超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

飛翔 似た者

 僕の背後から複数人が追いかけてくる。
 幸いにもオント本人はいないみたいだ。だが、追いかけてくる全員の身体能力は高い。
 走り方を見るとシュット学園式。なるほど……シュット学園のOBで編成された部隊か。

 「さて、どうします?サクラさん?」とドラゴン。

 「身体能力は僕と大差ないくらいかな。このままなら、いずれ追いつかれるけど……欠点はあるね」

 それぞれが、ただ追いかけてくるだけ、だから陣形が崩れている。
 統率が取れていない。
 考えてみたら編成されたばかりの部隊だ。だから練度が低い。
 現に突然、現れたターゲットを前に司令塔であるオントの指示を仰がず、ただ追いかけてくるだけ。
 そこに付け入る隙がある。

 「トーア・サクラ!大人しく縛につけ!」

 最初に追いついたヤツがそう叫んだ。意外にも、ソイツはオントの後ろでオドオドしてた若者だ。
 性格に難はあるが有能なタイプ……って奴か。

 迎え撃つために振り返ると、既にソイツは姿は消していた。

 「―――ッッッ!?どこに消えた」

 焦る僕に―――

 「お父さん、上!空!」

 クリムの声に誘導され頭上に視線を向ける。
 すると、ソイツは空にいた。
 思わず僕は―――

 「なるほど、オントが重宝するわけだ。ソックリじゃないか」

 飛翔からの奇襲攻撃。そして、そのフォームとモーション。
 それは瓜二つだった。誰に?他ならぬ僕自身の戦闘術にだ!

 クリムの声がなければやられていた。
 対する若者の落下……それから続く攻撃まで、極僅かな猶予が許された。
 その刹那の時間、僕は若者の観察を開始する。

 若者の装備は軽装。 ほぼ、防具というものを身につけていない。
 武器は―――奇妙な武器だ。
 細い鉄の棒? 侍の国で使われてたという十手に似ている。
 大きく違うは、ナイフのナックルガードのような部分があり拳を守っている?
 いや―――

 「なるほどね」と僕は呟く。

 そして若者の攻撃が開始される。
 僕が背後に飛ぶ。すると二発の攻撃が、さっきまで僕の顔面があった場所を通過していった。
 その攻撃の正体は、若者の拳だ。
 なんてことはない。鉄の棒状の部分は、剣戟を受けたり、捌いたりするための部分であり、あの武器自体は―――
 武器の正体は―――

 「メリケンサックか。変わった武器を使ってるな」

 若者の打撃は蛇のようにグニャグニャと軌道が読みずらい。
 後ろへ後ろへとバックステップで下がりながら避け続けているはいるが、いつかは捉えられる。
 ならば―――

 「反撃だ」

 僕は背後の短剣へと手を伸ばした。
 しかし……

 スッカッ

 「え?」

 僕の手は空ぶった。

 僕は失念していた。
 そこは、最近、クリムのお気に入りの場所になっていて―――
 短剣バージョンに姿を変えたクリムが鞘に潜り込むのが普通になっていて―――
 だから、失念していた。

 僕は短剣を持っていないじゃないか!?

 そのまま、若者の鉄拳はうねりを上げて、僕の顔面に向かってきた。

 「あっちゃ…やっちゃった。まぁ、次からは気を付けよう」

 若者の拳は、僕の顔に触れるギリギリの場所で止まっていた。
 ―――否。止められていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品