超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
花屋の内部では
「これは凄いなぁ」
僕は口からは自然と賞賛の言葉が漏れた。
『花屋』
その内部も、外部同様に、武器と防具で溢れていた。
「確かに、これは圧巻の一言です」
僕の隣では、ドラゴンが目を輝かせている。
「……あれ?」
「ん?どうしたんですか?サクラさん?」
「いや、お前くらいなら、もっと凄い防具を見慣れてるんじゃないのか?」
僕が思い出すのはシュット学園内部のダンジョン探索。
探索者養成用に人の手が入った珍しいダンジョンといえ、100層を越えれば人外魔境に早変わりする。
国上位の探究者でも年に数度の攻略階層更新に命を賭けて挑んでいた。
つまり、100層以上で発掘されたアイテムは、ほとんど未知の素材で未知の性質を持ち、未知の効果と可能性を秘めている。その中でレアアイテムとなれば人類史に残る一品だ。
だけれども……
「お前、最下層に住んでいたんだから、僕等から見たら、どんでもない防具や武器なんて見慣れているんじゃないのか?」
「いやいや、それはこれですよ」とドラゴンは勢いよく首を振った。
「確かにダンジョンの最下層に近づけば『旧世界』の技術によって生み出された道具なんていくらでもあります。けど、それが優れている理由は、単に失われた人類の英知によるものなのであり、私は0から人類の失われた技術の再現に、芸術的な感動すら覚えるのです!」
「……覚えるのですか?」
よくわからんが、人間が作る防具にはドラゴンを感涙する力があるのだろう。
……たぶん。
はしゃぎ回るドラゴンに「壊したりしないように」と告げると「は~い」と返事が返ってきた。
暫く、1人で必要な防具を見て回る。
カンカンカン……
「ん?何の音だ?」
異音に気がつき、耳を澄ます。
どうやら、音の出場所は室内の……
「壁の向こう側?」
意識を集中させると、その音が金属音だと分かった。
「槌の音?この壁の向こうで、鋼を鍛えてるのか?」
そっと、壁に手を振れると―――
「正解!よくわかったね!」
背後から話しかけられた。
振り向くと、僕等を案内してくれた女性。
「たしか……フミさんでしか?」
そう訊ねると、彼女は驚いたような、躊躇っているかのような、奇妙な表情を浮かべた。
「あー、やっぱり、さっきの騒動を見てただけじゃなくて、会話まで聞いていたんだ」
「え?いや、その……」
「うん、実はフミってのはあだ名みたいなものなんだよね。本名はハナヤブンキ。今は家の名前を襲名して5代目花屋文左衛門って言うんだけど……」
「それは、ちょっと呼びづらいですね」
「でしょ?だからフミでもいいよ」
「はぁ……わかりましたフミさん」
「ところで、あんた」
「はい?」
「あんたの装備品は、ほとんどがシュット産。年齢から言ってシュット学園の卒業生、あるいは在学中。武器の匂いから言って、凄腕の探究者って感じだけど、合ってるかい?」
「凄い、完全に正解で……って匂い!?」
匂いって、匂いで腕前が判別できるのか?この人?
「そりゃ、そうさ。それがプロの鍛冶屋ってもんだ」
「……。そう言えば、隠れてる僕等の事、最初からわかってた感じがしましたね?」
それが、どんなに凄い事なのか、フミさんは不思議そうな表情で「大量に魔物の返り血を浴びてるんだろ。質の良い鉄の匂いに混ざって染み込んでるぞ」と当たり前のように言う。
いやいや、気配を隠してる探究者を見つけるのは、余程の実力差がないと不可能だ。
上級探究者であるシュット学園の教師でも、気配を消した生徒を見つけられなかったなんて笑い話を在学中にいくら聞いたか。もちろん、得意、不得意の問題もあり、サンボル先生なんて簡単に生徒を捕まえていたなぁ……
それを匂いで?あんなに離れていたのに!?
「いや、離れていて、絹や皮の匂いまでは分からなくても、流石に鉄の匂いはわかるよ。風下に立っていたんだから!」
「……」
たぶん、ウソは言ってないんだろうけど……
自分の特殊技術に気づかない人間って凄いなぁ。
僕は口からは自然と賞賛の言葉が漏れた。
『花屋』
その内部も、外部同様に、武器と防具で溢れていた。
「確かに、これは圧巻の一言です」
僕の隣では、ドラゴンが目を輝かせている。
「……あれ?」
「ん?どうしたんですか?サクラさん?」
「いや、お前くらいなら、もっと凄い防具を見慣れてるんじゃないのか?」
僕が思い出すのはシュット学園内部のダンジョン探索。
探索者養成用に人の手が入った珍しいダンジョンといえ、100層を越えれば人外魔境に早変わりする。
国上位の探究者でも年に数度の攻略階層更新に命を賭けて挑んでいた。
つまり、100層以上で発掘されたアイテムは、ほとんど未知の素材で未知の性質を持ち、未知の効果と可能性を秘めている。その中でレアアイテムとなれば人類史に残る一品だ。
だけれども……
「お前、最下層に住んでいたんだから、僕等から見たら、どんでもない防具や武器なんて見慣れているんじゃないのか?」
「いやいや、それはこれですよ」とドラゴンは勢いよく首を振った。
「確かにダンジョンの最下層に近づけば『旧世界』の技術によって生み出された道具なんていくらでもあります。けど、それが優れている理由は、単に失われた人類の英知によるものなのであり、私は0から人類の失われた技術の再現に、芸術的な感動すら覚えるのです!」
「……覚えるのですか?」
よくわからんが、人間が作る防具にはドラゴンを感涙する力があるのだろう。
……たぶん。
はしゃぎ回るドラゴンに「壊したりしないように」と告げると「は~い」と返事が返ってきた。
暫く、1人で必要な防具を見て回る。
カンカンカン……
「ん?何の音だ?」
異音に気がつき、耳を澄ます。
どうやら、音の出場所は室内の……
「壁の向こう側?」
意識を集中させると、その音が金属音だと分かった。
「槌の音?この壁の向こうで、鋼を鍛えてるのか?」
そっと、壁に手を振れると―――
「正解!よくわかったね!」
背後から話しかけられた。
振り向くと、僕等を案内してくれた女性。
「たしか……フミさんでしか?」
そう訊ねると、彼女は驚いたような、躊躇っているかのような、奇妙な表情を浮かべた。
「あー、やっぱり、さっきの騒動を見てただけじゃなくて、会話まで聞いていたんだ」
「え?いや、その……」
「うん、実はフミってのはあだ名みたいなものなんだよね。本名はハナヤブンキ。今は家の名前を襲名して5代目花屋文左衛門って言うんだけど……」
「それは、ちょっと呼びづらいですね」
「でしょ?だからフミでもいいよ」
「はぁ……わかりましたフミさん」
「ところで、あんた」
「はい?」
「あんたの装備品は、ほとんどがシュット産。年齢から言ってシュット学園の卒業生、あるいは在学中。武器の匂いから言って、凄腕の探究者って感じだけど、合ってるかい?」
「凄い、完全に正解で……って匂い!?」
匂いって、匂いで腕前が判別できるのか?この人?
「そりゃ、そうさ。それがプロの鍛冶屋ってもんだ」
「……。そう言えば、隠れてる僕等の事、最初からわかってた感じがしましたね?」
それが、どんなに凄い事なのか、フミさんは不思議そうな表情で「大量に魔物の返り血を浴びてるんだろ。質の良い鉄の匂いに混ざって染み込んでるぞ」と当たり前のように言う。
いやいや、気配を隠してる探究者を見つけるのは、余程の実力差がないと不可能だ。
上級探究者であるシュット学園の教師でも、気配を消した生徒を見つけられなかったなんて笑い話を在学中にいくら聞いたか。もちろん、得意、不得意の問題もあり、サンボル先生なんて簡単に生徒を捕まえていたなぁ……
それを匂いで?あんなに離れていたのに!?
「いや、離れていて、絹や皮の匂いまでは分からなくても、流石に鉄の匂いはわかるよ。風下に立っていたんだから!」
「……」
たぶん、ウソは言ってないんだろうけど……
自分の特殊技術に気づかない人間って凄いなぁ。
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