超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

元王妃アリスと古代の地図

 シュット国 シュット城
 城から少し離れた場所にそれはある

 落笑宮

 厳重な警備を抜け、門を潜る。すると宮殿までは一本道。
 長い距離ではあるが、左右に見える庭園の華やかさが来客の目を楽しませる。
 今時、珍しい馬車を移動に使っているのも、その権力の象徴なのだろう。
 サクラとオントが会う相手はトクラター・アリス。
 この国――――シュット国の王妃だった人物だ。
 元王妃だと言っても、相手のシュット国王が死去したわけではない。
 複雑な理由があり、王室の歴史では珍しい破婚。要するに離婚したのだ。
 本来、三行半みくだりはんを受けた女性なら、実家に帰るものだろうが……
 女性側に非のない離婚劇であり、その複雑怪奇とも言える原因がゆえに、元王妃と同格の扱いを受けている。
 馬車に揺られながら、オントは隣に座るサクラの様子を窺う。
 サクラはアリスのことを苦手としていた。
 平素なら会うのに二の足を踏むような関係だ。
 しかし、今のサクラは感情が抜け落ちたかのように虚空を見つめている。
 やがて、馬車は足を止めた。
 サクラよりも先に馬車から降りたオントは驚いた。

 「……アリス様」

 元王妃が宮殿の前で出迎えていたのだ。
 慌ててオントは片膝を地面につけ、頭を下げる。
 だが、あとから降りたサクラはというと――――

 「久しぶり、さっそくだが詳細を聞きたい」

 アリスの敬意を見せない。それどころか不遜そのもの。
 無礼過ぎて、その場で首を刎ねられても仕方がない態度だった。
 周囲から姿を消している護衛の者から濃度の高い殺気をぶつけられオントの額には冷や汗が浮かぶ。

 「相も変わらず、つれないお方ですね」

 元王妃自ら近づいた。
 そのまま抱き合うような距離に近づくとサクラの胸元に頭を預けるように寄せる。

 「今も、お慕いしています。サクラさま」

 愛の告白。
 周囲から殺意が消え失せ、同様に近い感情が漏れている。

 「すまない。前にも言ったが僕には妻も子供もいる身だ」
 「私は構いませんよ? 可能なら今からでも私をここから連れ去ってください」
 「冗談を。貴方が望むなら、自ら足でここから外へ進む事を止めれる人は皆無でしょう」
 「それは、黙って俺についてこいと言っているのですか?」
 「いえ、そう言うわけではありません。しかし、ついてこれるなら僕は止めませんよ。それは貴方の自由です」

 「やっぱり、つれない方ですね」とアリスは笑った。
 自分の横に立てる人間なら、構わない。
 サクラはそう言ったのだ。
 人類最強の探索者に足並みを揃えれる人間が、どのくらいいるだろうか?

 「それでは早速で悪いが情報をもらいたい」
 「わかりました。屋敷の中へどうぞ」

 アリスが屋敷内に入るのを見届けて、オントが立ち上がり深いため息をついた。

 「お前、少しだけ仰々しいぞ」とサクラ。
 「うるせぇよ。王室に対する貴族の重荷を想像しろよ」とオントが返す。

 サクラとは別に、もう1人の人類最強の探索者であるオム・オント。
 彼は苦労人気質であった。

 ・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・・・

 通された貴賓室。
 何気ない小物が民衆の平均年収を越える金額。そんな空間である。

 「それで、ドラゴンの目撃情報とは?」

 サクラは単刀直入に聞く。

 「いくらなんでも無作法だろう。客人には客人としての振る舞いがあってだな……」
 「私は一向に構いませんよ。オントさんも苦労されていますね」
 「いえ、サクラとの付き合いは慣れました」

 「それは羨ましい」とため息交じりに言った王妃の言葉。
 オントは聞こえなかった振りをした。

 「では、これをご覧ください」とアリスはテーブルに紙を広げた。
 地図だ。 この空間に似つかわしくない古ぼけた地図だ。

 「これは、エドワードという探索者トレジャーハンターが入手した地図です」
 「この地形はシュット国のものだが、細かい部分が違っているな」
 「えぇ、年代鑑定してみたところ1000年以上前の地図だと判明しました」 

 「1000年前! 旧時代の地図が現存してるなんて!」とオント。
 「そんなものはあり得ない」と王妃に向かって発言しかけて、慌てて口を止めた。
 それに対して、サクラは――――

 「あり得ない事でもないさ。あの時代の保存技術だったらね」

 まるで1000年前の時代を体験した事があるような不思議な言い回しだった。

 「さすがサクラさまは、動じませんね。問題の場所はここです」

 アリスが地図の一部に触れた。すると――――

 「地図が変わった!」

 これには流石のサクラも驚いた。 

 「これは、地下の地図。いや、つまり……迷宮ダンジョンか」

 「その通りです。ようやく驚いてくれましたね」とアリスは満足気だった。


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