超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

オントの陣形

 オム・オントは部下を引き連れ歩いている。
 ただ、歩いているだけではない。
 よくよく見ると、オントから離れた位置にも仲間らしき人間が複数いる。
 おそらく哨戒役なのだろう互いに得た情報をアイコンタクで伝え合っているように見える。
 これは、きっと―――陣形なのだろう。
 ダンジョン探索に匹敵する警戒心。それらは全て、僕を探し出すためだと考えると薄ら寒いものが背中に走る。
 しかし、疑問は消えない。どうしてオントがここにいるのか?
 確かに僕を―――僕だけを捕獲するためだけに編成された部隊らしいとは知ってはいるが……
 僕がコウガにいるなんて情報があるはずはない。
 シュットから船で出航して、監視を十分に引き付けてから、逆の国に飛んだのだ。
 どうしてここに? その疑問はすぐにわかった。

 「隊長……本当にヤツがここにいるのでしょうか?」

 そう言ったのオントの部下だ。
 まだ若い……と言っても、僕やオントと比べたら年上だろう。
 たぶん、20代前半。どこか、不慣れでオドオドとした印象を周囲に抱かせる感じ。
 その部下の質問にオントは短く「いる」と返した。
 短いが、低く威圧感のある言葉に、彼だけではなく他の部下たちも慄く。

 「いいか?ヤツは俺たち凡人の発想を飛び越えていく。ならば奴は、必ずこの国にいる」

 断定口調のオントに部下さえも寄せ付けない。そう思ったが例の若者だけは―――
 「し、しかし……」と反論しようとする。
 しかし、やはり、オントは反論を良しとしない。

 「最後にヤツの足取りをロストして2日めだ。最短ルートで計算して、ここに入国するに3日かかる。ならば、既にこの国に潜り込んでいると考えろ。ヤツはそういうヤツだ」

 おそらく、部下の誰もが「そんな馬鹿な……」と信じられない表情を浮かべていた。

 しかし、現実は―――
 事実、彼らのターゲットである僕はここにいる。
 彼らが、僕を捕捉できなかったのは、単に運の問題。
 先にオントが僕を見つけていた可能性も十分にある。

 そんな事を考えているとぽんぽんと肩を叩かれた。
 その相手、ドラゴンを見ると―――

 「愛されてますね、サクラさん」

 続けてクリムまで―――

 「愛されてるんだね、お父さん」

 なんで2人とも、嬉しそうなんだよ!?
 「うぎゃあぁ」と悲鳴を上げたくなるのをグッと抑え込んだ。
 それから……

 「どうします?サクラさん?前みたいにジャンプして逃げます?」

 ドラゴンの問いかけに、少し考える。
 ただ、逃げるだけなら、ドラゴンの考えは正しい。
 けど、オントたちは―――いや、オント以外は、僕が本当にここにいるのかは懐疑的だ。
 この場でジャンプして逃げると、彼らに僕がここにいたという事は伝わってしまう。
 それは、その事実はオントの対する忠誠心を彼の部下に植え付けてしまう結果にならないか?
 そんな迷いが、結果としては悪手となった。

 チラリと目があった。
 部隊の哨戒役の人間と―――

 相手は信じられないものを見たような顔。
 きっと僕も同じ顔をしているんだろう。
 時間が止まったように停止してた思考が動き出す。

 「いた……いたあああぁぁぁぁぁぁ!」

 その悲鳴染みた声を背後に、僕等は走りだした。
  

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