超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

密室事件?

 「おい、しっかりしろ」とサクラはオントに肩を掴まれ、呆けていた意識を活性化させる。

 「すまない……」
 「いや、聞き難いがコレはお前の知る彼女か?」

 オントが聞いている事。
 それは、ここで死んでいるドラゴンは、サクラの想い人であるドラゴンと同一なのか?
 そういう残酷とも言える質問だ。

 「いや、違う」とサクラは首を横に振る。

 「僕の知っているドラゴンより、全体的な色が薄い。体の作りも個体差がわかる。鱗も……違う」

 長年、ドラゴンと一緒に暮らしていたサクラだからこそ区別ができたのだ。
 すぐに断言できず呆けていた理由は肝心の顔が首ごとなくなっているからに他ならない。
 冷静さを取り戻したサクラは、検視を行う医師の如く鋭い視線を遺体へ向けた。


 まるで睡眠時の白鳥が、体に首を巻きつかせて寝ているように……
 そこにあるのが当たり前の物が存在していないような違和感。

 最強の幻想種が首を切断されて死んでいる。

 切り口は滑らかだ。どうやら、鋭い刃物で一刀両断されている。
 およそ、人間の剣技では不可能だ。
 しかし、周囲にはなにもない。
 ドラゴンの首もなければ、首を切断したと思われる物もない。

 一体、なぜ、ドラゴンは首を切断され、
 何で首を切断され、
 どうして、頭部がなくなっているのか?

 これらの疑問を解決する事はできなかった。……今はまだ……

 サクラはドラゴンの死亡推定時刻を調べるの初めてだったが……

 「死後12時間以内」

 そう結論付けた。
 どうやら、ドラゴンも死後に起きる肉体の変化は、他の生物と同じらしい。

 場所はダンジョンの階層は50層。
 ダンジョンのラスボスとされるドラゴンが出現するには、低めの階層だ。
 ラスボスが死んだからダンジョン内の魔物モンスターが消滅したのだろうか?
 いや、今まで5つのダンジョンを攻略したサクラとオントは、ラスボスを倒した時にダンジョン内の魔物が消滅した前例を知らない。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 サクラたちは地上に戻った。
 今、ダンジョンは王の指示によって、人海戦術の調査が行われている。
 近日、各国々から調査団が派遣される予定になっているそうだ。
 前例のない魔物が全滅したダンジョン。
 世界は注目していた。

 この密室殺人事件に……いや、密室殺龍事件と言えば良いのだろうか?

 密室……

 そうこれは密室なのだ。
 ダンジョンには殺されていたドラゴン以外の生物はいなかった。
 魔物も、動物も、人間もいなかった。
 そして、アリスがエドワードから受け取ったダンジョンの鍵。
 現時点で、存在が確認されているのはアリスの1本のみ。
 エドワードが氷のダンジョンを発見して帰還したのは、3日前。
 正確に言うなら、サクラたちがダンジョン内部に入る3日前という意味だ。

 3日間、誰もダンジョン内部に入っていない。

 ドラゴンの死亡推定時間は、遺体発見から12時間前後のはずなのに……

 加えるに3日で氷のダンジョンは変化している。
 ダンジョン内部に吹雪は消滅。覆っていた氷は溶けている。
 氷によって蓋がされていたのだろうか? ダンジョンの天井にある亀裂から汚水が漏れ落ち、ダンジョン1層は生活水によって汚染されている。
 生活水……一定の熱量を有したお湯により、ダンジョン内に暖かさが広がっている。  

 さて、これは人の仕業なのだろうか?
 それとも自然現象。 あるいは神々が起こした超常現象?
 あるいは、その全てが重なった確率の奇跡なのか?

 答えは出ない。
 そう、もちろん……今はまだ。

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