超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ゴブリンボクサー戦 決着


  カラン カラン

 僕が落とした剣が音を鳴らした。
 剣を手放さなければ間に合わなかった。
 けど―———
 ゴブリンボクサーの振り落し式の右ストレートをガードする事に成功した。

 ミシッ

 簡易装備だった手甲から軋む音。
 いや、ヒビが入っている。

 (————ッ!? 鉄製品だぞ!)

 だが、鉄を砕いたゴブリンボクサーの拳も無事ではないらしい。
 予期しない痛みに顔をしかめて上半身を仰け反っていく。
 僕はがら空きになっているボディに拳を叩き込んだ。
 ゴブリンボクサーの動きが止まる。だが、回復も早い。

 今度は左の振り下ろし式が―———

 その前に僕は拳を振るう。
 再びボディ。 めり込む手ごたえ。

 今度はゴブリンボクサーの腰が落ちた。
 互いに額と額をなすり合うような接近戦インファイト
 強烈な打撃は入る。 体の軸がズレたかのように錯覚するほどの打撃。
 実際に体が横にスライドしていく。

 がっ

 足を踏みだしで衝撃を殺す。と同時に踏み込みを利用して拳を振るい返す。

 手ごたえ

 ゴブリンボクサーは顔から地面に向かっていく。
 ダウン……にはならない!?
 驚異的なバランス能力。 
 倒れ行く体を強引に立て直す。と同時に腕を振り回してくる。

 乱打戦。

 目に映るのは相手の拳だけ。

 ガツガツとした打撃音だけが鼓膜へ刻まれる。

 技術も腕力も枯れはて、体を動かすための燃料ガソリンは意志の力だけになる。

 不意に俺の拳が顔面を真っ直ぐに捉えた。

 「頼ミガアル」

 一瞬、その音が何かわからなかった。
 それは声だった。

 「————ッ!? しゃ、喋れるのか!」

 「アア、少しダけダガ」とゴブリンボクサーは頷き、こう続けた。

 「次ノ一撃デ俺ハ倒れル。デキたら命ダケは助けテクレ」
 「命乞い? なぜ?このタイミングで?」
 「簡単ダ。次ニ会えタら再戦を申シ込みタい。ダカラ……」
 「そうか…… もしも、お前が人を襲わないと約束するならば……」
 「構わナイ。俺ハ、魔物側ノ意思が弱イ。食人衝動ハナイ」
 「なら良いぜ! 安心して失神しろ」

 ゴブリンボクサーは両手を広げて無防備な状態になる。
 まるでハグをするような体勢。 

 それを―――

 俺は撃ちぬいた。

 「感謝スル。オマエが拳だけで戦っテくれた事を……」

 最後まで言い終える余裕もなくゴブリンボクサーは倒れた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「本当にトドメを刺さなくてもよかったんですか?」
 「う~ん、まぁ約束だからなぁ。ここのダンジョン化が止まったら、アイツはどうなるんだ?」
 「一度、生まれた魔物モンスターはダンジョンが消滅しても、その存在まで消える事はあるません」
 「そうか……じゃ、よかった。ところで、アイツなんで喋れたんだ?」

 魔物が会話するなんて聞いた事は……いや、目の前の彼女ドラゴンも、魔物だった。
 思い返してみれば、ラスボスと言われた魔物達は普通に喋っていたような……

 「あのゴブリンが喋れてたのはユニークモンスターと言われている種類でしょう」 
 「ユニークモンスター?」

 それは探索者である僕でも初めて聞く単語だった。

 「えぇ、新しいダンジョンが誕生して、単純作業的に魔物を大量生産する途中、イレギュラー的な魔物モンスターが生まれる事は多いわけですが……まぁ、ダンジョン誕生に立ち会えた探索者は数少ないはずですから、伝承すらされていないのではないですかねぇ」

 「なるほど、もしかしたら、まだコイツみたいな魔物モンスターが潜んでいる可能性もあるのか」
 「そうです。私がサボっ……いえ、戦闘に加わらない理由もそれです」
 「……どれだよ?」
 「そんなジト目で見ないでくださいよ。興奮してしまいます」

 「いや、発情するな」と突っ込み、話の続きを促す。

 「ほら、私って地上最強の生物みたいなものじゃないですか?」
 「やたら大げさなフレーズだけれども、そこは認めざる得ない事実だからな」
 「私って最も強すぎる生物ですから、逆に言えば最も油断しやすい生物なんですよ」
 「ん? その理屈はよくわからないが?」
 「単純シンプルに警戒する必要がないと言えば良いでしょうか? だって、私を殺す方法なんてありませんから……現存の世界では、ほぼですけど」

 「わかるような……わからないような……」と僕は首を捻った。

 「要するに新しく生まれたダンジョンだと、ユニークモンスターという特殊な魔物が生まれやすいわけですよ」
 「それが、お前がサボタージュする理由とどう関わっていくの?」
 「私は搦め手的な戦術や精神攻撃にめっぽう弱いって事ですよ」


 

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