超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

夢の世界と現実の世界

 ドラゴンの背中。そばにクリムもいる。
 僕は地図を眺めながら……

 「ここだ」

 僕は断言した。
 「本当に?」とドラゴンは半信半疑だが、僕が指示した場所へ着地する。
 そこは、かつて村だった場所。
 かつて村人だった存在は、蠢く物体に成り代わっている。

 「焼き払おうか?」

 クリムが聞いてくる。僕は躊躇する。
 吸血鬼に噛まれ、吸血鬼になった人を人間に戻す方法は、噛んだ吸血鬼を倒す事。
 だが、これは、流石に手遅れだろう。
 同じように魂を吸血鬼に取り込まれた僕ならわかる。―――否、理解してしまう。
 村人たちの魂は吸血鬼の内部に取り込まれ、分解され、魂以外のモノへ変質を遂げているのだ。
 それは、もう魂ではない。いうならば、生命そのもの。
 グツグツに茹でられ、魂という固体すら溶けだしている生命のスープに等しい。
 それが個を取り戻した所で、人に戻る事は叶わないだろう。
 だが、しかし、彼らの魂は解放せねばならない。
 永遠の命とはいえ、そこに自我はなく、現象として存在するならば――――
 それは死よりも、悲しい事だから―――
 いや、言い訳だ。
 彼らと違い僕は吸血され、それでも自我を保ち、なお人間であろうとする後ろめたさ。
 そんな僕にドラゴンが―――

 「サクラさん、同調しては……」
 「あぁ、わかっているよ。クリム頼んだ」

 「うん」と返事したクリムはグール達を炎で薙ぎ掃う。
 だが、それも一瞬だけ。グール達の数が多すぎる。
 クリムも火炎の連撃でグール達を一掃しようとするも……
 だが、次から次へとグール達は無制限に現れる。

 「これ、きりがないよ」

 珍しくクリムが弱気な発言をした。
 やはり、本体を―――吸血鬼本体を倒さないと

 「お父さん、あれ!」

 クリムが叫ぶ。
 僕はクリムの方を1度見て、次に彼女が指差す方向を見る。
 そこに吸血鬼はいた。
 蠢くグール達の中、ただ1人だけ静けさを身に纏い吸血鬼はそこにいた。
 よりによって、石で造られた十字架の上に座って僕を待っていたその姿は―――
 吐き気がするくらい決まっていた。
 朽ちた村の朽ちた墓場。その十字架は誰の墓だったのだろうか?
 十字架は吸血鬼の弱点だと言われているけど、実際は違う。
 自然の摂理、神の定めに逆らい、不死の怪物と化した吸血鬼にとって十字架とは、人が持つ信仰心のシンボルだからこそ畏れるものであり、人間が持つ事で初めて効果がある……らしい。

 「よくここが分りましたね、サクラ兄ちゃん」

 彼はそう言った。 

 「君と……」

 「ん?」と吸血鬼。

 「夢の世界で君と過ごした村。思った通りに実在した村だったんだね」

 僕が、ここにたどり着けた理由。
 それは、夢の中で見た地図と現実の地図が一致していたから。
 だから、きっと、吸血鬼は―――カツシ少年はここにいると断定できたのだ。

 「あぁ、そりゃそうさ。オレも取り込まれたからね」
 「取り込まれた?」
 「オレの魂がサクラお兄ちゃんの中に入った最初の感情は驚きさ。魂の中に完全に閉じた世界があったのだから……取り込んだつもりのオレ自身があの世界に取り込まれていた……なんて笑い話さ」

 ドラゴンが作った仮初の世界。
 そのはずが、吸血鬼が幼い人間の姿で現れたりしたのは、彼自身が仮初の世界に取り込まれたからだったのか。
 僕はチラッとドラゴンを見る。
 その様子を勘違いしたのか、吸血鬼は「3対1かな?」と笑った。

 「いや、2人には手を出させないよ。それじゃ意味がないからね」

 僕は背中に隠していた杭を取り出した。

 

「超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く