僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第18節12部ー赤い桜の……ー
赤い桜。咲くだけならば、問題は無い。触らぬ神に、祟りなし。
千草や伊代の会話から、そこに咲く桜には誰も近づきたがらないということだったし、学校には鬼灯の巫女もいる。
だが、一番重大な千草はどうか。
「あの可愛らしい阿呆は、神にも祟りにも触れにゆかんとするからのっ」
本殿から出た銀露は、先ほどの荒川という教師の匂いを追い、件の学校へと向かうことを決めた。
「まったく呆れるものじゃ、蛇姫にはの」
……——。
学校終わり。僕は一人で丘の上に来ていた。目的はもちろん、赤く咲いた桜だ。
それはもう真っ赤に咲いた桜の花を、じっと見上げていた。
不気味とかそれ以前に、とても見事に咲いているものだから、ふと口を突いて綺麗だななんて呟いてしまってた。
ただ、この赤い桜が気になって見に来ていた……ってだけじゃないんだよね、実は。
不気味ななんだと言われて、敬遠されているこの桜。こんなに綺麗に咲いているのに、誰にも見上げてもらえない、むしろなんで咲いたんだなんて言われるこの木が可哀想で。
そしてまだこの桜が咲いていない時なのに、ひとひら落ちてきた赤い花びらと、何かの気配。
その正体が知りたくてっていう理由もあった。
「それにしても綺麗だな」
散って、僕の手のひらに乗った柔らかな花びらは、それはもう見事な赤色を呈していた。
単に色が濃いって訳じゃない、本当に血のように赤い鮮やかな色。
しばらくそうしていると、きた。がさり、がさりという音。
枝を這うようにしているだろうその音は、僕の頭上から落ちてきていた。そう気になっていたんだ。
その気配が、どうしてもこの桜を蝕んでいるようなもののような気がして。
するすると、背後でその気配が降りてきているのを感じた。どうやらその気配は、僕に用があるらしい。
ただ、大体の察しはついていた。稲荷霊山でも、散々感じさせられた、この身体中をうぞうぞと這うような気配。
僕は意を決して振り返り、右手をその気配に伸ばした。
「シィっ」
「……やっぱり。なにか用かな?」
そこにいたのは、枝からぶら下がっていた黒く長い体とルビーのような目を持った、蛇だった。
田舎者を舐めちゃいけない。蛇を掴むことくらいどうってことはないし、毒があるかないかはじっくりと見ればわかる。
でも、わからなかった。僕に首を掴まれて石のように動かなくなったこの黒い蛇の種類が。
見たことのない蛇。毒がありそうな色をしているけど、毒牙を剥いて威嚇することも無く、じっと僕の目を見つめているようだ。
「蛇姫様の神使? っぽいけど、どうなんだろう。この桜に取り憑いてる何かなのかな……」
蛇の頭を掴みながら考え事ができるほど、僕は落ち着いていた。もしかしたら、この蛇を銀露に渡せば何かがわかるかもしれない。
そんなことを思ってたんだ。
でも、考え事なんてしている暇じゃなかった。
その蛇の目が、淡く光をもったかと思うと、その蛇の黒い体が僕の目の前にブワッと広がって……。
千草や伊代の会話から、そこに咲く桜には誰も近づきたがらないということだったし、学校には鬼灯の巫女もいる。
だが、一番重大な千草はどうか。
「あの可愛らしい阿呆は、神にも祟りにも触れにゆかんとするからのっ」
本殿から出た銀露は、先ほどの荒川という教師の匂いを追い、件の学校へと向かうことを決めた。
「まったく呆れるものじゃ、蛇姫にはの」
……——。
学校終わり。僕は一人で丘の上に来ていた。目的はもちろん、赤く咲いた桜だ。
それはもう真っ赤に咲いた桜の花を、じっと見上げていた。
不気味とかそれ以前に、とても見事に咲いているものだから、ふと口を突いて綺麗だななんて呟いてしまってた。
ただ、この赤い桜が気になって見に来ていた……ってだけじゃないんだよね、実は。
不気味ななんだと言われて、敬遠されているこの桜。こんなに綺麗に咲いているのに、誰にも見上げてもらえない、むしろなんで咲いたんだなんて言われるこの木が可哀想で。
そしてまだこの桜が咲いていない時なのに、ひとひら落ちてきた赤い花びらと、何かの気配。
その正体が知りたくてっていう理由もあった。
「それにしても綺麗だな」
散って、僕の手のひらに乗った柔らかな花びらは、それはもう見事な赤色を呈していた。
単に色が濃いって訳じゃない、本当に血のように赤い鮮やかな色。
しばらくそうしていると、きた。がさり、がさりという音。
枝を這うようにしているだろうその音は、僕の頭上から落ちてきていた。そう気になっていたんだ。
その気配が、どうしてもこの桜を蝕んでいるようなもののような気がして。
するすると、背後でその気配が降りてきているのを感じた。どうやらその気配は、僕に用があるらしい。
ただ、大体の察しはついていた。稲荷霊山でも、散々感じさせられた、この身体中をうぞうぞと這うような気配。
僕は意を決して振り返り、右手をその気配に伸ばした。
「シィっ」
「……やっぱり。なにか用かな?」
そこにいたのは、枝からぶら下がっていた黒く長い体とルビーのような目を持った、蛇だった。
田舎者を舐めちゃいけない。蛇を掴むことくらいどうってことはないし、毒があるかないかはじっくりと見ればわかる。
でも、わからなかった。僕に首を掴まれて石のように動かなくなったこの黒い蛇の種類が。
見たことのない蛇。毒がありそうな色をしているけど、毒牙を剥いて威嚇することも無く、じっと僕の目を見つめているようだ。
「蛇姫様の神使? っぽいけど、どうなんだろう。この桜に取り憑いてる何かなのかな……」
蛇の頭を掴みながら考え事ができるほど、僕は落ち着いていた。もしかしたら、この蛇を銀露に渡せば何かがわかるかもしれない。
そんなことを思ってたんだ。
でも、考え事なんてしている暇じゃなかった。
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