超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

無罪放免と戦争の足音

 「え? でも、あの刺客アサシンは……」
 「次期王妃の手の者と名乗ったのであろう? では、次期王妃とやらは何人・・いる」
 「え?」

 ヤン宰相の言葉は予想外だった。
 次期王妃はアリス……以外にもいる?

 「気づいたか? 現国王の婚約者はアリス嬢1人ではない。それに王位継承権に敗れた王族の婚約者の方々も、該当するであろうし―――何より、前国王暗殺には他の関与も疑われている」
 「他の関与? もしかして……『教会』の関係者がいったのですか?」

 「そうじゃ」とヤン宰相は深く頷いた。

 「『教会』と太いパイプの持つ者も容疑者の中にいた。加えて、我が国内で『呪怨の卵』『呪われた鎧』の使用は明らかになった。————否。これは極秘情報だが、他にも聖遺物の使用された痕跡がある」

 「痕跡がある……」と僕は繰り返す。
 その言い回しに違和感があったからだ。それではまるで―———

 「そう証拠は何も残っていない。全ては……使用されたと思われる跡地にも何も残っていなかったからな。国内で原因不明とされる町の消滅が2件。村が3件……」
 「そんな、なんのために?」
 「何のためにか……おそらく、呪いという形で聖遺物は封印されていた。それを浄化するために意図的に呪いを発動……聖遺物の封印を解いたのだ」
 「だから、それは……方法ではなく、彼らの目的は……」
 「決まっている。聖遺物の軍事使用。つまり、戦争じゃ」
 「————ッ!?」

 戦争

 その2文字は忌諱として刻まれている。
 後天的に―———忌諱する物として植え付けれている。 
 何故なら————

 戦争の中、人はどこまでも残虐になる。 人は人ではなくなるからだ。

 その残虐性は、他ならぬ僕自身に向けられるかもしれない。
 そして、逆に僕が向けるかもしれない。

 要するに————
 ぐだぐだ思考する間もなく、止めなければならないと―———
 そんな中、ヤン宰相の言葉が鮮明に聞こえてきた。

 「再び、英雄になってくれないかね? トーア・サクラ」

 それは、僕に戦争を止めてくれという依頼だった。
 無茶な依頼だけれども……


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 そんなこんなで無罪放免となり、僕は客人として城の滞在を許された。
 客人ならば、城の主に挨拶をしなければならない。
 王様への挨拶。つまり、コロちゃんとの対面……彼だけならいい。
 しかし、どうやら、彼女も―———次期王妃のアリスとの対面もセットだ。
 予定では、まだ時間はあるけど……正直、気が重い。
 それにドラゴンたちの待遇も気になる。

 「アイツ、暴れてなければいいけど」

 僕はあてがわれた部屋に入る。 すると――――

 「誰が暴れていると思っているのですか?」とドラゴンの声がした。

 「なんだ。お前も無罪放免に……って誰だ! お前!?」

 そこには白いドレスを身につけた女性がいた。

 「誰って、貴方の伴侶ですが?」
 「そんな……確かに声はドラゴンのものだが……」
 「あぁ、この格好ですか? 城内で踊り子風の服装は風紀を乱すと着換えさせられたのですよ。どうですか? 似合ってます?」
 「似合っていると言うか、似合っていないと言うか、声だけドラゴンの美女がいる感じ」
 「凄い遠まわしに、普段の私をディスってきますね。しばらく、この格好で過ごそうかと思うほどですが……ドレスキャラはクリムちゃんと丸被りになるんですよね」
 「まぁ、たまに、そういう格好するから良いんじゃないか? まるで別人みたいでドキドキするよ」
 「別人みたいな私にドキドキするっていう事は、精神的な浮気の可能性も……」
 「……なんだか、こじれていく気がするから、その辺でやめようか?」
 「……ですね。ちなみにサクラさん用のタキシードはこちらです」
 「え?」
 「早く、早く着換えてください!」

 「うわっ」と飛びかかって来たドラゴンを躱した。

 「わかったから、抱き付こうとしてくるな。それから、着換える間、後ろを向け!」

 
 

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