僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

18節10部ー危険な好奇心ー

「そんなに見に行きたいんですか? 奇特な人ですね」

 呆れた風にそんなことを言って、首を小さくかしげた鬼灯さん。僕が何でここまであの桜に食いついているのかわからないといった風だ。
 鬼灯さんは、まだ僕がそういったことに深く関わりがないと思ってる。でもこうして忠告してくれるのは、先日の神社でのことがあるからだろうな。

「……行くのは勝手ですが、危ない目にあっても知りませんよ」
「う、うん」

 意外とあっさりと許してくれた。いや、まあそりゃあ昨日今日会ったばかりでそんなに強く何かを強制してきたりはしないだろうけど……。
 危ない目ってなんだろう。あの赤い桜に近づくことが、どんな危険に繋がるんだろう。

 そこに好奇心を持ってしまう僕は、ダメなのかもしれない。

……——。

「なんでぇー。なんでみゃーだけ怒られるにゃん!!」
「あんたが真剣な場で欠伸かますからでしょう」

 朝っぱらから、何のミーティアングかと思えば、ただ部員のやる気を底上げするような演説と、大会に向けての心構えを顧問と神谷先輩から聞かされるだけの退屈なものだった。

 実際のところ、ここの弓道部はそこまで成績がいいわけじゃなくて、一部の出来のいい部員がいるからそこそこの大会に呼ばれたりしてるわけなのよ。
 だから、趣味やら何やらで軽くやってる部員からすれば、げんなりするような内容だったわ。

 美哉なんて、途中で大あくびかまして顧問に怒られてたし。

「はあ……あんなミーティング受けるくらいなら千草と噂の桜見に行ったらよかったわ」
「あー、伊代にゃん?」
「なに?」
「その噂の桜、あんまり見に行かないほうがいいにゃん」
「それよ。噂は噂でしょう? あの桜が人を攫うなんて」

 神隠し。どうやら、あの桜はこの世で咲いていいものではないと。血染めの桜だなんだと言われてるらしいわ。
 あの桜が咲いた後、誰かがお祓いをして、すぐに散る儚い桜。
 あの桜に近づいた男が消えて、一週間後、干からびたその男の屍体があっただとか。

「先生たちも少し慌ててたのには驚いたけどね。あの桜、去年は咲かなかったのにって」
「そうにゃん。しばらく様子を見て、月並神社に行くってせんせーもいるみてーにゃん」
「お祓いを頼みにかしら?」
「んーにゃ。その辺は分からんっ」

 んん、でもそういった分野の事なら、銀ちゃんが何か知ってるような気がするわね。
 帰ったら聞いてみようかしら。

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