僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

第18節ー遅い仲間入りー


「入学早々遅刻とはどういうことかな、柊」
「……すみません、寝坊しちゃいました」
「正直なのはいいことだが、ちゃんと時間通り登校してきている生徒たちに示しがつかん。後で反省文を原稿用紙5枚にまとめて書いてくること、いいね?」
「……はい」

 はい、早々遅刻しちゃった。だって、朝……。


【銀露、ぎんろー! 朝ごはんだよ、冷めちゃうよー】

 部屋に行っても、銀露いないし……。もしかしてと思って昨日の足湯東屋に行ったら……。

【うわ、案の定だ!!】
【……】

 酒瓶片手に、椅子にへたり込んで爆睡してた。呑むだけ呑んでそのまんま寝ちゃったんだろう。

【銀露起きて、朝ごはんだって!】
【うぐ……ぅぅうん……。なんじゃ……もう、朝か……】

 めちゃくちゃ苦しそうな声を出しながら起き上がった銀露は、顔面蒼白で目もうつろだった。

【頭痛い……気持ち悪い……】
【のみすぎちゃダメだって言ってたのに、まったく。ほら立って、僕遅刻しちゃうよ!】
【ぅぅう……かわやぁ……】
【え、ちょっ、いいから立って! 肩貸してあげるから!】

 と、もうてんやわんやで遅刻しちゃったわけなんだよ。弱った銀露ってイメージに合わなくて不安だったから、最後まで面倒見ちゃったのがダメだったなあ。

「なにやってんだよ……」
「いやあ、家庭の事情で仕方なかったんだよ」

 席の近いカズマが呆れた風にそう言ってきた。なんだかんだ、カズマは心配性だからなあ。昔っから遅刻なんてしたことなかった僕だから、何かあったんじゃないかって思ったみたい。
 それにしても容赦ないなあ、かがり先生。ものすごい美人な赤髪の先生なんだけど、気が強そうで怖い。
 教師としてあるべき姿っていう、自分のルールというかそういうの持ってそう。

「さて、家の事情で今日から登校となる子がいるから紹介しておこう。入ってきなさい」

 途端に、教室がざわつき始めた。そういえば、入学式の時に一つだけ空いた席があったんだよね。そこに座る予定の子か。
 家の事情も人それぞれだし、こういうこともあるのか。誰かが転校してくるみたいな様相を呈しちゃってるけど。

「おお、美人じゃん」
「え、あの子知ってるー。神社の巫女さまだ」

 入ってきた女子生徒を見て、みんなはそんな言葉を言う。巫女さまだっていう声で、思い当たる節があった僕も声を出した。

「なんだよ、知ってんのか?」
「うん。月並神社の巫女をしてた人だ」

 そうして言っているうちに、自己紹介が始まった。

鬼灯ほおずき神奈かんなです。少し遅れましたが、宜しくお願いします」
「鬼灯は月並神社で巫女をしている。知っている奴もいるだろう。仲良くしてやってくれ。鬼灯、空いている席がお前の席だ」
「わかりました」

 鬼灯さんは篝先生に一礼すると教壇から降りて……。

「……」
「え、あ……どうも」

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