超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

そして、次の日

 「よかろう、英雄の称号くれてよろうぞ。授受は明日の夜!今日は精々、休息を取るがよい!退出を許すぞ!」

 あの後、剣を捨て、僕の腕を掴んだ王は、「次は徒手空拳」で勝負だ!と笑顔で投げ飛ばしてきたのだが――――
 そのエピソードは割愛しよう……

 そんなこんなで、僕は部屋にいた。
 当たり前だが、閉じ込められていた牢獄とは別次元に豪華な客室だった。
 純金製の手錠も外され(少し残念)、用意された衣服も豪華絢爛であり、袖を通すのも若干の恥ずかしさを感じられた。結局、牢獄に入れられる時に没収された服装と装備一式を返してもらい、着換え直した。
 いつの間にドラゴンは姿を消していて1人で馬鹿広い空間を持て余していた。
 ついでに暇も持て余していた。
 僕は装備の整備を行う。無くなっている物は特にない。ダンジョンで使う危険物ですら、そのままだ。
 そこまで信用されても逆に困るんだが……
 最後に短剣を抜く。
 必要があれば、刀身に塗っている古い油をふき取って、油で浸した紙で塗り替えてやるつもりだったが、どうやら、まだその必要はないみたいだ。

 「よう!数日ぶり!」

 そう短剣に声をかけるも、当然ながら返事はない。

 「なんだい?放置された感じになって怒っているか?」

 当たり前だが、返事はない。虚しい。
 ……本当に暇だ。
 やる事がなくなった僕は、王に言われた通りに休息を取ろうとベットに横になる。
 すると……

 「うおっ!なんだこれ!」

 ベットと言う概念が破壊された。

 「すげぇ!体が沈み込む。水に覆われたかのように体に優しいって実感できるレベルだ!」

 あまりの癒し効果で、一瞬で意識が奪われかける。
 まぶたを閉じかけて……

 朝日を浴びるまで熟睡する事になった。


 ―――翌日―――

 僕は実感する。自分の立場を……
 客室から外を見れば、道に渋滞が起きていた。
 この城へ向かう列が水平線の彼方まで見える……ような気がする。
 国の有力者が集まってきているのだ。
 もう暫くすると、さらに諸外国から国賓扱いの方々が集まってくるのだろう。
 この国から新たな英雄が誕生するという事はそういう事なのだ。
 「英雄誕生」という一大イベントのため、僅か1日で情報が世界中に伝達して、続々と授受式の参加者が集まってくる。
 その事実を実感して、今更ながら「ひぇ~」と短い悲鳴が僕の口から漏れる。
 窓ガラスに映る僕の顔は引き攣っていた。 

 「コンコン」とノック音がしてドアの方を見る。
 「はい、どうぞ」と返事をすると、「失礼いたします」と女性が入室してきた。
 メイドさんだ。洗礼された一挙手一投足に見蕩れてしまうほどの身のこなしだった。
 僕の反応を不思議に思っただろうか?はにかむ様な笑顔を見せてくれた。
 思わずドギマギとしてしまう。

 「お友達が訪ねておいでですが、いかがいたしましょうか?」
 「友達?誰だろう?」

 メイドさんから伝えられた名前を聞いて、僕は部屋まで呼んでもらう事にした。
 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品