僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

18節8部ー力の弱い巫女ー


 代々続く鬼灯の巫女。今の鬼灯さんは、丁度十代目の巫女様らしい。ただ、代を重ねるにつれて巫女としての力が弱まってきているみたい。
 初代鬼灯の巫女様が受け継いできた、とある神様の力……神気が受け継ぎの際にちょっとずつ弱くなってるんだって。

 で、銀露がその日は1日僕の部屋でずっと休んでいて、僕もずっとベッドに居座る銀露を退けることができずに次の日になってしまった。

「おはよ、銀露。朝に比べたらずいぶんましになったんじゃない?」
「……うむ。そうじゃな、ようなった。んんー……っ」

 その長くなめらかな銀色の髪に所々寝癖がついていて、伸びをした後にそれを直そうと手で押さえたりしてたんだけど……。

「お風呂入っておいでよ。昨日入ってないでしょ?」
「湯浴み……うむ。入ってこよう」

 まだ眠たげで意識もはっきりしないのか、銀露は尻尾もお耳もぺたりと伏せたまま、僕にしなだれかかってきた。

「ぬしも……」
「つれてけってかー。まあ、まだ6時だし大丈夫かな。ほらいくよ、立って」

 二日酔い明け、寝起きの銀露はあまえんぼだ。いつもは姉みたいな銀露も、こうなってしまえばかわいいものだ。
 ちなみに伊代姉は銀露の逆で、眠たくなってきたら甘えてくる。なんだかんだ言って、少しは頼りにされてるところも、僕にはあるんだ。
 一応、男だしね。

 温泉に入った後の銀露はもう普段通りだった。僕が学校に行くから、その間に行きたいところがあるということで……。

「月並神社に?」
「うむ。昨日のぬしの話を聞く限りによると、まだ放っておいても大丈夫そうじゃが、少し様子を見に行ってみようと思っての」

 様子を見に行く、というのはもちろん、その封印されている神様の事なんだろう。それとはまた別に、この町の中心に位置する月並神社がしっかりその役割を果たせているのかどうかも確認するとも言ってた。

 で、僕は伊代姉と一緒に学校へ。

「最近あんた、銀ちゃんとものすごーく仲いいわよね」
「う、うん……どしたの伊代姉、機嫌悪いね」
「私とも、ものすごーく仲良くして欲しいんだけど?」
「さすがに手を繋ぎながら登校っていうのは……」

 あんまり拒否すると伊代姉がぶすくれてしまうために、僕はしっかり手をつないだ。
 僕も嫌なわけじゃないんだけどね。小学生のときは手をつないで登校してたわけだし。
 でも今は人の目が気になって恥ずかしかったりするし何より……。

「あの、この繋ぎ方はまずいんじゃないかな」
「あはは、まずくないまずくない」

指と指同士を絡める、所謂恋人つなぎというやつを半ば無理やり。伊代姉は学校でも目立つ人だから、あんまりこういったことはしないほうがいいとは思うんだけど……。

「おはよう、柊さん」
「おはようございます、神谷先輩」

 と、校門のところで伊代姉と、なんだかすごい爽やか格好いい男子生徒が挨拶を交わした。男子生徒の神谷先輩は、校門の所で待っていたようだ。

「えっと……その子は、ああ、前にお弁当を届けてくれたっていう弟君だね」
「あ、はい、おはようございます。いつも伊代姉がお世話に……」

 と、言おうとしたところで僕の手を握る伊代姉の手に思いっきり力が込められた。

「なんでええええっ?」
「!?」
「ああ、こっちの話です神谷先輩。で、なにかご用ですか?」

 万力のように力をかけられる僕の手がみしりみしりと軋んでいるにもかかわらず、伊代姉は涼しい顔で話を続けた。

「春季大会のことについて、ミーティングをしようと思ってね。ほら、もう丁度一週間後だろう?」
「事前に言っていてもらえれば、もうすこし早く登校しましたよ」
「いや、そんなに長くはならないはずなんだ。朝礼前に、いいかな?」
「わかりました。すぐに行きます」

 と、神谷先輩の前を通り過ぎて、僕と伊代姉は下足室から校舎内へ。

「指が折れるかと思ったよ……」
「お世話になってなんかないわよ。まったく……」

 何て言いながら、強く握ったことを謝るかのように僕の頭を優しく撫でてくれた。

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