けなかったら、計画は破綻していましたよ。それと、移送ルートを誘導するために、石橋を爆破しなかったら、あのスナイプポイントから狙撃はできなかったはず』
「まあ、お互いの協力がなかったら、犯罪計画は成立しないということですね。残り十時間。お互い頑張りましょう」
七三分けの男は電話を切り、不敵な笑みを浮かべて、白い自動車を走らせた。

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