超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

謎の刺客

 ソイツは黒で統一された衣服を身に纏い、顔も黒い頭巾で隠していた。
 まるで不吉が服を着て歩いているような存在。
 ソイツは「刺客」あるいは「暗殺者」に違いない。
 気配と言うものが存在していないからだ。
 一体、いつからそこに立っていたのか? もし、「最初からそこにいた」と言われても僕は納得するだろう。
 それほどまでに朧げで、不確かな存在感を有している。
 いや、僕が気づかないならまだわかる。しかし、クリムも―――なにより、ドラゴンすらソイツの気配に気づけなかったとは、どういう事なんだ?
 その事実が、ソイツの不気味さを加速させる。
 ソイツが立っているのはカツシ少年が―――いや、吸血鬼が滅んだ場所。
 その残骸である灰は、大半が風に飛ばされて舞い上がっているが、子供が遊びで作った砂山程度の量は残っていた。
 刺客は躊躇した様子も見せずに、灰の中に腕を突っ込んだ。
 「なっ!」と驚いたのも束の間、刺客は腕を引き抜く。
 その腕は何かを掴んでいた。僕は、すぐにその正体を察した。
 夢の世界でみた呪われたアイテム。

 『呪怨の卵』

 ソイツは、呪怨の卵の回収に来たのだ。
 という事は―――

 「シュット国からの……いや、アリスの刺客か?」

 僕の問に、刺客は無言。ただ、黒い頭巾から視線を感じる。
 そのまま、無言の時間が流れた。

 「……」
 「……」

 コイツはなぜ喋らない? 
 いや、喋らないだけならわかる。
 しかし、無言を貫きながらも、この場から離れないのはなぜか?
 僕等に、何も言うべき事がなければ、無言のまま撤退すればいいはず。
 そんなことを考えてた。
 だから、だろうか?
 思考の隙。絶妙なタイミングでソイツは動いた。
 ただ、指を僕の向けただけ。それだけで魂を掴まれたかのような恐怖を感じる。

 「トーア・サクラ……ロウ・クリム……そして、ドラゴン」

 ソイツの声は地の底から聞こえてくるような声だった。

 「次期王妃直々に暗殺命令が出ている。我ら暗部が相手となる以上は安息は望めぬと思え」

 僕は―――

 「やはり、アリスか。だったら、彼女に伝えておけ。狙うなら僕だけにしろと!」

 そう怒鳴り声をあげた。
 ソイツは、そんな僕を鼻で笑うと、姿を消した。

 「……あれが敵か」

 表では、国の正式な機関として、オム・オントを筆頭に捜索部隊を編成して、
 裏では、刺客を放ち、世界中に厄災をばら撒く。

 だったら、この旅の目的は、逃走ではない。
 世界中にばらまかれた厄災を取り除く、そして再び決着を付ける。
 アリスとの決着を―――また―――
 そう僕は決意した。

 くいくいと背後から、服を引っ張られた。

 「どうしたんだい?クリム?」

 僕はクリムだと思った。彼女が僕を呼ぶ時に、こういう動作をするからだ。
 しかし―――
「私じゃないよ?」と少し離れた場所からクリムの声がした。

「え?」

 じゃ?一体、誰が?
 振り返ってみると、意外にもドラゴンだった。

 「どうしたんだい?」

 彼女の表情は曇っていて、どことなく不安げだった。
 彼女にしては、非常に珍しい表情だ。

 「さっきの人……私の事をドラゴンって言ってませんでしたか?」
 「ん?そりゃ……あれ?」
 「どうして私がドラゴンって知っていたのでしょ?」

 彼女の言葉を聞いて、背筋に寒気が走り抜けた。
 そうだ。彼女は基本的に自身の事をドラゴンとは言わない。
 基本は偽名だ。
 今でも、まだ『ドラ子・オブ・スピリットファイア』の名前を使っている。
 ドラゴンがドラゴンであるという事はアリスも知らないはずだ。
 ならば……どうして、あの刺客を知っていたのか?

 僕等はソイツが消えた方向を見た。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品