超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

VSシャーマン戦 決着

 
 「—————————!?」

 最早、言語化不能の咆哮を放ち、激怒を周囲に振りまき―———
 奴が俺を殺しに来る。 

 横へ飛ぶジャンプ
 その直後、俺が立っていた場所に火を纏った丸太が通過していく。
 丸太の正体は、シャーマンの巨大な杖だ。
 片膝をついたシャーマンは、フェイシングのように丸太―――いや、杖を突く。

 突く 突く 突く 突く……

 俺はそれを―――

 避ける 避ける 避ける 避ける…… 

 体を丸めて転がるような緊急回避術ローリング。その連続だ。
 一撃でも受けたら致命傷。その圧力プレッシャーが運動量以上に体力消費へといざなう。
 不意にシャーマンの突きが止まった。

 (なんだ? 攻撃パターンを変えるのか?)

 その予感は正しかった。 
 不意に影が差す。それも巨大な影。
 俺は天を仰ぐと死神と目があった。
 ――――否。 断じて否。
 それは髑髏ドクロをあしらっている奴の盾だ。
 巨大な盾を上から俺に向けて振り下ろしている。まさに、その瞬間だった。

 緊急回避は不能。 盾の面積が広すぎる。

 なら―———

 『龍の足枷』

 盾の直撃を受けたのは召喚した『龍の足枷』……その球体部分。
 俺は、その背後に身を隠した。 だが、シャーマンの攻撃は止まらなかったのだ。
 さらに1撃2撃……と続けて盾を振り下ろしてくる。
 凄まじい金属音。 

 (こいつ……鼓膜破壊が目的……俺の五感を潰す戦術を組み直したか————だったら!)

 俺は意識を集中する。 
 重要なのはタイミング。そう……重要なのはロストとカウンターのタイミングだ。
 『龍の足枷』を消滅させ、再び具現化する僅かな猶予。
 だが、問題ない。 俺たち探索者は精密な体内時間を有している。
 タイミングに狂いと言うものが生じる可能性なんて―———

 「万に1つもない! 行け! 龍の足枷ドラゴンシール!」

 俺はシャーマンが叩き付けた盾を持ち上げる瞬間に『龍の足枷』を消去ロスト
 そして、再び振り下ろされていく盾に向かって『龍の足枷』を叩き付けたカウンター
 人類最強の武器 『龍の足枷』 
 その威力を受けた盾は破壊され、シャーマン自身の体を仰向けに倒した。
 さらに言えば、盾ごととは言え、至近距離で『龍の足枷』を受けたシャーマンの腕は原型を留めていない。

 「終りだ。 ゴブリンシャーマンキング!」

 俺はシャーマンの腹部に飛び乗った。

 「—————————!?」

 奴は咆哮を飛ばし威嚇する。
 いや、威嚇だけではない。残った腕に持つ丸太―———いや、杖に魔力が集中していく。

 「魔法? あぁ、ようやく本気になったって事か……もう、手遅れだけどね」

 その杖から、未知の攻撃が放出されるよりも早く、俺は呟いた。

 「龍の足枷」

 その巨大な球体はシャーマンの顔面を砕いていた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「やぁ、ラスボス退治。ご苦労様でした。気がついていましたか? サクラさんのラスボス退治、これが記念すべき2回目なんですよ!」

 俺は―———僕は、ドラゴンから手渡されたタオルで汗と、体に付着している正体不明の液体をふき取りながら、少し考えた。

 「いや、ラスボス退治なんて経験ないはずだよ。それに今回だって完全体じゃないから倒せたみたいだし……」

 まだ、ダンジョンではないダンジョン。
 そこの完全体ではないラスボス。

 もしも、僕が、ここに来るのが遅かったなら、1人で勝てただろうか?

 そんな事を考えていたら、ドラゴンが―――

 「酷いです! 私との初めての夜を……わ・す・れ・た・の・で・す・か・?」
 「……そうか、初めてお前と会った時、僕が地上に出たのは夜だったから、戦ったのも夜になるのか」
 「い、いえ、重要なのはそこじゃないのですが……」
 「そう言えば、ラスボスを倒したら、何かくれるんじゃなかったかな? でも、新造ダンジョンだから、アイテムらしいアイテムもなさそうだけど」
 「いえいえ、この場合はラスボスの装備から貰って帰ればいいのですよ」

 「ラスボスの装備って言ってもなぁ」と僕はシャーマンの亡骸を見る。
 壊れた仮面。 丸太のような巨大杖。 髑髏マークの盾。
 目ぼしい物はこの3つ。 

 「大きすぎじゃないか? とても装備できるとは思えないが?」
 「それを言い始めたら『龍の足枷』の立場がないと思いますが?」

 「それは……」と言葉を飲んだ。その通りだと思ったのだ。

 「面倒ですね。全部持って帰りましょう!」

 ドラゴンは3つの装備に手をかざした。

 「何を? それに全部は持って帰れ……あれ?」

 仮面、杖、盾が……

 「縮み始めた?」
 「はい、私の魔力でサイズ調整をしてみました。これでも邪魔になりそうなので私が保持しておきますね」

 そういうとドラゴンは3つを背中に回した。
 きっと、背中にある鱗に収納したのだろう。 
 手を前に戻した時には、3つの装備は消えていた。

 
   

「超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く