超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

最強の探索者 トーア・サクラという少年の現在

 山賊の親分――――クシュは剣の才能がなかった。
 少なくとも、本人はそう思っていた。
 しかし、幸いにも彼には魔法の才能があった。
 それに気づいた時のクシュの発想はシンプルだった。

 なら2つを組み合わせよう。

 1対1の決闘で自分を馬鹿にしてきた連中に復讐するための魔法。
 彼は、正々堂々と真正面から不意打ちをするための魔法を取得する事を誓った。

 転送魔法で次元を捻じ曲げ、腕だけを転送。
 背後から『遅殺のナイフ』で地獄のような苦しみを与えて殺す。

 この無敵のCOMBOコンボで決闘を繰り返し、復讐を果たした。

 自分よりも優秀で、陰で自分を馬鹿にしていたであろう奴に復讐した。
 幼馴染と結婚が決まったと自慢して、遠回しに自分を馬鹿にしていたであろう奴に復讐した。
 顔が良いだけで、自分を馬鹿にしているであろうアイツ。
 自分の家柄が良いだけで、俺を貧乏人をみるような目で見たアイツ。
 勉強ができる奴を殺した。 道で硬貨を拾った奴を殺した。 家族と仲が良い奴を殺した。
 なんとなく、食堂で隣に座った奴を殺した。 

 全て、正当な復讐だった。

 正当な復讐は、自分を上位の存在に高めてくれる。
 レベルアップ。 それはこの世界の真理であり、神が定めた絶対の法則だ。
 そのはずなのに!

  「言い忘れていましたが僕の名前はトーア・サクラです。褐色で踊子風の服を着た女性。あるいはドラゴンを探していますが心当たりはないですか?」  

 目の前に立つ男は、そう言った。まだ少年のような若さが顔に残っている男だ。
 こんな男に穢された。クシュは激高した。
 神聖なる決闘を、俺の娯楽を『転送の指輪』なんて魔具アイテムなんぞに――――

 「いや、待てよ。トーア・サクラだと? どこかで……」

 再び転送魔法を使用したバックアタックを仕掛ける直前。クシュはサクラという名前に聞き覚えがあり、攻撃を止めた。

 「サクラ……シュット国のサクラか!」

 少年はコクリと首を縦に振り肯定した。
 その姿にクシュは驚いた。

 探索者――――トーア・サクラ 

 それは世界最強の探索者の名前だった。
 かつて、人類が到達不可能だと思われていた迷宮ダンジョン。
 しかし――――

 現在、彼が持つ迷宮の最深部への到達記録は5つ。

 『龍の足枷ドラゴンシール』を代表に迷宮攻略報酬と言われる武器を5つ保有。
 それ以外にも、1000の特殊な魔具アイテムを使いこなすと言われている。
 数々の逸話の中には、神そのものと戦い勝利を収めたというものもある。

 そんな神話の住民が相手だと気が付いたクシュは――――

 ニタリと不気味に笑い。舌なめずりをした。

 「なぁアンタは最強の探索者であって、最強じゃないんだろ? だったら、俺に勝機がある」
 「あぁ、そうだね。別に僕は強くないよ」

 ふざけた態度を取りやがって。クシュは、その言葉を吐出しそうになるところを堪えた。

 「なら、俺が勝ったら、アンタの魔具の全てが俺のものになるってわけだな! だって、アンタは負けて死ぬんだからな」
 「そりゃ――――」

 「そりゃ、僕が負けたらそうなるでしょう」とサクラは最後まで言えなかった。
 クシュはサクラの背後に腕を飛ばした。

 「同じ攻撃を通じませんよ」

 最初を同様。短剣で受ける。
 だが――――

 「構わねぇよ。目的はてめぇの動きを止めることよ」

 振り向いたクシュの背中にはナイフが刺さっていた。
 自ら背中に予備の『遅殺のナイフ』を突き刺していた。

 自殺? そんな馬鹿な。
 では、一体、なんのために? 

 そんな疑問でサクラの脳内は埋まった。
 それが隙となる。

 「俺の体内でバラバラに分解した『遅殺のナイフ』を――――」

 霧? 何か粒子ようなものが周囲に漂っている。

 「周囲に転送魔法で放出したんだよ」

 それを言うと同時にクシュは狂ったかのように笑った。

 「てめぇの『転送の指輪』は無条件で転送できんのか? 自身だけじゃなく俺の腕ごと? 距離は無制限か? そんな心配も無駄だったな。もう遅い。空気と一緒に、てめぇの体内に『遅殺のナイフ』は入り込んでる」

 ゴフっとサクラの口から吐血――――大量の血が吐き出される。

 「勝った。貴様が持つ最強の称号と魔具アイテムの全てが俺様のものに――――」
 「剣呑剣呑。うっかり死ぬところだった」

 サクラは立ち上がり、刃物でできているはずの霧の中、普通に歩き始めた。

 「馬鹿な! なぜ、無事なんだ!」
 「体内の刃物は血と一緒に吐き出した」
 「こ、この霧は?」
 「あぁ、このマントは防刃効果とか、いろいろあるんだ」

 「あはははっ……」とクシュは呆けたように――――力なく笑った。
 そのまま膝を地面付けた。

 「投降ですね。そのままではまずいので、形式状、腕に縄を……」

 だが、クシュは諦めていなかった。 
 最後の最後の瞬間。投降の直前。もっとも油断する瞬間を狙っていた。
 素早く立ち上がる動作。それと同時に、元の形状に戻した『遅殺のナイフ』による刺突を放つ。
 しかし、そのナイフがサクラの胸元に到達するよりも早く、サクラの短剣が煌めいた。

 「あ、あれ? 俺の、俺の指ががあぁぁぁ!」

 「僕は貴方を殺しません。この国の法に基づいて、死刑なら死刑を。償えるなら償ってください。ただ、貴方の戦闘力だけは奪わせてもらいました。その怪我では、治ったとしてもナイフも剣もまともに使えないでしょう」 

 サクラは短剣に宙に振るい、刃に纏わりついた鮮血を飛ばした。

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