僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

18節20部ー遊郭での情報収集ー

 遊郭街くるわまちというだけあって、ここはとても華やかだ。
 自分の魅力を最大限に引き出すために、着物や化粧でお洒落をした女の人たちが、道行く男たちに色目を使ってる。

 遊女さんたちはなにを見返りに、ああやってしてるのかがわからないな。
 お金目的ってわけじゃないだろうし……。

 舗装されていない、土の踏み固められた地面を綺麗な赤い鼻緒が目立つ黒塗りの下駄で蹴りながら、僕はこのなんとも言えない、独特の雰囲気を持つ場所を歩いていた。

「うわあッ!?」

 歩いていたら、突然ぬめりと僕のお尻を揉んだ手に、声をと手をあげて驚いた。

「おいあの子いい反応したぞ」
「やめとけやめとけ、男に慣れてない新顔だ。面倒くさいだけだぜ」

 そんなことを笑いながら言いつつ、遊女たちの中に消えていってしまった男神と思われる神たち。
 えええ……。えええええ。慣れてるとか慣れてない以前に男なんですけどぉお!

 いや、それより……蛇姫様だ。
 僕をここに連れてきたっていう蛇姫様を見つけて、なんとかここから出してもらわないと……。

「おお、愛いではないか。おい、ぬしを買ってやる。我を部屋に案内せい」

「その匂い、狐の娘だな。くく、俺は狐の娘が大好物なんだ。俺と来い、なに悪いようにはしないさ」

「うへへへ、姉ちゃん、いい耳してるじゃあねえか。こっちこいこっち」

 ……。
 男なんですけどおおお!!
 いや、確かに今は女の子の格好してるから……。でもそうだとしても男なんだよ。
 ちょっとでも男の雰囲気というものが残ってないものなのかな……。

 遊女さんには群がられなくなったけど、今度は男たちに群がられるようになっちゃった。
 まだあしらいやすくて助かるけどさ……。

「あん? 蛇姫様かい?」
「はい。どこにいらっしゃるかわかりませんか?」

 と、僕は色々見て回った結果、そこそこ入りやすそうな遊郭に入って、蛇姫様の情報を聞き出すことにした。
 僕を相手にしてくれたのは、猫耳二本尻尾の灰色髪のお姉さん。

 店の玄関口でお話しさせてもらってるものだから、横を男連れの遊女さんが通り過ぎたりして少し気まずい……。
 赤絨毯の建物内に座って集まる遊女さんたちに、僕を見ながらひそひそと何かを話してはクスクス笑ってるのも気になる……。

「ああ……悪いねぇ。あんたどう見ても男慣れしてない顔だから、珍しがってんのさ。安心しな、胸はないけど、男好きする顔してるさね。すぐにでも客取れるようになるさ。自信持ちな」
「あ……はあ。ありがとうございます?」

 からからと、気持ちの良い笑い方をする遊女さんだ。
 銀露ほどじゃないけど、とても美人で気さくっぽい。話しかけやすそうな感じがあったから、正解だった。

 名前はえんじゅさん。猫のあやかしで、この遊郭じゃ1、2を争う人気の人なんだって。

「しっかし、蛇姫様か」
「……いないんですか?」
「いんや。最近人の子を見初めたらしくてね。その子を手にいれるために忙しいそうなんだよ。あんたに会ってくれるかどうか……」

 あの蛇姫様がまさか人間の男に手を出そうとするなんてねぇと、困ったように笑う。

「あたしの友達にも、人間好きがいてね。いまどうしてるかねぇ」


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