超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

アッシュ・ザ・キララ

 
 「いやぁ~ ごめん、ごめん。お兄さん、隙がないから勘違いしちゃったよ」

 彼女は「ドンマイ! ドンマイ!」と僕の肩をバシバシと叩いた。
 パーソナルスペースと言うのだったかな? なんて言うか距離感が異常に近い。
 今日あったばかりの僕に対して、肩に手を回してから体を引き付けた状態から顔を覗き込むように話かけてくる。
 ちなみに今は顔を隠していたフードを外している。 隠していた顔は……その美人さんだった。
 僕は今、初めてあった美人さんにペタペタとボディタッチされている。
 正直、ドギマギして会話がうまくいかない。
 いや、会話がうまくいかない理由は背後から抗議の視線を飛ばしてくるドラゴンが原因かもしれないが……

 「あーそう言えば自己紹介してなかったね。私の名前はキララ。アッシュ・ザ・キララだよ」

 そう言って腕を差し出して来た。
 一瞬、さっきほどの組手(?)を連想したが、どうやら握手らしい。
 警戒しながら出した僕の腕をブンブンと振る。

 「えっと……僕はトーア・サクラ。それで、離れて睨んでいる踊り子ファッションの子は……あれ? 何て名前だったけ? ドラ子・オブザ・イヤー……少し違うな」

 僕は確認を取るようにドラゴンの方を見た。彼女は―――

 「?」

 あっ、自分の偽名を完全に忘れてやがる。

 「彼女の名前は……ドラゴンだよ」

 キララは首を傾げながら、「それ本名なんですか?」と聞いてきた。

 「ん? いやいや、仇名だよ。流石に仇名。女性に幻想種の名前っておかしいよね? よね? 仲がいい友達だと仇名で呼び続けていて、本名を忘れてしまう事あるよね? そう、それだよ!」

 誤魔化すために一気に喋る。
 だめだ。 キララさん、引いてる。話題を変えないと!

 「それで、キララさんは僕の事を闘技者と勘違いしたんだよね? どうして、勘違いしたの? と言うか、仮に僕が闘技者だったとして、どうして襲ってきたの?」

 ちょっと話の舵取りが強引過ぎたかと思ったが、勘違いで襲い掛かった負い目があるのか、キララさんは話してくれた。

 「私は闘技者を目指しているんだ」と少し照れたかのように頬を染めて言った。

 「私は女性だからね。正攻法じゃ難しいから、ここに来たんだ」
 「ここって?」
 「イスカルは闘技が盛んだからね」

 「あぁなるほど」と僕は納得した。
 確かに初代イスカル王が闘技者出身だ。
 自身も奴隷でありながら革命を起こしても、奴隷制度を引き継いだ男が作った国。
 だったら――――

 「そうだよ。ここは世界でも闘技が一番盛んな国って言っても良いんだ。だから私は来たの」

 彼女の視線は少し距離がある場所を捉えていた。
 たぶん、そこが闘技場なのだろう。

 「それで、どうしてサクラさんを……いえ、私の旦那を襲ったのですか?」

 ドラゴンが会話に加わってきた。少し言葉に険があるように感じる。

 「え?君たち、結婚してるの? 私より歳下にしか見えないけど?」
 「ええ、まぁ、たぶんキララさんよりも歳下で正しいですよ。僕は15歳ですから」
 「じゅっ! 15歳! 見えない! 15歳に見えない。 え? 15歳で結婚?」
 「……いろいろ、あったのです」

 少し複雑な心境だった。そんなに老けて見えていたのか……

 「サクラさんを落ち込ませる楽しみは私も理解できますが、続きをどうぞ」

 ドラゴンが言った。
 ヤバい。ドラゴンのストレスゲージがMAXになっている。
 爆発しそうでマジでヤバい。


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