超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

真相 その3

 人とドラゴンの共存。
 それを目的に距離を縮めた。 
 心と心。精神的な繋がり。
 そういった距離ではない。単純に物理的な距離。
 だから、物理的にダンジョンを破壊しようとした。

 なぜ、ダンジョンから魔物が消滅したのか?

 理由は、ラスボスであるドラゴンが食い殺したから……

 それは、ダンジョンにとってウィルスであり、システムエラー。
 結果、ダンジョンは死んだ。 

 そう――――

 人を愛したドラゴンは狂っていた。

 「だとしても、疑問は残りますね」とアリスは言う。
 「くっ!」とエドワードは苦虫を噛み潰したような顔をみせる。
 もはや、抵抗は無駄。 戦闘から逃走に切り替えたのだが、アリスは逃がさない。

 「どうして、ドラゴンは貴方に殺されたのか?」

 その言葉がスイッチになったのか? 間合いは取ろうと後退していたエドワードの動きが変化。
 唐突に前に踏み込み、追ってくるアリスにカウンターの太刀を浴びせる。
 だが、その剣も弾かれる。

 「おそらく、貴方もドラゴンと同じ動機だったのでしょ? 2人仲良く、一緒にいたい。だから――――」

 その言葉を塞ぎため、エドワードは弾かれた剣を持ち替え、アリスの喉に刺突を繰り出す。

 「怪物め! どうして、剣が通じない」

 やはり、エドワードの剣は通らない。
 攻撃直後、僅かな硬直時間。無防備になったエドワードの腕をアリスが掴む。
 小枝のような細腕。しかし、その腕は力強く振りほどけない。

 『我らに仕え精霊たちよ――――』

 アリスは瞳を閉じ、詠唱を紡ぐ。
 エドワードは直ぐに、その危険性に気づくと同時に驚きを言葉にした。

 「詠唱それも最上位精霊系の!」

 詠唱呪文は契約だ。 精霊たちとの契約の儀式を簡易化したもの。

 『敵を討たんと最愛の弓を握りしめ――――』 

 その威力は無詠唱の魔法と一線を凌駕する。

 『放つは我が心の深層心理。ゆえに一切の穢れなし――――』

 既に空気が熱量が灯り始める。 大気の振動が始まる。
 極限まで引かれた弓弦の如く。後は放たれるのみ――――

 『極炎焼球(ブレイズ)』

 アリスから生じた魔力が炎へ転換され、前方を灼熱の炎が真紅に染め抜く。
 その中心点で……かつ至近距離で受けるエドワードにとっては――――
 地獄の業火ですら生ぬるいであろう一撃。
 そんな熱量を感じる時間ですら与えられず、生物は消滅する。
 そのはずだった――――

 「――――っ!」とアリスは言葉にならない驚きを表現した。

 陶磁器のように白く滑らかな柔肌。
 しかし、あらゆる剣戟を無効化していた肌。
 そんなアリスの頬に赤い線がつく。その正体は血だ。
 僅かなダメージ……とすら言えぬ傷。 現に、直ぐに回復して傷は消滅した。 

 「やはり、持っていましたか」とアリスの声は震えていた。
 その震えの名前は歓喜。 歓喜はアリスの表情にも浮かんでいる。

 「私が貴方を呼び寄せ、弾劾した動機。その2つの内1つ……ダンジョン攻略報酬を」

 『極炎焼球』による破壊の煙幕は消え去り、1人の男が現れた。
 もちろん、男はエドワード。しかし、先ほどまでなかった物を身につけて――――
 いや、装備している。

 『龍の外套(ドラゴンマント)』

 この世界でサクラしか保有していないはずの地上最強の装備アイテムと同等のものだった。

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