超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

牡羊対クリム

 「……攻めてこないのか?」

 僕は魚のギョウジに聞いた。
 彼は―———

 「いえいえ、連戦で御疲れでしょう。お仲間の戦いを観戦してからがよろしいのでは?」
 「随分と余裕だな」
 「余裕? いえ、違いますよ。この戦いに意味はありませんから……」

 「意味がない?」と僕は彼の言葉を繰り返した。
 もしかしたら、コイツは腹に一物あるんじゃないのか?

 「あぁ、僕が裏切りや、組織に不信感を抱いてると想像しているのなら誤解です」
 「じゃ、無意味と言ったのは?」
 「僕らの『教会』の目的はシュットへの宣戦布告―———戦争ではなくて……戦争と言う手段を行う直前に実は目的を達成してしまったのです」
 「目的を達成した? 何をしたんだ?」
 「それは、僕らを倒した後に教皇の間でご覧ください。驚いてくれると思いますよ」
 「……」

 ギョウジの発言に不気味な物を感じながら、彼の言う通りに他の戦いを観戦する。
 無論、彼への警戒は解かない。

 彼女は、普段のクリムとどこか違っていた。
 外見的には、その変化は見て取れない。あるいは僕の気のせいかとも思ったが……
 赤いドレス姿。 自分の本体である魔剣ロウ・クリムを構える姿。
 しかし、無邪気と言えた表情が―———感情が抜け落ちたかのようである。
 だが————
 相手は待ってくれない。

 『牡羊』のバトラーは、幻想の世界の彼と同様に巨大な獲物を宙に浮かせている。

 『魔剣 ギガント』

 大剣というレベルではない。成人男性の身長の3倍―———約5メートルはある剣。
 それを念力で持って制御する『牡羊』の戦い方。
 一振りすれば、周囲で戦っている仲間にも被害が及ぶ可能性は高い。
 しかし、それは信頼か? あるいは無関心か?
 バトラーは存分に剣を振るう。
 クリムに超巨大大剣が通常の剣と違わぬ速度で襲い掛かっていく。
 それをクリムは避ける。 
 まるで「つまらない」と言いたげな表情で避ける。
 「むっ!」とバトラーは、自分があしらわれていると察したのか、表情に怒気が浮かび―———
 その剣捌きは荒々しく変わっていく。

 まるで爆弾だ。

 剣が地面に接触するたびに地面は抉れ、弾け、破壊の痕跡を残す。
 そんな攻撃を前にクリムは―———

 掴んだ。

 自身に襲い掛かってくる巨大剣を掴んだのだ。まるでなんでもない事のように……
 それを誰よりも驚いたのはバトラーだ。

 「はぁ!?」

 眼を見開き、口を大きく広げ————老紳士にあるまじき驚愕の顔。

 「おのれ! おのれ! おのれぇぇぇぇぇ……」

 何とか、クリムの捕縛を解こうと念能力を駆使しているようだが、彼の『魔剣ギガント』は動かない。
 しかし、クリムは、そんな彼の様子に興味はないようだ。
 彼女の興味は、その手に収まっている巨大剣にあり、彼女は剣に話しかけた。

 「貴方にも意思があるのね」

 まるで、慈しむような優しげな声。
 対して、剣の主はソレを馬鹿にするような怒声だ。

 「馬鹿め! 剣に————道具に意志や魂などあるものか!そんな物は人のエゴだ!」

 しかし……というよりも、やはり、クリムはバトラーの声を無視。
 そして―———

 「……そう、貴方も人間になりたいのね。それじゃ私と行きましょう」

 それだけを言うと、彼女の手から『魔剣 ギガント』は消滅した。
 それだけだ。
 それだけで、勝敗は決まった。 
 いや、そもそもコレは勝負ですらない。だから、勝敗自体ない。

 ただ、彼女の前には全てを失い、呆然自失の老人が力を失い座り込んでいた。

 

 
 

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