僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
19節ー満月の夜に狼はー
一体どれだけ唇を重ねていただろう。
空中でのことだったから、とても短かったはずなんだけど……なんだかその瞬間だけすっぽりと切り取ったかのような時間の停止を味わったような気がするし……。
月の光を背にした銀露が屋根に着地した頃にはもう唇は離れていたけれど、まだ銀露の唇の感触が僕のに残ってる。
「いだっ!!」
僕を抱えていた銀露が、ふいに両腕の力をぬいたから、僕は抱えられていたままの姿勢で落下。
屋根におしりを打ち付けて酷い声を上げてしまった。
その声で、ふにゃふにゃに垂れていた尻尾とお耳がピンと立って、銀露が我に返ったような仕草を見せたんだ。
「ふあ。す、すまぬ……」
「痛いよ銀露……!!」
まだ痛むおしりをさすりながら立ち上がる僕と、まだ惚けたような顔をして、なにか確認するかのように自分の唇に人差し指と中指を這わせている銀露。
蛇姫様が追撃を加えてこないのも気にはなったけど、それ以上に銀露の変化だ。
そう長い間ではなかったけど、頬を上気させ惚けた表情で唇を撫でていた時は、まるで少女のようだった……んだけど。
一瞬にして目を細めて、にんまりと口元を歪めて、僕に視線を向けて来た時はそれこそどんな花魁ですら真似できないだろうという艶やかな大人の色気をぶつけられた。
普通にがっつり心臓が高鳴って、驚きの声が出ちゃった。
そこから銀露が何も言わないでいるというのもまたおかしなことに扇情的でどきどきする。
ひたすら高鳴り続けてる心臓を無理やり忘れて、言った。
「これで僕からの許しになった?」
「くふ」
と、いう問いかけに対して銀露は妖艶にしなを作って、人差し指と親指の先をつけ、OKのOを作って見せた。
銀露もいつの間にか現代に染まってきたなあなんて……、
「じゃあ銀露、これからもよろしくね」
「かかかっ、お安い御用じゃ」
やっぱりいつ聴いても頼もしい、銀露の言葉。
広げて上げた、銀露の10本指全てに銀色の火が灯り、その火は瞬く間に銀露と……そして僕をも巻き込んで爆発的に大きくなっていった。
僕すらを飲み込んだその銀色の火はとても眩しくて、そして優しい温かさを持っていた。
その火が僕の視界から拭き消える頃に、僕は見上げることになる。
かつて幾つもの山を統べた、銀色の毛並みを持つ誇り高き狼の姿を。
《……ウゥァアア》
全身の毛が逆立つのを感じた。僕が今いる楼閣の屋根、いや楼閣自体……この浮いた土地、その周囲の広大な空までが小さく震えてる。
《ァアアアオオオォォオオォォオーーーーー…………ン》
先ほどまで遠く、欠けていたはずの月が今は本当に近く大きなまん丸お月さまになっていた。
首をそらせ、鼻先を遥か彼方の夜空を衝くほどに高く上げ、その満月に突き刺さるような遠吠えを。
その凄まじく見事な遠吠えに、自分の体が粉々になって吹き飛んでしまったかのような錯覚を覚えるほどの衝撃を受けた。
清廉な顔に、淡く光る銀色のボリュームのある毛に包まれた体と立派な尻尾。
紅玉の瞳に切れ長の目。
そう、息をすることさえ忘れそうな……なんて美人な狼なんだろう。
空中でのことだったから、とても短かったはずなんだけど……なんだかその瞬間だけすっぽりと切り取ったかのような時間の停止を味わったような気がするし……。
月の光を背にした銀露が屋根に着地した頃にはもう唇は離れていたけれど、まだ銀露の唇の感触が僕のに残ってる。
「いだっ!!」
僕を抱えていた銀露が、ふいに両腕の力をぬいたから、僕は抱えられていたままの姿勢で落下。
屋根におしりを打ち付けて酷い声を上げてしまった。
その声で、ふにゃふにゃに垂れていた尻尾とお耳がピンと立って、銀露が我に返ったような仕草を見せたんだ。
「ふあ。す、すまぬ……」
「痛いよ銀露……!!」
まだ痛むおしりをさすりながら立ち上がる僕と、まだ惚けたような顔をして、なにか確認するかのように自分の唇に人差し指と中指を這わせている銀露。
蛇姫様が追撃を加えてこないのも気にはなったけど、それ以上に銀露の変化だ。
そう長い間ではなかったけど、頬を上気させ惚けた表情で唇を撫でていた時は、まるで少女のようだった……んだけど。
一瞬にして目を細めて、にんまりと口元を歪めて、僕に視線を向けて来た時はそれこそどんな花魁ですら真似できないだろうという艶やかな大人の色気をぶつけられた。
普通にがっつり心臓が高鳴って、驚きの声が出ちゃった。
そこから銀露が何も言わないでいるというのもまたおかしなことに扇情的でどきどきする。
ひたすら高鳴り続けてる心臓を無理やり忘れて、言った。
「これで僕からの許しになった?」
「くふ」
と、いう問いかけに対して銀露は妖艶にしなを作って、人差し指と親指の先をつけ、OKのOを作って見せた。
銀露もいつの間にか現代に染まってきたなあなんて……、
「じゃあ銀露、これからもよろしくね」
「かかかっ、お安い御用じゃ」
やっぱりいつ聴いても頼もしい、銀露の言葉。
広げて上げた、銀露の10本指全てに銀色の火が灯り、その火は瞬く間に銀露と……そして僕をも巻き込んで爆発的に大きくなっていった。
僕すらを飲み込んだその銀色の火はとても眩しくて、そして優しい温かさを持っていた。
その火が僕の視界から拭き消える頃に、僕は見上げることになる。
かつて幾つもの山を統べた、銀色の毛並みを持つ誇り高き狼の姿を。
《……ウゥァアア》
全身の毛が逆立つのを感じた。僕が今いる楼閣の屋根、いや楼閣自体……この浮いた土地、その周囲の広大な空までが小さく震えてる。
《ァアアアオオオォォオオォォオーーーーー…………ン》
先ほどまで遠く、欠けていたはずの月が今は本当に近く大きなまん丸お月さまになっていた。
首をそらせ、鼻先を遥か彼方の夜空を衝くほどに高く上げ、その満月に突き刺さるような遠吠えを。
その凄まじく見事な遠吠えに、自分の体が粉々になって吹き飛んでしまったかのような錯覚を覚えるほどの衝撃を受けた。
清廉な顔に、淡く光る銀色のボリュームのある毛に包まれた体と立派な尻尾。
紅玉の瞳に切れ長の目。
そう、息をすることさえ忘れそうな……なんて美人な狼なんだろう。
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