僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

第18節16部ー生徒会長のお手伝いー

 九十九稲荷生徒会長は、あくまでも生徒会長として、校内に咲いた赤い桜の事を調べていたんだって。
 で、こっちにきて神使を使って情報集めしていたら僕を見つけたと。

「ここはあなたのような初心な子が来ていいところではありませんが……蛇姫が張った罠に掛かってしまったというなら仕方ねーですね」

 黒い体と赤い目の蛇に呑まれたと言うと、特に考えるまでもなく九十九さんはそう言った。
 それよりも、これから僕をどうしようかといったところのほうが悩みの種みたいだ。

「ここは元々、死者の魂を癒す場所として死角の世……いわばあの世とこの世の間にできた遊郭街です。いうならば、枯れ果てた者たちの歓楽街。そんなところに、生気に満ちた……しかもこんな可愛らしい男の子が足を踏み入れたとなると、ここの遊女たちが色めき立つのもさもありなんでしょう」

 だからあんなに群がってこられたんだ……いや、でも元々ってことは、今は少し意味合いが違ってきているのかな。

「まあ、そういうことはどうでもいいです。あなたがまんまと蛇姫の懐に飛び込んでしまったのなら、あなた自身でこの件をどうにかするほかねーのです。私は、あの銀狼と違ってあなたの保護者ではないですので、一から十まで面倒を見るつもりはねーです。わかりますね?」
「は……はい」
「ただ、この状況をどうにかするためのお手伝いはしてやります。私がここの阿婆擦れ共に、迷える子羊ちゃんが食われねーようにして差し上げましょう」
「おおっ」

 九十九さんの言葉に終始圧倒されてしまって、短くて力ない返事しか返せなかった僕だったけど、最後の九十九さんの言葉でようやく言葉に力が戻ってくれた。

 でも、僕は見逃していたんだ。その言葉を言った九十九さんの目が、獲物を見つけた獣のようにぎらついていたことを。


「阿婆擦れ共に狙われなくなるためにはどうすればいいか、分かりますか?」
「んんと……えー、わかんな」
「そうです! あなたも阿婆擦れ共と同じ格好になればいいのですよ!!」

 僕ひとこともそんなこと言ってないし! あまりに突飛な提案に、しばらく僕はぽかんとしてしまっていた。
 でも九十九さんは真面目な、それこそ生徒会長然とした態度から打って変わって、まるでいいおもちゃを見つけたかのような無邪気な表情に……。

「あの……女装しろってことですか?」
「ええ」
「やです」
「あ、生徒会長命令ですので。拒否権は認められねーです」
「ずるくないですか!?」
「ずるくねーですぅ。大丈夫ですよ。とびっきり上等な着物を着付けて差し上げますので。そうと決まれば……」

 九十九さんの口角がぐっと上がり、心底楽しそうな目を向けてきたかと思えば一言。

「その邪魔な服、脱いじゃってくださいな」

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