超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

終幕 

 「これが一番、マシかな?」

 僕は破壊を免れた椅子を見つけると、アリスを横に寝かせた。
 するとクリムは不思議そうな顔を浮かべた。

 「お父さんを酷い目に合わせたのに、何もしなくて許しちゃうの?」
 「ん~ 何か酷い目にあわされたからって、勝手に同じような事をやり返すってのは、少し違う気がするんだよね」

 なんだったけ? 復讐は何も生み出さないって言葉もあるけど……
 あーダメだ。 うまく自分の感情を言葉にできない。
 上手く言葉にできないけど、それは僕には噛み合わない……そんな感じかな? 
 けど、少なくとも―――
 僕の最後の行動は、何らかの形で罰が刻みついたはずだ。彼女の心に……
 それが、今後、どう変化するかはわからない。僕も、彼女自身も……
 それでも、僕は……

 「よくわからないけど、お父さんは、あの子の事を許したって事だよね?」

 そう言われて、僕は笑った。
 もしかしたら、僕はクリムの言う通り、彼女をただ許しただけなのかもしれない。

 「それでは行きますかね!サクラさん!」

 いきなり声をかけられ「うひゃあぁ」って悲鳴がもれてしまった。
 声の方を見ると、ドラゴンが壁から顔だけ出していた。
 うわぁ……気分はあれだ。
 幽霊の正体見たり!本物の超常現象!みたいな感じだ。

 「お前、いたのか?」
 「えぇ、最初からいましたけど?」
 「……」

 この教会には、僕とアリスだけしかいないって話はなんだったのか?
 それよりも……

 「行く?行くってどこに?」
 「どこって、何を今更? えっと、王様から英雄として認めてもらうとか、式典があるはずなのですが?」
 「え? ……あぁ、それか、ソレな!」
 「完全に忘れてる人の反応ですよね?それ?」
 「忘れているというか……実は……」

 ごにょごにょ……



 ――数日後――

 「本当に良かったのですか?英雄の称号を貰わなくて?」
 「まだ、言ってるのか? 良いんだよ。称号なんて貰っても、何か変わるわけでもあるまいし」
 「でも、そのせいで皆さんとお別れのチャンスを失ったわけですよ?」
 「……それは少し悔やんでいるけど、どうせ、また会うさ。どこかのダンジョンで……探索者だったらね」

 僕とドラゴンは海の上にいた。正確には、船の上だ。
 あのドタバタ騒動の後、単独で学園に戻ると思っていたクリムまでついて来たのは予想外と言えば予想外だったけど……
 今は、船旅の最中に新しくできた友達とやらの所に行って遊んでいる。

 英雄の称号授与を断って学園に戻れるとは思っていなかったわけで……
 そもそも、学園から卒業するつもりでシュット城に向かったわけで……
 だから、モノトリアムが終わったと……
 本音を言えば、未練たらたらなんだから、考えないようにしてたのに!もう!

 そんな事で頭を抱えていたら、紙が飛んできた。
 他の観客が飛ばしたニュースペーパーみたいだ。
 それを掴んで一瞥すると――――

 『シュット王崩御は何者かによる暗殺か!?事情を知ると思われる、逃げた英雄トーア・サクラの行方に懸賞金も?』
 『王位争奪戦 勝者は第三王位継承権所持者コロロアコロ氏 継承式は異例の翌日に』
 『コロロアコロ氏、初の勅命はトーア・サクラ捜索部隊編成へ』
 『トーア・サクラ捜索部隊部隊長へ オム家の鬼子オム・オント大抜擢か?』

  etc etc

 不穏な一面が飾られていた。

 それを僕は丸めて海へ投げ捨てて

 「騒がしくなるぞ!」

 人目にはばからず叫んでみた。

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