僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第16節14部ー特異性ー
で、僕は酒樽を持って、長い階段を上がってせわしなく神様達にお酒を配る山神様の神使達に届けるという力仕事を始めたんだけど……。
これが結構きつい。わずか4往復目で足がガクガクしてきた。子鞠は相変わらず涼しい顔で酒樽を運んでて……多分このペースだと僕はあと6往復くらいかな。
このまま子鞠だけに任せてしまうのも心苦しいというか、自分が許せないというわがままでノルマを課したんだ。
最低でも10個は運ぶよと!
「くふふ、精が出るのう千草。頑張り屋なのは良いことじゃがあまり無理はせんようにな」
「まだまだ大丈夫だよ!」
銀露はというと、酒の泉の神酒が並々と注がれた杯片手に狐面の人と何か話しているらしかった。
僕が疲労の色を見せながらここへ降りてきたことに気づいて、声をかけてくれたみたい。
…………——。
「かか、愛らしいじゃろ」
「ええ、とても可愛らしい男の子じゃねーですか。あなたに囲わせるのは不安でしかたねーです」
「言い方が不快じゃ。わしは京矢との約束で、あやつの面倒を見ておるだけじゃからの。どうこうしようという気は無い……と、思うのじゃが」
「なんですかその煮え切らない返しは……。どうこうするつもりがあるようにしか聞こえねーですが?」
「いちいちやかましいのう。お前さんには関係ないことじゃ」
再び階段を登っていき、千草の姿が見えなくなった。山神も子鞠もおらず、今は狐面の九尾とただ二人、神酒を呑んでいた。少しばかり頰に赤みが差し、気分も良くなってきた。普通の酒と違い、酒の回りが早いようだ。
「しかし、あの子からは柊伊代とはあまりに違う匂いがします。本当に柊家の長男なのですか?」
「うん? 何故伊代のことを知っておる」
「……いえ、まあ暇つぶしの産物というかなんというか……柊伊代とは仲良くさせてもらってますから」
「現で暇つぶしするためにあの子狐を山神に据えたのか……。昔から変わらんのう、この快楽主義者が」
「あの子には遠からずこの山を任せるつもりでした。それよりも、あなたも気づいてるんじゃねーですか? 千草君は少し、現世の理からずれているでしょう」
九尾からそう言われた銀露は、眉ひとつ動かすことなく杯を口へ運んだ。はっきり言ってしまえば、そんなことは承知していた。柊京矢に頼まれた時から。
自分の息子を、家族ではなく……神に任せると言う時点で尋常ならざることなのだ。異常とも言ってもいい。
父親、娘、母親でさえどうにもできないことが千草には隠されている。それはわかっている、わかっているがそれがなんなのかまだ不確定なのだ。
「蛇姫が彼を欲しがっている理由も、その特異性にあるのかもしれねーですが……どちらにせよ、彼は普通ではねーですよ」
「普通であろうが、なかろうが、少なくとも退屈してはおらん。何か厄介なことを抱えておった時はちゃんと面倒を見てやるつもりじゃ」
だから、口出ししてくるなと。銀露はそう釘を刺しておいた。
これが結構きつい。わずか4往復目で足がガクガクしてきた。子鞠は相変わらず涼しい顔で酒樽を運んでて……多分このペースだと僕はあと6往復くらいかな。
このまま子鞠だけに任せてしまうのも心苦しいというか、自分が許せないというわがままでノルマを課したんだ。
最低でも10個は運ぶよと!
「くふふ、精が出るのう千草。頑張り屋なのは良いことじゃがあまり無理はせんようにな」
「まだまだ大丈夫だよ!」
銀露はというと、酒の泉の神酒が並々と注がれた杯片手に狐面の人と何か話しているらしかった。
僕が疲労の色を見せながらここへ降りてきたことに気づいて、声をかけてくれたみたい。
…………——。
「かか、愛らしいじゃろ」
「ええ、とても可愛らしい男の子じゃねーですか。あなたに囲わせるのは不安でしかたねーです」
「言い方が不快じゃ。わしは京矢との約束で、あやつの面倒を見ておるだけじゃからの。どうこうしようという気は無い……と、思うのじゃが」
「なんですかその煮え切らない返しは……。どうこうするつもりがあるようにしか聞こえねーですが?」
「いちいちやかましいのう。お前さんには関係ないことじゃ」
再び階段を登っていき、千草の姿が見えなくなった。山神も子鞠もおらず、今は狐面の九尾とただ二人、神酒を呑んでいた。少しばかり頰に赤みが差し、気分も良くなってきた。普通の酒と違い、酒の回りが早いようだ。
「しかし、あの子からは柊伊代とはあまりに違う匂いがします。本当に柊家の長男なのですか?」
「うん? 何故伊代のことを知っておる」
「……いえ、まあ暇つぶしの産物というかなんというか……柊伊代とは仲良くさせてもらってますから」
「現で暇つぶしするためにあの子狐を山神に据えたのか……。昔から変わらんのう、この快楽主義者が」
「あの子には遠からずこの山を任せるつもりでした。それよりも、あなたも気づいてるんじゃねーですか? 千草君は少し、現世の理からずれているでしょう」
九尾からそう言われた銀露は、眉ひとつ動かすことなく杯を口へ運んだ。はっきり言ってしまえば、そんなことは承知していた。柊京矢に頼まれた時から。
自分の息子を、家族ではなく……神に任せると言う時点で尋常ならざることなのだ。異常とも言ってもいい。
父親、娘、母親でさえどうにもできないことが千草には隠されている。それはわかっている、わかっているがそれがなんなのかまだ不確定なのだ。
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