超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ゴブリンシャーマンキング

 「ゴブリンたちが踊っている?」

 轟々とした炎を囲み、ゴブリンたちは松明を高く上げて踊っていた。

 「あ、あの踊りは!?」
 「知っているのか? ドラゴン!」
 「う、うむ……あの踊りは旧時代で言うところの室戸市名物シットロト踊り……いや、アニメ版の某南国少年では実在する踊りだったため、んばば踊りと修正されていましたね」
 「……まだ、そのノリを続けるつもりなんだな」
 「おっと、顔が怖いですね。そんな事より、あのキャンプファイヤ―の後ろをご覧ください」
 「キャンプファイヤー? 燃えてる薪の部分の後ろって事か?……なにあれ?」

 異常に巨大なゴブリンがいた。
 ゴブリンボクサーも大きかったが、それ以上。
 デカさだけなら、あのオーク王を思い出させる。つまりは、建物と比類されるほどのサイズ。
 巨大な丸太を杖のように持ち、その先端には火が灯っている。
 なにより奇妙なのは、その顔を隠すように髑髏ドクロの仮面をかぶっている所だ。
 どうやら、髑髏は髑髏でも人のものではなくゴブリンの髑髏みたいだ。
 よく見ると、そばに盾らしき物が転がっている。あれも全体に髑髏が書かれている。 

 「言うとすればゴブリンシャーマン……いえ、ゴブリンシャーマンキングと命名しましょう」
 「長いな。よし!却下だ」
 「じゃ、略してGSKです」
 「よし、それで……僕はシャーマンとだけ呼ぶけどね」

 「……酷い」と拗ねるドラゴンをほっておいて、どう攻めるか?
  「そうですね。まさに私が嫌いなユニークモンスターの代名詞みたいな恰好してますからね」とドラゴンは言う。

 「確かに、特殊攻撃してきそうだな」
 「まさに厄介な相手ポイです。もしも、精神攻撃を受けた結果、『心の中の自分に打ち勝て系』の場合だったら私は3分で飽きて白旗振りますよ」
 「お前なら本当にやりそうだと納得できるが、もう少しは頑張れよな」
 「それに、アイツって、スピリチュアル系で他人のオーラとか診断しそうなタイプじゃないですか?」
 「ん?それは、よくわからないが?」
 「胡散臭い感じがプンプンです!」
 「……うん、そうか」

 しかし困った。
 僕らは、新造ダンジョン化の原因を取り除く、完全体のダンジョンが生まれるのを阻止するのが目的だ。
 そのためにはダンジョン最深部まで調査する必要がある。
 ダンジョンが膨張して1層から2層と増えているは誤算だった。
 地下何層まであるのかすらわからない。 ダンジョンとして完成してしまえば100層以上潜る事になるかもしれないが、この段階では、そこまで地層に変化は起きているわけではなさそうだ(変化が起きていれば外から見ても地層の異常が発見できる……はず)。
 当然、最深部にはラスボスがいる。 
 1層程度の道のりなら、楽々の遠足気分で踏破して、ラスボスをドラゴンに任せればうまくいくと思っていたが……肝心のドラゴンのやる気がなければ、最深部までの見当すらつかない……

 「ちなみに、あのシャーマンってこの階層のボスって感じなのか?」
 「え?あぁ……そう言えば、そんな設定もありましたね。少し、お待ちをこのドラゴンアイでステータス分析をしてみましょ!」
 「そんな便利機能があったのか!?」

 いや、そんな機能があるなら、ユニークモンスターも怖くなさそうだが……
 たぶん、それは僕がいるから普段よりも慎重になっているので、1人だったら突っ込んでいくのかもしれない。 
 たぶん、僕は……

 「コイツに守られているのか」
 「え? 何か言いましたか?」
 「ん? いや、なんでもない。ただ、お前への感謝を述べただけだよ」
 「……聞き逃しました」
 「それは残念。 あとで言い直すから元気だせよ」

 「はい!」と弾む様な声を出すドラゴンだった。
 そのままのテンションで、こう続ける。

 「私、勘違いしてました。アイツ、ユニークモンスターじゃなくて、ラスボスでした!」

 「……おい!」
 「いやぁ、ラスボスが特殊攻撃系って珍しいですよ。きっと、新参のラスボスだけでしょうね。……でも、どうしましょうか? 正直、私は戦いたくありません」
 「そうは言っても……もしかして、あの儀式がダンジョン化の原因だったりするのか?」
 「!? 流石、サクラさん! 鋭いですね。その通りですよ」
 「……僕が単騎で戦ったとして勝率は、どのくらいだと思う?」
 「いやぁ、実はラスボスと言いましても新造ダンジョンの2層程度を根城ねじろにしてる奴ですよ? サクラさんでも行ける! 行ける!」

 「……」と僕は無言で考え始める。

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