超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

よーいドン!

 さて、どうしたものか?

 背中の傷は塞がっている。
 しかし、本来なら致命傷。
 戦いを続行できるダメージではないのを、無理やり傷を塞いだだけだ。

 対してテンのダメージは、大きな外傷もない。
 序盤の打撃戦こそ、互角の戦いだったと自負しているが、彼に運動能力を損ねるほどのダメージはあたえれなかった。
 戦いは剣術へ移行しても僕の完敗。
 そもそも、質量の存在してない剣を相手に生きていられた自分を褒めたい。
 質量がない剣……よくよく考えてみればチートレベルの武器だ。
 素人が手にしたって、剣の達人よりも遥かに速い剣速になるだろう。
 実物の剣では不可能な剣捌きも可能なはず。

 そして、第二のギフト……テンが増えた。
 分身ではない。あの十字剣と同じように具現化されたテン本人だろう。
 ……まさか、これ以上増殖したりしないよな?

 この時点で勝てる気がしない。
 まさか、この状態を打破しても、第三……第四のギフトが現れてくる何てことは……いや、ありそうだ。
 だからこそ、僕は声に出して呟く

 「さて、どうしたものか?」

 「どうしたものかだって? その答えは君もわかっているだろ? 君が保有する戦力で僕に届き得る武器はアレしかない。 取るに足りない龍なんぞの捕縛道具が1000年の時を得て神秘性を持つ。神に勝つ方法は1つだけだ。成ればいい。自分が神に……」

 「……」と僕は沈黙を返した。
 しかし、本音は「え? そんなに凄い事になっちゃうの?」と内心は激しく動揺していた。

 信仰と伝説。その二つがある『龍の足枷』は神話の武器と同等の存在に進化しているとテンは言っているのだ。そして、それは使い手である僕も例外ではなく―———

 「この僕が、自分じゃ気づかない内に神話の住民に仲間入りしてたって……笑える。……うん。面白いじゃないか」

 僕は自分の拳に刻まれた紋章を見る。
 なんだ。質量が存在しない武器が異常チートだ! なんて萎縮しちゃったけど、僕にも持っているじゃないか。今、確かに僕の武器である『龍の足枷』に質量は存在なんてしてなかった。
 なら―———

 (ギリギリまで間合いを詰める。そして、殴るタイミングで『龍の足枷』を発動させて叩き込む)

 作戦は決まった。
 しかし、この作戦が成功してしまうと問題が1つ。
 おそらく、テンの命を奪ってしまう事だ。

 僕がテンと戦っている理由はエゴだ。
 国とか、宗教とか、そんな問題は僕の内部から消え落ちていた。
 戦いたいから戦う。そんな理由にシフトしている。
 それなのに、戦いを楽しむためだけに……相手に死という結果を押し付けてもいいのか?

 それは、いまさらだ。 最初からこの戦いは、命の奪い合いじゃなかったのか?

 誰かに、そう問われたら僕は違うと答えるだろう。
 もしも、戦いの果てに僕―———もしくはテンが死んだとしよう。
 しかし、それは結果に過ぎない。
 戦いの結果、死んでしまった。
 それと始めから殺すつもりで技を繰り出し……殺してたのでは、結果は同じでも、全く違う事なのだ。
 説明が難しい。 これは心の在り方だろうか?
 いや、単純に僕はテンを殺したくないだけなのだ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「君が何を考えているかわかるよ」とテンは言う。
 「へぇ、じゃ当ててみなよ」と僕も言う。

 「僕を殺したくない。違うかな?」
 「じゃ、それが正解でいいよ」
 「素直じゃないね」
 「そういう性分だからね」
 「でも、大丈夫だよ」
 「?」
 「僕は死なない」

 「————ッ!?」と驚きのあまり、声がでなかった。
 それでも、なんとか頭脳を絞って声を出す。

 「なんで、そう言い切れる?」
 「天啓が下っている」
 「天啓だって? なんだそれ?」
 「神を模して作れた僕は、たぶん、この世の中で一番、神さまに近い存在なんだよ」

 僕は、「そりゃ、随分と胡散臭い話だ」とおどけてみせる。
 テンも冗談だと理解して、小さく笑う。

 「いやいや、本当さ。僕みたいな人間が神さまにソックリだとしたら、この戦いで僕も死なないし、君も死なない。だって、僕が神さまならそうするに決まっているからね」
 「————ソイツは無茶苦茶な理屈だ。けど、面白い」
 「そうでしょ? 面白いよね?」
 「————だから、決着だ。 僕は―———俺は、これから『龍の足枷』をお前に叩き込む」
 「————そうだね。決着だ。だから、僕は全てのギフトを使って、ソレを阻止する」

 自然と僕らは、同じ言葉を出して戦いの再開を告げた。

 「「よーいドン!」」

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