僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

第18節21部ー遊郭でのお手伝いー


 そもそも、蛇姫様が僕をここに引っ張り込んだっていうなら、ここに来た途端に蛇姫様に捕まっててもおかしくないはず。
 それが、僕から蛇姫様を探さないといけなくなってるっていうのは、きっと蛇姫様になんらかの考えがあって放置しているのか……。

 それとも、この桃源郷自体が檻の役割を果たしているのかな。
 いや、待てよ。確か蛇姫様は稲荷霊山でなんて言ってた……?

「ああ、そうだあんた!」
「う、へっ? はい!」

 思案していると、何かを思いついたかのように槐さんが僕の肩をがっしと掴んできた。

「あんた、まだ客取ってないならちょいと手伝っておくれよ」
「お、お手伝いですか!?」
「そうさ。酒注ぐくらいならできるだろ? ちょいと厄介な客が来ててね。新人らに任せてあるんだけど、あんたも混ざってきな」

 からからと笑って、いい経験になるよと言ってくれるのはいいんだけど……。まさか、僕がこう言ったお仕事の手伝いをさせられるなんて思ってもみなかったよ!

 断ろうかと思ったけど、どうも僕が新入り遊女だと見た槐さんが親切心で言ってくれてるみたいだから断ることもできず……。

 しかも、僕が手伝っている間に蛇姫様に掛け合ってくれるというじゃないか。

「あらなんていい呑みっぷりでござんしょ」
「ははは、ほぉら! もっと酒を持てぇっ」
「ほれ、そこの! こっちこいこっち」
「あん、悪いお方っ」

 僕が通された屋上広間では、すでに大宴会がおっぱじまっていた。というかすでにみんな出来上がってるみたいだ……。
 まるで広いやぐらのような場所。この桃源郷の街並みが360度ぐるりと見回せるようになっていて、開放感あふれる宴会場だ。

 階段下から、槐さんがぐっとガッツポーズして、がんばんなと言ってくれている。
 もう出来上がった奴らばっかだから、しれっと混ざれば問題ないよということだったけど……。

「む……無理だぁ」

 こんな乱痴気騒ぎの中に混ざれって……。
 この神様たちは、定期的にここに来て定期的に神気をばらまいていくらしいんだけど、酒しか飲まないから、ばらまく神気も少ないんだって。
 だから、人気の遊女たちが相手するでなく、新人たちに相手をさせる。

 そう、ここの遊女たちは神様たちから神気という代金をもらって遊郭で働いているんだ。

 遊女たちのほとんどは、あやかし達。
 神様たちから神気を分けてもらうことで、死角の世からあの世に言って生まれ変わったり、神様になることだってできるんだってさ。

 神様の力っていうのは、それだけ力があって貴重なものらしい。

「お、可愛いのがいるじゃねーか! ほれ、こっちきて酒注いでくれんか」
「あ、はーい」

 その男神たちは、見た目小綺麗なおじさんのようなのが多い。
 程度の悪い神様ほど、中途ハンパな見た目になるんだって。

 しかし、僕も旅館を運営する女将の息子。立派に務めを果たしてみせます。



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